異世界コンビニ計画

【異世界にコンビニを開店させませんか】

究極のブルーオーシャン、異世界でコンビニを経営しませんか?

異世界の地域活性化にも繋がるやりがいのあるお仕事です!

あなたの経験を活かすチャンスです!

説明会にぜひご参加ください!

第一回説明会は……


「……なんですかこれは」ソフィアさんは半ば呆れた顔で書類を眺めている。

「コンビニ経営の経験がある方に送信したダイレクトメールです。異世界にコンビニ店舗そのものを転送することも可能なんですよ。そうすれば異世界に出店できると思いまして」

「ほうほう、先日の学校の件はその実験だったと」「はい、おかげさまで実験は成功しました。」

「ふざけんな!!」ソフィアさんが声を張り上げる。

「この世界はゴミ捨て場でも実験場でもありません!山川智恵子なんて名前もわたしを動揺させるための嘘なんでしょう!!あなたは何者で、何のためにここに来たのですか!?」

「私が異世界コンサルであるのは事実です」山川さんは淡々と答える。

「それは自称でしょうが!なぜここに来たのか答えてください!」

「先ほどから説明しているとおり、こちらの世界にコンビニを開くためです。」「そんなものを私が許すと思っているのですか?」

「まあまあ、落ち着いてください『宮廷魔術師』ソフィアさん。」山川さんは挑発的に微笑む。

「私が何者かなんて事はこの際どうでも良いことなのです。名乗れと言われたから名乗ったまでなんですから。

校舎の件については私が責任を持って後日別の場所に転送しましょう。それよりもあなたは考える必要がある」「何を!」

「異世界の技術を求めるこの世界の一部の人々の不満をこれ以上放置するのか、という問題をですよ」

「ぐっ……」ソフィアさんは何も言えず黙り込んでしまった。

異世界の技術を求めるこの世界の人々の不満……?そんなにみんな異世界の技術を欲しがっていたんだろうか?

そんな風に考えていると山川さんが口を開いた。

「事情を知りたそうなクリスさんのためにも説明しますが…先の大戦で異世界からやってきた人々の一部がその力と技術によってこの地域を制圧しようとしたことはご存じですよね?」

「はい、祖父から聞いたことがあります」

「そういうわけでこの国では異世界からやってきた人や技術が厳しく管理されているわけですが、

魔素や魔力に依らない異世界の科学技術がこの世界にとっても魅力的なのはクリスさんも理解できることではありませんか?」

「はい……」

「だからこそ、私の『企画』に需要があるのです」山川さんは続ける。

「確かにこの国の人たちの中には異世界の技術や力を忌み嫌う人もいます。しかし一方で異世界の力を利用したいという願望も人々の中にはあるんです」

「その両方の感情を充足させるための手段が異世界のものを取り扱うコンビニという店だと山川さんはおっしゃりたいのでしょうか?」

「その通りです。そして私がその窓口となるということですね」山川さんは胸を張る。

「なるほど、理解できました。つまりあなたの目的は……」

「私の目的は異世界コンビニというプロジェクトを通じてこの世界に足りないものを補っていき…この世界の人々を幸せにする、と言うところですかね!」

「素敵なお話ではありませんか、ソフィアさん!」

「そんなきれいごとを信用してはなりませんよ、クリスさん!」ソフィアさんが声を荒げる。

「なぜですか?ソフィアさん」山川さんが尋ねる。

「この世界の人々を幸せにするためと言っておきながら結局はあなた自分の利益にしか興味が無いのではないですか?」

「いいえ、それは違います」山川さんは首を横に振る。

「異世界コンビニを開けばこの世界の人々に少しずつ異世界の技術が浸透していきます。上手くいけばこの世界に科学技術文明を根付かせるきっかけになるかもしれません。

そうすればこの世界の一部の人々が抱えている不満を軽減させることもできるはず…」

「そんなうまくいくとは思えません」ソフィアさんは反論する。

「それに、その計画には大きな欠陥が存在しています。」「ほうほう、それは?」山川さんは不思議そうな顔をしている。


「まず、異世界コンビニというものをどうやって実現するつもりなのですか?あなたの話を聞く限り異世界のコンビニを店ごと転送はできるでしょう。

ですが物と人はどうやって調達するのですか?一回だけの特別なイベントであれば別ですが、定期的に物も人も調達できる仕組みで無ければならないでしょう…

少なくとも最初は向こうの文明との接触はできる限り無くす必要があります」

「もちろん問題はありません。そのために私が居るのですから」山川さんは不敵に笑う。

「具体的に山川さんはどうやって物と人の流通問題を解決するのですか?」

僕は疑問を口にしたが、山川さんには自信のある解決策があるようだ。

「簡単な話です。コンビニをこちらに移動させてから、コンビニの裏口から私の世界に移動できるように設定すれば良いのですよ。

裏口から品物や人を行き来させることができれば問題が無いと思いますよ。異世界文明との接触問題も同時にある程度解決できますしね」

「そんなことができるんですか!?」僕は驚く。

「もちろん可能です。すでに箱の家にも似たような仕組みはあったと思いますがね」

そう言われて僕ははっとした。箱の家に電気や水道といった異世界の都市インフラが通っているのはその技術の応用なのではないだろうか?

「つまり箱の家も山川さんが作ったのですか?」「いえいえ、そんなことはありません……しかしそういった技術をもつ異世界異文明もあるという話です」

「なるほどなあ……」山川さんは感心している僕に微笑むと、ソフィアさんの方を向いて言った。

「大きな問題点は今のところ無いはずです。どうでしょう、ソフィアさん」

「まだ問題点が無いと言い切れないとも思いますが……今は置いておきましょう。しかしこの企画を通すわけにはいきません」

「なぜですか?」

「異世界の技術を解放するにはそれなりの段階を踏む必要があるはずです。私はまずこの世界の人々と異世界の技術との間に信頼関係を築くことが重要だと考えます。

いきなり全てを解放してしまっては混乱を招くだけでしょう」

「なるほど、そのお気持ちはお察ししますよソフィアさん。でもその考え方では遅すぎると思うんですよね」

「どういう意味ですか?」ソフィアさんが山川さんを睨みつける。

「次の陛下への謁見で今回の企画が奏上されなかったらどうなるか…おそらく異世界コンビニ計画はあなた以外の誰かが主導となって進められることになるはずです。

あなたに企画のコントロール権が渡されなかった場合、異世界の技術のコントロール権もなし崩し的にあなたの管理下を離れることになるでしょう。

そうなれば、この世界で異世界の技術が誰かに占有悪用される可能性が高まってくるのではありませんか?」

「……今までどれだけの閣僚氏族にこの企画を持ち込んだのですか?」ソフィアさんは再び山川さんを睨みつける。

「今日まで私が何の根回しもせずに箱の家に赴いたとお思いですか?実はこの企画書の内容は秘密裏に大臣や氏族など、主要な閣僚方にはすでに共有しているのです。無論非公式ですがね」

「つまり、外堀はもう埋めてあるというわけですね?あの校舎は私にそれを気づかせないための陽動だったということですね?」

「そういうことです。もう私をどうにかしたところでこの『企画』は止まりませんよ。もっとも今ここで私が排除された場合どのようなことになるかはわかりませんが」


ソフィアさんはしばらく黙っていたが口を開いた。

「あなたの話はわかりました……少なくとも宮廷に奏上する必要があるということは理解しましたよ」山川さんはそれを聞くと笑顔になった。

「一応質問するのですが……魔術師団長には接触しましたか?」「ええ、彼からは全力で支援するとのお言葉をいただきました」

「そうですか……もう簡単に止められる段階でない、と言うことになりそうですね…」ソフィアさんの言葉を聞いた山川さんはニヤリと笑う。

「ええ、ですが最後にもうひとつ……いやもうふたつだけ聞いておくことがあるんです。」ソフィアさんも山川さんに質問する。「なんでしょう?」

「山川智恵子を名乗る人間はあなたや私以外にも存在するんですか?また、あなたの世界にはあなたのように異世界を行き来できるような人間はどれだけいるのですか?」

「ひょっとしたらソフィアさんは『たくさん』いるんじゃありませんか?私が言えることではありませんね。話しちゃいけないことって、たくさんあるらしいんですよ」

「ふ~ん……もう少ししっかりした情報をいただきたいところですね」ソフィアさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

山川さんは笑顔のまま続ける。

「少なくともこの世界に接触する外部の『ソフィアさん』は今のところ私だけです。そこは信用していただきたいですね」

「わかりました。それではこの件は一旦保留としましょう。ついでもうひとつ、質問がありますが……」

「ずいぶんよくばりですねぇ」山川さんが笑う。

「あなた以外に異世界を行き来できるような人間はあなた以外に存在しますか?あるいは、これから現れる可能性はありますか?」

「さあ、どうでしょうか。私は私の能力の範囲内でしか行動できませんので、わからないというのが正直なところです。

しかし、もし今後そのような人間が現れたとしても、私の責任で排除することはお約束いたします。」

「そうですか……わかりました。では、この企画書を宮廷に奏上いたします。これから準備が必要なので本日のところはこれでお引き取りください」

「ありがとうございます。そうさせていただきましょう。」山川さんも一礼すると応接室から出ていく。

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