承 壱
「お!気がついたか?」
目を開けると私は座敷に寝かされていて、那由汰の顔が見えました。
「あれぐらいで気絶するなよ」
「ここは?」
「
「……臣……様?今、臣久邇秀と言ったか!?」
私は驚いて床から飛び起きました。
「お、おう……。どうした?急に」
「どうして私が臣様のお屋敷に!?」
「どうしてって……俺が運び込んだからなぁ」
「だから!なぜ、私を臣様のお屋敷に運び込んだんだと……」
「なぜって……」
私に詰め寄られて困惑する那由汰の後ろの戸が開いて、高烏帽子を被った立派な身なりの男が入ってきました。
「それは、久邇秀様が那由汰の雇い主だからだ。正確に言えば、久邇秀様が都を襲う妖怪討伐の
男は那由汰の横に腰を下ろした。
「そなたの名は土岐真人と言うと、那由汰から聞いている。土岐朱時殿の弟子だと」
「……はい、左様でございます。失礼ですが、貴方様のお名前は?」
私は、
「私は
「それでは阿部様。どうか私を、
私は自分の望みを真っ先に口にしました。相手も名乗らないほどに不躾なのだから、私もそれぐらいは構わないという気になったのです。
私は先生を探すのに、臣兼久様に会わなければならないと思っておりました。
「兼久様へのお目通りは叶わん」
「それはなぜでしょう?我が師、朱時は臣兼久様から依頼を受けて遥々剱持国から都へと参じました。そして行方知れずとなったのです。私はただただ師の行方を知りたい……」
「兼久様には会えぬ」
阿部様は
「兼久様は死んじまったからなぁ」
「兼久様が亡くなった?」
私は茫然としました。臣兼久様に会えば先生に会える、会えなくても行方について手がかりが得られると思っていたからです。くらくらと目眩がして再び床に倒れ込みそうになるのを堪え、私は阿部様に尋ねました。手がかりなしには帰れません。
「で……では、阿部様は我が師の行方についてなにかお心当たりはないでしょうか?」
「それは……」
と阿部様が言葉を濁したところで、
「直丞、土岐様にすべてをお話しして差し上げなさい」
と凛とした女性の声がしました。
「
阿部様は戸に向かって頭を下げて控えました。
二人の侍従によって開かれた戸の向こうには十二単に身を包んだ少女が立っていました。
「恐れながら。女人がこのようなところに
阿部様の言葉を無視して、葉津歌と呼ばれた少女は音も立てずに私の方に進んできました。
「
少女は私の側まで進むと、座りました。葉津歌様の後ろに侍従が控え、
「はい、左様でございます。土岐真人と申します」
「真人様、遥々遠いところからお越しいただきましたね。
あなたの師匠、土岐朱時様にはたいへん申し訳ないことを致しました。
身内の恥、私の恥をお話し、貴方様にはたいへんお辛いお話をすることになるので憚られるのですが……どうか、どうか。今はお怒りを一旦抑えて、都を襲う妖怪討伐に、ぜひお知恵をお貸し願えないでしょうか」
「妖怪討伐にですか?」
都を襲う妖かしと先生との間に何の因縁があるのか分からないまま、私は葉津歌様の話を聞くことにしました。
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