第8話 サミット会議
次の日。
世間では、もうすぐゴールデンウィークが折り返しにくる頃だが、隣で何やら道を教えているミクを尻目に、俺は、昨日のアヤメの様子を思い出していた。
例えば、仕事の話ーー。それなら、あいつの場合、眉をへの字に変えて、舌打ちなどをするだろう。
だが、あの時のあいつの顔は、苦痛に歪んでいた。
まるで……連絡が来て欲しくなかったかのような。
「お待たせしました先輩! 外国の人に道を教えるのって、緊張しますよね~。なんとか、理解してもらったと思うんですけどって、どうしました? 怖い顔してますよ?」
「うん? あぁ、悪い。少し、考え事をしていただけだ。それにしても、テメェもこりない奴だな。あれは、警察にでも任せておけばいいだろうが」
ついつい、顔が強ばってしまったらしく、ミクがおそるおそる話しかけてきたため、すぐに平常運転へと切り替える。
今は、とにかく人造人間の暴走に注意を向けないといけない。
この件は、帰ってからきいてみればいいことだしな。
などと、ミクの頭を軽く小突いていると、何やら叫び声が届いてくる。
「でやがったか。行くぞミク」
「あっ、はい!」
声のした方角からして……おそらく、大通りだな。
すぐさま駆け出した俺と違い、アワアワしつつ後ろを走ってくるミク。
チッ。やっぱり、まだ瞬発力が甘いな。
おそらく、魔導兵装の扱いがまだ慣れてないからだろうがーー。
ここで、あいつの足に合わせていたら、被害が広がる可能性がある。
そのため、一度後ろへと視線向けた俺は、再び前へと戻し、人混みの中を最小限の動きで突き進む。
「おぉぉぉお! 俺は、お前らの操り人形じゃーなーい!!」
「キャー!!」
そうして人混みを抜けると、何やらピエロのような格好をしている人造人間が、狂ったかのような声をあげつつ、女性の首を両手でもって締め上げていた。
あの様子だと、首の骨を折られることはないと思うがーー酸欠になってしまう。
なので、すぐさま飛び出した俺は、刀を抜刀しつつ火炎剣、四式を放つ。
「火炎柱!」
人々の混乱を増やさないために、俺は、なるべく純度を高くしつつ、なおかつ接触する瞬間にのみ、炎を引き出す。
すると、まるでバターのように人造人間の両手を肘から切断すると、女性は、地面へと尻もちをつきつつ落下する。
よし。これで、最悪の事態は、回避できたな。
「おぉぉお!! やっ、やったな! やってしまったな! 人間! 人間!!」
「……」
正眼に刀を構えつつ、背後に座り込んでいる女性へと一瞥をおくった俺は、すぐさま人造人間へと視線を戻す。
彼女には、目視で見たところ目立った外傷は、特になかった。だが、腰が抜けているのか、一向に動く気配はない……。
であるならば、こいつは、無力化しないといけなくなる。
「知っているぞ! お前、お前!! 永世光和組の人間だろ!!」
「落ち着け。まずは、話し合いをーー」
「殺してやる!!」
バッ! と、その場で跳躍した人造人間は、俺の静止をきかず、顔めがけて飛び蹴りを放ってくる。
ので、タイミングを合わせつつ刀でその攻撃をはじくと、地面に着地するや、加減する気がないほどの連続の蹴りを放ってきた。
こいつ!?
「ちょっ、すいません! 退いてください」
刀を垂直に立てつつ、その連続攻撃を捌いていると、幼い声が俺の耳へと届く。
どうやら、ミクがやっと到着したらしい。
「ミク! そこにいる女を、今すぐ下がらせろ! それと、誰も近づけさせるな!」
「うぇ!? 待ってください先輩! 無闇に斬るのは、ダメですよ! まずは、会話で」
「バカ野郎! 状況を見てから、言いやがられ!」
と、顔側面を狙って放たれた蹴りを、すぐさましゃがんで避けた俺は、数本宙に舞った自分の髪の毛を見つつ、覚悟を決める。
「火炎剣、一式」
「先輩!」
俺を静止するための声が、周囲に響くが、かまわずに刀をピエロの首へと通す。
ーー炎武。
スッパリと、人造人間の顔が胴体から離れると、数回地面をバウンドしつつ、ミクの目の前へと転がる。
「おっ、おのれ。人間が。にん……げん……が」
と、最後に呟いた人造人間は、それっきり口を開くことがなくなり、主を失くした胴体も、崩れるようにその場へと倒れる。
「……せっ」
「警察の者です。全員、すぐさまこの場から離れてください。人造人間が、再度動き出すかもしれません。さぁ、早く離れてください」
自分の足元へと、転がってきたモノへと視線をおとしつつ口を開いたミクを、わざと無視した俺は、すぐに人々をハケさせる。
本当の身分ーー永世光和組のことをここで言ったところで、人々には、それほど効果がないからな。
こういう時は、警察の身分が助かる。
「ミク。とりあえず、話は後にしろ。今は、ここから人々を退けさせることが先だ」
「でも!」
バッと、顔を上げたミクに対して、俺が無言でその目を見続けると、悔しさとーー少し、軽蔑の色を混ぜた瞳で、その場から立ち去ってしまう。
……ハァ。仕方ない……か。
と、自分に言い聞かせた俺は、一人でもってその場を収めるのだった。
俺が人々を遠ざけていると、しばらくして警官が到着した為、その場を任せた俺は、とりあえずミクを探すことから始める。
がーーさて、どうしたものか。
仕事的には、放り出してどこかに行ったのだから、叱るのが普通だろう。
だが、今回は、事情が事情だ。
あいつに付き合うと言ったのは、他でもない俺の意思。
それを、目の前で斬って捨ててしまったわけだ。
それは、逃げたくもなるだろう。
それに、しっかりしているとはいえ、まだ14歳だしな。
などと、俺が対応を決めかねていると……意外と簡単に見つかった。
というより、それほど遠くに行っていなかったらしく、自然公園の前で座り込んでいやがった
その背中がーーなぜか、いつもより小さく見えてしまった俺は、とりあえず叱る選択肢を、後回しにする。
「ミク。ここにいたのか」
「……すいません。逃げ出してしまって……」
あぁ、自覚はあったわけ。
「まぁ、その話は後にしよう。それより、お互い誤解があるはずだ。それを解決しようぜ」
「いいえ。先輩は、悪くありません」
と、俺が提案をしつつ、歩きだそうとすると、なぜか小さな頭を左右に振ったミクは、俺が悪くないと言ってくる。
「……なんで、そう思う?」
「ーー私が、弱いからです。アイリちゃんの時だって、私がもっとうまく立ち回れていたら、彼女を救えていました。それに、この前の作戦だって、一人で空回りしていましたし、今回だって、もっと私が先輩についていけるレベルになっていたら、先輩があんな手段を取ることもなかったはずです」
だから、先輩は、悪くありません。
と、鼻をすすりつつそう言うミク。
こいつ……今までのこと、気にしていたのか。
性格からしてアイリの件は、引きずっているとは、俺も予想していた。
だが、それ以外のことも気にしていたとは、思いもしなかった。
あまりの事態に、俺もどうするべきか数秒迷ったがーーとりあえずこのまま話していると、通行人や家族連れに変な視線を向けられるので、少し強引にではあるがーーミクを立ち上がらせつつ、近場のベンチへと二人して腰をおろす。
「その……なんだ。気にすることでもないだろう。お前は、まだ入隊して一ヶ月しかたってねぇんだ。そう考えれば、覚えは良い方だ」
「……」
……気まずいな。どう対応していいのかわからん。
「それに、あれだ。今回の件は、その……相手の様子がおかしかったから、俺も斬るしかなかったんだ。だから、別に斬りたくて切ったわけじゃねぇーーていうと、また自分のせいとか言うのか?」
「……はい」
「はいって……」
どんだけ、自分を追い込んでんだよこいつ。
いや、でもこういう時期は、誰にでも来るものか。
よくよく思い返せば、今より力がない時は、よく俺も落ち込んだものだ。
あと一歩足が多く出ていればーーあとちょっと、力があればーー。
そんな後悔の連続で、多くの命を失ったし、大切なモノも落としていった。
でも、その糧があるから今の俺があるし、何より二度と取り戻せないと思っていた大切なモノを、こいつが俺に拾って見せてくれた。
……仕方ない。ここは、見よう見まねでやるか。
「人の成長スピードは、必ずしも平等ではない。しかし、諦めなければ、目的の物は、誰にでも手に入れるチャンスがある」
「へっ?」
目をつぶりつつ、昔教えてもらった言葉を、可能な限り再現して口に出すと、隣のミクから、すっとんきょな声が聞こえてくる。
「俺とお前、アヤメに副長ーーみんな、それぞれ成長スピードは、まったく違う。どれだけ努力しても、強い奴は、先に行っているし、逆に強かった奴がいつの間にか弱くなっていたりする。それが、成長って奴だ。だから、目標に向かって諦めず走っていれば、いつか追い付く日が必ずくる」
「……先輩」
と、何やら感激したような声色だったので、目を開けた俺は、気恥ずかしさもあり、ミクの額をとりあえず人差し指で突っついてやる。
「かっ、勘違いするなよ。これは、俺の言葉じゃねぇ。俺に色々教えてくれたーー姉のような人が教えてくれた言葉だ。俺だって、最強無敵な人間じゃないからな……今のお前みたいに、落ち込んだことだって、数えきれないほどある。そんな時は、その人にいつもこの言葉を教えてもらってたんだ」
「姉のような人ーーですか?」
「あぁ。俺だけでなく、永世光和組隊士の中でも、そう思っている人は多くいるほど、影響力があった人だ」
そう、あった人だ。
「その人は、そのーー」
「……まぁ、そういうことだ。それに、何を落ち込んでいるのかわからないが、お前は、既に俺にはできないことを発見しているんだぞ」
と、確信がまだなかったので、もう少し調べてから教えようと思っていたのだがーーそれを、ここで口にすると、やはりというか、目をパチクリさせつつ首を傾げるミク。
「私が、発見ですか?」
「そうだ。確定じゃないから、なんとも言えないが、可能性としての話だ。いいか? 今まで出会った人造人間を思い出してみろ」
そう、今まであった人造人間。
タロウに、アイリちゃん。タイプ356と先ほどのピエロ達。
そして、アダム。
それらと関わってきた俺は、ある共通点を見つけ出していた。
「まず、この前のタイプ356番とアイリちゃん。この二人には、ある共通点がある。何かわかるか?」
「えっ。うーん、良い人?」
ハッ。良い人って。
まぁ、こいつの中では、人造人間も俺らと変わらないのだろうな。
「そうだ。状況はどうあれ、比較的意志疎通ができていたし、自分から望んで人間を傷つけている奴らじゃない」
「はい。それは、そうですね。アイリちゃんも、ご両親が好きだって言ってましたし、タイプ356番さんも、つい店主さんを殴ってしまったって後悔していました」
「そうだ。そして、次にアダムと先ほどのピエロを思い出してみろ。何かが共通してないか?」
「うーん……」
と、先程のより難しいのか、しばらく考えるミク。
本当なら、タロウと先ほどのピエロの方がわかりやすい例だったのだが、こいつは、タロウを直接見てないからな。
それに、アダムの場合は、少しアイリちゃん達に近いところがあったから、逆に難しかったか。
「正解は、人間への憎悪の大きさと、意志疎通が、完全には、できないところだ」
「えっ? 人間への憎悪は、わかりますけどーーアダムとは、意志疎通できていましたよね?」
「あいつはーー自分で例に出していてなんだが、少し特殊だな。自分の意思で人間を傷つけているし、何よりふざけた目的があるらしいからな。それよりも、先ほどのピエロタイプだがーーあいつは、はっきり言って、まるで俺の声を無視していやがった」
「無視?」
「そうだ。静止もきかず、ただ目の前にいる人間を殺そうとする意思しかなかった気がする。思い返して見れば、俺が戦ってきた中にも何人かそれに該当する奴らがいた」
はっきり言って、ミクに合うまでは、暴走した人造人間は、全て切り捨てる以外の考えが思い浮かばなかった。
だからこそ、この二つの共通点を、まったく気づけなかったのだ。
「理解しようとせずに人間を傷つける人造人間と、理解しつつも人間を傷つけてしまった人造人間ーー。どちらも、端から見れば暴走している人造人間に変わりはないが、根底は、まるで違う。もし、この仕組みが何かしらの要因で引き起こされているモノだとしたらーーノーベル賞ものの発見だ」
と、俺がポカーンとしているミクにそう言うと「で、でも、それは」と、なぜか否定的な声を出してくる。
ので、言葉の途中で、その頭をグシャグシャとしてやる。
「ちょっ!? 何するんですか!」
「つまり、お前は、役立たずでも足手まといでもねぇってことだ。わかったか? このクソガキ」
「こっ、言葉で言ってくださいよ! わざわざ髪の毛をグシャグシャにしなくてもいいじゃないですか!」
がうっ! と、俺の手にかみつくように飛びかかってきたミクに対して、すぐさま立ち上がって回避してやる。
「ハッ! かみつく力があれば、もういいだろう。とっとと、見廻りに戻るぞ。第一、任務中に現場から逃走するなんて、あり得ないーー」
『つづいて、次のニュースです。三年毎に開催されている世界オートマタ協定のサミットが、日本で行われることになりました』
などと、頃合いかと思い現場から走り去ったことを叱ろうとした矢先、街頭テレビのニュースキャスターの声につられたらしく、俺からミクが視線をはずしてしまう。
こ、こいつ!!
「おい。どこ見てやがる? よそ見して「「先輩、サミットってなんですか?」」あん?」
サミット?
ミクの唐突な質問に対して、俺が首を傾げると、街頭テレビの方を指でさすミク。
なので、俺もつられて見てみるとーーあぁ、世界オートマタ会議のことか。
「サミットて、世界オートマタ会議のことかよ。そういえば、今年は日本で行われるらしいな。くそめんどくせぇことに、俺らも駆り出されるかもな」
「その、世界オートマタ会議ってなんですか?」
はぁ?
こいつ、世界オートマタ会議も知らねぇのかよ。
「冗談だろお前。テレビくらいガキの頃に観てたはずだろ? そこで知っててもいい内容だぞ」
てか、オリンピックくらい有名だしな。
「むぅ。そんなこと言われても、いつも小さい子達の為に、アニメとか観てましたから、わからないんですよ!」
と、常識と言ってもおかしくない世界オートマタ会議について、本当に何も知らないのか、頬を膨らませつつ顔をそむけるミク。
小さい子ーーつまりは、施設にいた幼い子ども達のことか。
なるほどね。こいつくらいの年齢になると、観たい番組も、年下に譲ることになるのか。
くわえて、ドがつく程のお人好しだから、余計に知らないと。
ーー仕方ない。俺らの職業的に無関係じゃないからな。ここで、軽く教えてやるか。
「人造人間が暴走しているのは、日本だけじゃなく、世界的に起きていることは、お前も知っているだろ?」
「……はい」
「おい、むすくれるな。とまぁ、暴走が世界的に起きているのなら、人造人間の生産量や能力などに、国々で差ができるとヤバいだろ?」
「? ダメなんですか?」
おっ、おいおい。
バカ野郎が、本気かよ。
「当たり前だろ。多く人造人間を勝手に生産なんてしてみろ。暴走した場合の対処ができなくなって、最悪の場合人造人間に国が乗っ取られるなんて、可能性がでてくるだろうが。そこに輪をかけて、高性能なんてなってみろ。それこそ、人類消滅だぞ?」
「あっ、なるほど! それで、あのサミットとかいうので、人造人間のことについて、世界各国の偉い人が集まるんですね!」
ポンッと、両手を合わせつつ、理解したかのように頷くミク。
なのだがーー間違いではないが、微妙に違うな。
「世界各国の偉い人が、集まるわけじゃない。あのサミットには、世界的に人造人間を生産している会社の社長が集まるんだよ」
「会社の社長ですか?」
「そうだ。その中でも、主に五社くらいが有名なんだがーーまぁ。それは、また次の機会にでも教えてやる。だから、そろそろ見廻りに戻るぞ」
と、俺が話を打ち切ると同時に、ニュースキャスターのある言葉が耳に入ってきてしまった為、立ち上がるミクから視線を外した俺は、街頭テレビのモニターへと注目してしまう。
『では。ここで世界でオートマタ生産量の三割を保有している株式会社、天道コーポレーション社長。沖田ユリさんにお話をきいていこうと思います。それでは、よろしくお願いします』
『ーーはい。よろしくお願いします』
と言いつつ、画面上で会釈したのは、黒髪ロングで、切れ長な目を持つ若い女性。
あの人ーー。
「どうしたんですか? 先輩」
「……珍しいな。あの人が、メディアに顔を出すなんて」
「あの人? あれ? あのテレビの人って、なんか隊長に似ているようなーー」
『沖田社長は、実に9年ぶりの参加になりますがーー。それは、何かしらの重大発表があってのことでしょうか?』
『いいえ。特に、重大な発表があるわけでは、ありません。今までは、少しタイミングが合わないことが多かったものですから』
と、淡々とニュースキャスターに返すユリさんを見ていた俺は、そこで、やっと今朝から考えていたアヤメの件に、一本の道のように答えが繋がる。
ーーたしか、今年は、日本でサミットがおこなわれるって話だった。
それは、つまり。ユリさんも、日本に帰ってくるということだ。
……あの電話は、それを教えるためのものだったわけか。
「チッ。めんどくせぇな」
「あの、先輩。もしかして、あの人ーー」
「あぁ。あれは、アヤメの母親だ。本社があるアメリカに居座っていたはずなんだが……また、変な時期に来やがったな」
「ほぇ~。やっぱり、そうなんですね。すごく、若いし美人な人だな~」
ほぉーと、口を開けつつモニターを凝視するミクと違い、俺は、これからのことを思うと、ため息がでてしまう。
あの二人は、決して仲が悪いわけではないのだがーーとにかく、相性が悪いのだ。
なので、あの人がアヤメと会話などをすると、決まってアヤメの機嫌が悪くなってしまい、続いて俺がサンドバックになってしまうという、最悪の流れるに繋がってしまうのだ。
ーーいや。へたしたら、今回は、隣でアホ面しているこいつに向く可能性もあるな……。
結局、どのみち最悪ってことかよ。
『なるほど。さすがは、天道コーポレーションの社長ということですね。聞くだけで、多忙さが伝わってきました。えー。それでは、ここで私達が一般の方々に独自調査した結果、一番多かった質問を、ぜひ沖田社長に答えてもらいたいと思うのですがーーよろしいでしょうか?』
『もちろん、構いません。私の答えられる範囲で、ですが』
『ありがとうございます。それでは、一般の方々で一番多く声の上がった『『人造人間の暴走について』』なのですがーーやはり、世論的には、暴走の解明と対策に対して、かなりの不安があるようです。その辺、天道社長は、どうお考えでしょうか?』
『はい。国民の皆さんの不安は、当然のことと思います。しかしながら、今現在の社会的な状況下から見ても人造人間の存在は、私達のライフサイクルには、必要不可欠です。ですので、私達人造人間の生産会社としては、最新鋭の研究を日夜続けておりますし、暴走に関しても、設計段階では、必ずおきないように予防しております。ですが、それでも国民の皆様に不安が出てしまう……それは、何故か? 私は、こう考えています』
と、キャスターに対して、紳士に受け答えていたユリさんは、その顔をカメラへと向けるとーーまるで、こちらを見据えるように鋭い目つきへと変える。
『治安維持組織の怠慢。具体的に申し上げるならば、人造人間専門部署の未熟さだと考えています。なぜならば、彼らの行動は、いつまでたっても受け身的であり、被害があってからでしか、行動をおこせていないからです。先ほど申し上げたように、我々は、日夜人造人間に対する研究を重ねており、その結果として日々進化や改善をおこなってきていますが……彼らは、何年たっても一向に改善すらしていない。むしろ、被害は日を重ねるごとに、増える一方です。これが、国民の皆様を不安にさせている大きな原因でしょう』
……チィ。
言ってくれるな。
「はぅう!? おっ、思いっきり言われてますね」
と、さすがのミクも、俺ら永世光和組について言われていることを察したのか、オーバーリアクションで、胸を抑えつつゆらゆらと身体揺らしだす。
「ムカつくことに今回のは、言い返せないな。なにせ、言われたことは、全て正しい。あいかわらずキツイ人だ。ほれ! あんなこと言われているんだ。とっとと見廻りに戻って、少しでも攻めの姿勢を見せるぞ!」
「は~い。頑張りま~す」
「気の抜けた返事してんじゃねぇぞ。キビキビ歩け!!」
先輩が鬼畜だー。
などとボヤキつつ歩きだしたミクに続いて、キャスターへと顔の向きを変えたユリさんへと一瞥をくれた俺も、歩きだす。
胸に、抜けない刺を感じつつーー。
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