頭を抱えるソフィアさん

山川さんが来賓室から去ってから少し時間が経った。

僕は机から動かず頭を抱えるソフィアさんに声をかける。「あのー……」「あ、ああ、すみませんでした。クリスさん。ごめんなさい。少し混乱していて……」

「いえ、よろしいんですけど、結局どういう話だったんでしょう?」「そうでしたね。説明しないといけませんね。」

ソフィアさんは深呼吸をすると話し始めた。

「私たちの世界に異世界の物品を扱うお店が作られると言うことですね」「決定事項なんですか、それは?」

「おそらくそうなりそうです」「根回しされているとは言えまだいくらでもひっくり返せるのではありませんか?」

「そうかもしれませんが、もうここまで話が進んでしまっているので、覆すことが難しいでしょう。

それに山川さんの言う通り、これを私の権限でひっくり返せば魔術師団長をはじめとする異世界の技術を求めるグループがどう動くかわかりません」

「そうなんですね……」「ただ、このままだと本当に私の手に負えない状況になってしまうので、それだけはなんとか阻止する方法を考えなければなりませんね……」

「……ソフィアさんは異世界の技術がこの世界にやってくることが嫌なんですか?」

「そういうわけではありません。私としてはこの世界がもっと発展してほしいと思っています。

ですが、急激に異世界の高度な技術が世の中に溢れれば社会に多大なるダメージを与えてしまうでしょう」

「それはどうしてでしょう?」

「急激な技術革新や情報爆発によって社会秩序が乱れることは向こうの世界の歴史が証明していますし、なにより流れてくるのは技術だけではない、ということです」

「技術以外のものが流れる、ということですか?」

「はい。例えば異世界の先進的な思想や哲学、そして文化までがこの世界に流れ込んでしまうかもしれないのです……

もっとも、先進的な考えや文化がすべて良いものとは限りませんし、そもそも異世界の科学技術文明が私たちの魔術文明よりも勝っているとも私は思いません」

「しかし、異世界の技術が無秩序にこの世界に溢れるのだとすると僕たちはひどく混乱してしまいますね……」

「そうです。ですが、最悪そうなってしまうかもしれないリスクを負ってでもこの提案を受け入れるべきかどうか、そこが問題です」

「……ソフィアさんはどうしたいのですか?山川さんに協力すべきなのかそうでないのか……」

「そうですね、協力するべきかしないべきか……うーん、難しいところですね。しかし、もはや無視するわけにはいきません」「なぜでしょうか?」

「すでに彼女のようなこの世界と異世界を自分の意志で行き来するような人間が現れてしまったからですよ。

私がここで止めれば彼女は私以外の宮廷の誰かに企画を主導させ、無軌道に異世界の技術が流れていくことになるでしょうし、

私がここで異世界の技術を欲しがる人々ごと彼女を排除すれば最悪暴動だって起こってしまうかもしれません」

「つまり、情報や技術の流れるスピードを良い感じにコントロールしたい?」

「まぁ、そういうことになりますかね。無法図に流れるよりはこちらでコントロールできた方がいくらかマシでしょう……

急激な社会の発展による社会の不安定化だけは絶対に避けたいですからね」

「そうですか……それなら、僕も一緒に考えさせてください!」「へ?クリスさんが?何を?」

「はい!山川さんじゃありませんが、『この世界に足りないものを補っていきこの世界の人々を幸せにする』ためにより良いやり方はないか、僕もこれから考えたいと思います!」

「ふふふっ、やはりクリスさんは優しいですね。わかりました。ぜひ、ぜひお願いしますね。

私はこれから宮廷に奏上するための準備を行わなければならないので準備のために部屋に篭もります」

「えっ」「クリスさんは2~3日自宅待機ということでいいですよ。必要があればこちらから連絡します」「りょ、了解しました」

「それじゃあ、また後日」「はい、失礼いたします」

ソフィアさんが来賓室を出ていった後、僕はあっけにとられた面持ちで箱の家に戻ったのだった……

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