異世界コンビニ開店

アメリアさんと面接

あれから数日経って、宮廷に上奏された企画書は承認されたらしい。

何回かの詰めの会議を経て、どのようにコンビニを開店するかというプロセスもある程度決まったようだ。

山川さんによるとソフィアさんによっていくつか条件を付けられたということだ。

今のところ決まったのはこんなところらしい……


・こちらの世界でのコンビニ事業に関しては基本的にソフィアさんが監督し、山川さんが実務を主導する

・当分は『箱の家』をコンビニ事業準備室とする

・コンビニで販売する品目についてはすべてソフィアさんによる承認を得る必要がある

・営業時間は3時間からスタート、問題が無ければソフィアさんと山川さん双方の同意の下6時間まで延長する(それ以上は今後の協議で決める)

・こちらの世界と向こうの異世界からそれぞれ1~2名の人材を店員とすること(つまり、それぞれの世界から店員を募集するということらしい)


一時的ではあるけれど『箱の家』は一種の詰め所になった。僕やててさんもこの事業に関わる事になり、

山川さんも『箱の家』にちょくちょく現れることになった。

「山川さんとしてはどうなんですか、この条件は」僕は山川さんに聞いてみた。

「悪くないと思いますよ。ソフィアさんには責任感がありますし、それに何よりも私としてもソフィアさんには納得してもらいたいですからね~」

「向こうの世界から店長や店員を連れてくるんですか?」

「そうです。私の推薦の元、ソフィアさんが面接することになりました」

「なるほど……こちらの世界からも店員を募集するんですね」

「はい、この世界と向こうの世界の架け橋が必要だとソフィアさんは話していましたね」

「誰か立候補する人はいるんだろうか……」そんな風に考え事をしていたところ箱の家のドアが開く音がした。



「面接会場ってここでいいのー!?」ドアの向こうから聞こえたのは聞き覚えのある声。

「アメリアさん!」「あれまぁアメリアさんですわ、こんにちはですわ~」

アメリアさんはソフィアさんのもう一人の被後見人で、僕の姉弟子に当たる人だ。

結構強引な人だけど、悪い人じゃないんだよな。豪快さの中に気品がある……そんな感じの人だ。

「弟弟子くん!引っ越しのときはどうもね!イザベラさん、元気してた?」「してましたわ!」

「アメリアさん……弟弟子はやめてくださいよ」「えへへごめんごめん、でも君の方が年下だからさー」

「うーん、確かにそうなんだけど……ところでアメリアさん、どうしてここに?」

「ここってコンビニ?だかの面接会場なんでしょ?ソフィアさんからは参加してもいいって言われたんだけど」

「ソフィアさんからはなんと?」「山川さんって人と顔を合わせて来いって」

「山川さんなら今ちょうどいますけど……山川さん、こちらはアメリアさんといって僕の姉弟子にあたる方なんですよ」

「はじめまして、山川智恵子です。異世界コンサルタントなんてものをやってます」

「どうも。私はソフィアさんの被後見人で弟子のアメリアといいます。よろしくお願いしまーす!」

「こちらこそよろしくお願いします。それでは早速面接を始めましょうか」と山川さんが椅子に座る。

「異世界コンビニの概要はもうご存じだと思いますが、なぜ店員をやりたいと思ったんですか?」

「面白そうだから!それじゃだめかなー」「いえいえ立派な志望理由ですよ。できればもう少しくわしく理由を聞かせていただきたいですが」

「う~ん……異世界の技術や仕組みとか、この世界に無いものを仕事を通じて知りたかったというのもあるし」

「なるほど。その仕事を通じて何か得られるものがあるかもしれませんよね」

「それともう一つ、これはソフィアさんにも話したことなんですけど」

「ほう、どんなことですか?」「独り立ちしたいなって……」「ほぉ~……」

「私、親がアレで……このままああいう親の言いなりになって生きるのは嫌だなって。年金だけでも生きていけるくらいは一応もらってるんですけど、

でもそれじゃ社会の中で生きている事にはならないと思ってるんです。ちょうど学校を卒業したところだし独り立ちついでに社会勉強をしたいな~って」

親がアレ?僕にはよくわからない話だ……たしかアメリアさんにはお父さんがまだいたと思うけれど、上手くいっていないのかな……

「なるほど~、素晴らしい志望動機ですね!」「ありがとうございます!それで、面接の結果はいつごろ……」

「合格にしちゃいますか!」「えっ!」さすがにアメリアさんもびっくりしている。

「アメリアさんのような人なら向こうから来るもう一人の店員の方ともやっていけそうじゃないかと」

「そ、そっか~……よかった~」アメリアさんはほっと胸をなで下ろしている。

「あっさり決まっちゃいましたね」と僕は山川さんに話しかけた。

「アメリアさんはなかなか面白い人ですからね。きっと上手くやれるでしょう」

「それにしても山川さん、ずいぶんアメリアさんのことを買っているようですが」

「クリスさんだって同じ意見なのでしょう?」山川さんは微笑みながらそう言った。

「それはまあ……はい」

「ならいいじゃないですか。アメリアさんはやる気もありますし、面接も問題なく終わりました。これで決定です」


ということで山川さんはアメリアさんの採用を決めたようだ。2週間ほど研修をすることになるらしい。

「山川さん、研修とは具体的にどんなことをするんですか?」

「そうですねぇ、まずはコンビニ店員としての仕事を覚えてもらう必要がありますし、お客さんの相手の仕方とか、最低限の商品の説明とか、レジの使い方なんかを教えないと……

あ、レジというのはキャッシュレジスターというお金をやりとりするときに使う機械の事ですね」

「話を聞くだけでも大変そうですけどアメリアさんは大丈夫でしょうか……」

「そこは彼女の力の見せ所ですよ」

ずいぶん無茶を言うもんだなあ……

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