第3話 監禁
ここに連れてこられて何日経ったのだろう。
ここと、言ったが、ここがどこなのか私は知らない。
わかったことといえば、兄貴と呼ばれる男は、ヘリオットいう名の神学者で、癒しの手の持ち主であることだ。
癒しの手というのは、手を当てるだけで、傷や病気を治すことができるという、神様からの授かり物とされている。
魔眼と同じように大変珍しい。
ヘリオットはそれを使い、私の目と喉の傷を治していた。
お陰で今は痛みはなくなった。
傷跡も殆ど残っていないそうだ。
だからといって、見えるようになったり、喋れたりするわけではないのだが。
それでも、醜い傷痕が残らなかったことはありがたい。
小間使いの男の方は、ヒソップ。口が悪くてお喋りだ。
今日も要らぬことを喋っている。
お陰で、私を助けに来てくれる者はいないことを知ることになった。
「しかし、公爵様も酷いことしますね。この娘だって自分の娘でしょうに」
「愛した妻の娘と、戯れに抱いた女の子では、自ずと愛着が違ってくるだろう」
「そんなもんですかね――」
この娘って、私のことだよね。
私が公爵の娘? そんなはずはない。
私の両親は、庭師の父に、メイドの母である。
「でも、それならなんで引き取ったんですかね?」
「引き取ったといっても、庭師の娘として、だろう。どうせ、こんな時に身代わりにするために準備していたのだろうさ」
まさか、私は本当に両親の娘ではないの?
私はお嬢様の身代わりとして、引き取られてきた子なの?
しかも、本当の父親が公爵様なんて、信じられない!
でも、考えてみれば、庭師とメイドの娘が、公爵令嬢であるお嬢様の侍女をしているなんて変だ。もっと、それなりに教育を受けた者がなるべき仕事だ。
「まあ、腹違いとはいえ、姉妹ですからね。見た目も似てますもんね」
確かに、私とお嬢様は似ていた。
そっくりというわけではなかったが、髪の色や、顔立ちなども似通っていた。
唯一違うのが瞳の色だ。
私が茶色だったのに対して、お嬢様の瞳は、冷たい銀色、正に氷雪の魔眼に相応しい色合いだった。
「しかし、身代わりとして育てられていたなんて、この娘も可哀想ですね」
「まあ、母親だった女がどんな女か知らないが、浮気相手をするような女だ、それと一緒に暮らすのと、どちらが幸せだったかわからんな」
「それもそうですかね――」
そういわれると、私は食べ物に困ったことがない。
公爵家に仕えているのだから当たり前だと思っていたが、他の使用人の子供に比べたら明らかに発育が良かった。
ましてや、路上生活をしている子供達と比べるまでもない。
そういった意味では、今まで幸せだったのかもしれないが、だからといって身代わりとして処刑されるなど納得がいくわけがない。
しかし、今の話を聞けば、公爵家の誰かが助けに来てくれることはまずないだろう。
もしかしたら、両親が助けに来てくれるのではと考えていたが、そんなことはあり得ないとわかった。
それでも、――もしかしたら、スグリが助けに来てくれるのでは、と淡い期待を捨てきれない自分が情けない。
スグリも、公爵と執事が相談していた場にいたはずなのだ。
執事見習いのスグリが、助けに来てくれることなどないだろう。
恋人同士ならまだしも、私とスグリはただの幼馴染でしかない。
ああ、スグリの恋人になりたかったな。
そして、結婚して、子供を作って、仲良く暮らしたかった。
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