第3話 NTRをご所望の悪役令嬢。


「あぁ……! なんて悲しいの」


 城の中にある犯罪者を一時的に捕らえておく牢の中で私は涙を流して泣いていた。

 俯いて顔を覆っている私は他人からすれば男に捨てられた憐れな女だろう。

 実際その通りだが、私の口元だけはニヤけていた。


(よし! 思ったよりも成功したわね!)


 会場を出る最後に向けられた侮蔑の視線。

 フィリップ王子からだけかと思っていたが、ミシェルも良い顔をしていた。


(やっぱり貴方は素晴らしいわ! 流石私が選んだ女性よ!)


 学園の中で私は王子にあてがう女性を探していた。

 私を妬む者は多かったが、本気で私と王子を引き剥がそうとする気骨ある者は中々見つからなかった。

 王家と、それにコドリー公爵家も絡んでいる婚約にちょっかいを出せばリスクが大きいと考える者が多かった。

 そんな中、私相手に嫉妬や反抗心を隠さなかったミシェルは逸材だった。

 わざと彼女のいる場所に王子と近づき、席を外すとすぐに距離を詰めにかかった。

 それはもう素晴らしい手腕で王子を抱き込んだのだ。

 私はそんな彼女が用意した罠を彼女の望み通りに踏み抜き、彼女が動きやすいように私と仲良くない令嬢を省いて派閥を立ち上げた。

 売女の娘なくせに後妻のコネで婚約者となった私という存在が気に入らなかった令嬢達は抜群の結束力でミシェルを援護した。


(何かこそこそやっているとは思ったけれど本当によく集めたものよ。多分アレ、自分達の失態も私に押し付けているわよね?)


 そのおかげで独善的な傾向のあるフィリップ王子は完全に彼等を信用してしまい、関係性に距離が生まれつつあった私から乗り換えたというわけだ。


(あぁ、長かったけど楽しかったなぁ……)


 この一大計画は私の人生において最も長く、最も感情を揺さぶってくれるであろうものだった。

 言っておくが、私は別に王子を嫌っているわけではない。むしろ好きだった。

 あまりに破滅的なこの計画はまず私の一番大事な物を用意しなくてはならない。

 私を良くやったと褒めてくれた王家との婚約。初めて父から与えられた称賛が滅茶苦茶になるのだ。

 これに優る大事な物なんてないだろう。


(十八年間。短いようで長かったけど、もう疲れたしここが潮時だ)


 一時の感情の爆発を求めた計画だが、後に残されているのは悲劇だ。

 こうやって投獄されたのだ。罪人として処罰されるだろう。

 命までは奪われるかは不明だが、追放は確実。実家からは縁を切られて当然だ。

 後妻の顔にも泥を塗った私は愛想を尽かされている事だろう。

 後の人生は暗いもの。今日が私の人生最後にして最高の見せ場だった。


(心残りがあるとしたら、何も知らずに私を庇おうとしてくれたセブルズに謝れなかったことね)


 ミシェルと王子の関係を知って私に教えてくれた優しい人。

 賢くて優しい彼なら王子と共にこの国の未来を支えてくれるだろう。


「……あぁ。涙が止まらないわ」


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