第13話 堕ちていく勇者達

 それから約十ヶ月が過ぎた。

 計画では俺たちのパーティは実績を得て、資金や装備も潤沢で、既にある程度の名声も得た勇者パーティになっているはずだった。


 しかし、俺達はむしろ低迷していた。理由は、受けた依頼を失敗することが増えていたからであり、資金が貯まらないどころか、借金を背負いかねない状況になっている。五回に一回くらいしか依頼を達成できず、ギルドでも冷ややかな目で見られることが多くなっていた。


 信頼がなくなってしまったパーティは、そもそも報酬の高い危険な依頼を任せてもらえなくなる。どこかの掃除や雑用や力仕事、誰でもこなせる仕事しか回されなくなったら、そのパーティは終わりだと言われている。

 そして、その時は確実に近づいているように思えた。


 最初こそ俺達は調子がよく、そこそこ周囲から期待されていたくらいだったのに、どうして依頼を失敗してしまうようになったのか。理由をいくら考えても、はっきりとした結論が出ない日々が続く。

 ただ、俺はノアが原因じゃないかとは常に考えていた。


 どうやら彼は、冒険者として十年以上もキャリアがあるはずなのに、初級の基本的な魔法しか使えないらしい。魔狼戦で使おうとしたメガブラストは、見様見真似で試そうとしたということを宿で言われた時は眩暈がした。


 そもそも、能力については包み隠さず仲間に教えることがルールだった。申告と大きく異なっていたことに厳重注意をしたが、奴はそれでも悪びれない。


 このままでは君をパーティに置いておけなくなると言うと、初めは落ちこんだ顔をしているが、しばらくすると元に戻ってしまう。度々ロブロイとは口喧嘩をするようになり、俺は常に仲裁に入っていた。


 ノアにはもう一つ困った点がある。彼は独断でよろしくなさそうなパーティメンバーを引き入れようとしたり、同じダンジョンに潜っていた冒険者パーティに練習試合のようなものを挑もうとしたり、相談もなしに突拍子もない行動に出る。


 ちなみに何かしらトラブルを起こせば、大抵の場合は俺が謝るしか解決方法がなかった。最も厄介なのは、ノアは自らの過ちを認めず、決して謝罪をしない男だったということだ。


 ここまでくれば誰しもが追放を考えるだろう。もちろん俺もそうだった。しかし彼を手放したところで、信用を落とし始めている俺のパーティに新しい魔術師が来てくれるかと言うと、かなり不安だった。


 元々この町には魔法の使い手が少ない。魔術師にしてもプリーストにしても、僅かしかいないと言うのが現状だった。世界中でも少数しか存在しない勇者は、勿論俺以外には存在しない。同様に賢者だっていない。


 だから悩んでいた。逆にパーティメンバーを一名増やすという手も使ってみたが、長くて二週間、早くて三日ほどで辞めてしまう。しかし、その辞めてしまう理由は様々だった。


 地元に帰ろうと思ったから。自分には合わないと感じたから。他の仕事が合っていると気づいたから。別の仕事の面接に受かったから。


 これらは仕事を辞める上での常套句だが、本当の理由なのだろうか。どこか彼らの理由に引っ掛かっている自分がいた。


 俺は今日も依頼に失敗し、しきりに反省を繰り返していた。宿の二階、食堂近くの丸テーブルに腰掛け、今回潜ったダンジョンでは何がいけなかったのかを考える。

 ノアはどうしようもないが、追放するともっと大変なことになる。だから、あいつには期待せずしばらくは三人がなんとかするしかない。


 そんな妥協案を考えていた俺は、頭の中がどうにかなっていた気がする。依頼が上手くいかないせいか、体が疲れきっていた。しかも徐々に病気がちになっている。ロブロイもルーも同じだった。


 元気だったのはノアだけ。依頼が終われば大抵はどこかに遊びに行く。


「少しは休んだほうがいいよ。僕は情報収集をしてくるとしよう」

「ああ、分かってる」


 何が情報収集なものか。要するに酒場に遊びに行くわけだ。こんな状況でなぜ夜の街で堂々と遊べるのか。お金はどうしているのだろう。そして何故あいつだけ元気でいられるのだろう。俺はどうもおかしいと思い始めていた。


 不思議すぎるいつもの疑問を頭に浮かべていると、いつの間にか細い影がテーブルに映っていることに気がつく。


「あの……リック。ちょっといい?」

「ん。どうした?」


 ルーだった。彼女はとにかく人見知りで大人しい性格をしていて、依頼が終わるとすぐに自分が借りている部屋に戻ってしまうのだが、今日はなぜか俺のところにやって来た。


「相談したいことが、その。あるんだけど」


 彼女はいつも以上におろおろしている。いや、それよりも相談したいこと……という言葉に俺は反応していた。こういうやり取りは何度か経験があったから、嫌な予感がする。


「その……私ね。こんな時にごめんなさい。あの、地元に帰ろうと思ってるの」


 俺は思わず前のめりになり、テーブルに自らの頭を叩きつけてしまった。

 なんてことだ。まさか、ルーまでがパーティを抜けようとしてるなんて。

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