異世界コンサルタントソフィアさん

訪問者・山川智恵子

 結局その後の国による本調査においてもめぼしいものは見つからなかった。

わかったことは、あの建物が作られてから60年を超えるとても古い建物である…ということくらいだ。建物の強度検査を行って問題があれば取り壊すのだという。

 また、対空間転移結界がしばらく宮廷や城下町周辺に展開されることになったので引っ越し業者の方々は大変だったと思うけれど、アメリアさんの引っ越しを手伝わされた僕もずいぶんへとへとになってしまった。


 あれから変わったことが何も無く、僕はなんだかモヤモヤした気持ちを抱えながら箱の家で休日を過ごしていた。

「犯人の動きがありませんね、ててさん……」

「校舎を送ってきたのはやっぱり実験とか気まぐれの類いだったのかもしれないよなあ…」

「なにもないことは良いことではありませんの?」

「確かにそうなんだけど、なんかこう、ちょっと釈然としなくて……」


そんな話をしている時だった。

コンコン!家の扉がノックされる音が聞こえた。

「あれま!誰か、誰かですわ!」

イザベラさんが嬉しそうに飛び跳ねる。

「誰だろう、休日なのに……」

「犯人だったら面白いんだけどな」

「はい、どなたですか?」

ててさんの言葉を真に受けるわけでは無いけれど、僕は少し警戒しながら玄関に向かって呼びかける。


 すると「お初にお目にかかります。私は異世界コンサル業をしている山川智恵子と申します」

と名乗る声が返ってきた。

(異世界コンサル??)僕は混乱して、一瞬言葉が出なかった。混乱した僕はついドアを開けてしまう。ドアの向こうには不思議な格好をした女性が立っていた。明らかにこっちの世界の服装では無い。


 彼女は僕を見て微笑むと、

「改めてはじめまして。異世界コンサルタントの山川智恵子です」

と言った。

「あの、失礼ですがあなたはいったい……」

「ああ、これは失敬。申し遅れました。私はここのような世界をさらに素晴らしいものとするためのお手伝いをしています。」

「はぁ……」


 僕は彼女の言っている意味がよくわからなかった。露骨にうさんくさいけれどこの人は何をしたいんだろう?どうして箱の家にやってきたんだろう?

「それでこちらに来た理由というのは……」

「はい、宮廷魔術師であるソフィアさんにお取り次ぎしていただきたく」

「ソフィアさんに!?」

と思わず大きな声を出してしまう。

だって相手は明らかに異世界から来た人間じゃないか!! 僕の驚いた表情を察したのか山川さんは説明を始めた。

「ああ、別にこの世界に危害を加えようというわけではありませんよ」

「ではなにが目的なのでしょうか?」

「詳細はソフィアさんとの謁見で説明するのですが……」

山川さんはそう前置きすると続けてこう言った。

「簡単に言えばこの世界で異世界のものを扱うお店を開くのに必要な許可や条件等についてお話をしたいということです」

僕は困惑しながらしどろもどろに「そ、それは確かに僕の一存ではどうしようもないことなのできゅ、宮廷にご案内いたします」と答えるしかなかった。


「あらま、ちーちゃんですわぁ!こんにちは!ですわ~」

ててさんを頭に乗せたイザベラさんが山川さんの顔を見ると目をキラキラさせて駆け寄っていった。

「あらイザベラさん、元気でしたか?」「ですわー!」

山川さんも優しい笑みを浮かべるとイザベラさんの頭を撫でている。

え?なんでイザベラさんは山川さんという人のことを知ってるんだ?

「イザベラさん、どういうこと?」

「この前にわたくしがおさんぽに行った時、ちーちゃんとお話しをしたのですわ!お食事もごちそうしていただきましたわ!」

「そうだったんですか……」

僕は少し驚きながらも納得する。

イザベラさんはいつも異世界に「おかいもの」や「おさんぽ」に行っているらしいから、そのときに出会ったんだろう。

「イザベラさん、そんなことがあったのか…全然知らなかった……」

ててさんはだいぶ驚いているようだ。

ててさんも「おかいもの」によく付き合わされているらしいけれど、ててさんがいないときに山川さんに出会ったということなのかなあ…


「とにかく、僕は山川さんを客人として宮廷にお連れします。ててさんとイザベラさんは留守番、よろしくお願いしますね」

「わかりましたわぁ~!」

「気をつけろよクリス!」

2人が返事をするのを聞いてから僕は山川さんを連れて家を出た。


 山川さんと一緒に家を出て、宮廷に向かう。

「ところで山川さん、どうして直接宮廷でなく箱の家に来たのですか?」と歩きながら聞いてみる。

「将を射んと欲すればまず馬を射よ、ということわざもありますからね。馬はもうみーんな倒れてしまいました」

「え、それはどういう……」

「まあまあ、すぐにわかることですよ」

「そ、そうなんですか……」


 この人は何を考えているのだろう…全くわからない。僕の頭の中はひどく混乱していた。もっとも、後から考えたらこれも彼女の策略の一つなのだったのだろうし、そもそも彼女はこの時点ですでに目的をほとんど達成した後だったんだ。


 かくして僕は山川さんを客人として宮廷に連れてきてしまった。

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