あなたとなら

 私は保健室で彼の愛おしい寝顔をずっと見ていた。彼の意志で救急車を呼ばないで欲しいと言うことで、彼は保健室で寝ている。彼は私のために最低限の人を入れないで欲しいとも言っていた。私のために二人きりの空間を作ってくれたのだ。

 寝ているあなたに口づけをせずにはいられずに私は唇を合わせてしまった。気がつけば、首元に顔が行っていた。途端にあなたは目を覚まし、私は慌てた。だけどあなたは私の顔を右手でそっと近づけ、「大丈夫。これからもずっと。」と言ってくれた。

 あなたは私に聴いてきた。

「これからどこに行きたい?」

私はあなたとならどこでも良いと応えた。

「じゃあ国内だったら?」と返してくるのでわたしは、どこでも良いと言った。

「それが国外でも?」と更に返してくる。私が頷くと彼は言いはじめた。

 「国内なら伊豆か山形かな。伊豆であなたと海をみて、山形であなたと蔵王の山をみて圧倒されたい。」

 「国外だったらイタリアに行きたい。イタリアに行って数々の教会、フィレンツェの街並みをみて、巨匠達の気持ちをあなたと一緒に知りたい。」

 私はあなたの言葉に力強さと夢、希望を感じ取った。けれど、あなたはやっぱり今の無しだなんで言って、私は暗いを顔をせざるを得なかった。そしてあなたは、私の頭に口元を当てて言う。

 「やっぱり、あなたとならどこへでも行ける。あなたとならどんな日常の景色でも、絶景に観える。あなたとなら…」

 わたしはだいぶクサい台詞につい笑ってしまった。私はいま幸せなんだと感じた。

 この幸せがずっと続けば良いのに…

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