第11話 勇者と魔術師の出会い

 俺とノア、ルーとロブロイが出会ったのは一年近く前の話になる。

 その時、冒険者として駆け出しだったこともあり、どうしても早くパーティを結成しようと急いでいた。


 思えばあの焦りさえなければ、俺はもう少し懸命な仲間を迎え入れただろうし、この話は結果として悪いものにはなっていなかっただろう。


 今にして思えば、俺はなにも分かっていなかった。


「へええ! 君は勇者の加護を与えられたんだ。凄いね」


 煽てられて戸惑う俺に、あの時のノアは気さくに微笑んでいた。冒険者といえば、仲間集めは酒場つきの冒険者ギルド。そういうものが常識だと思いこんでいたから、とにかくすぐに酒場にやってきたわけだが。


「元々はただのダンサーだったんだ。まさか突如として、女神様からお力を貰えるとは思っていなかった」


 十九歳になったばかりの俺は、それまではダンサーとして生計を立てていた。苦しい下積みを経て三年、舞台に上がらせてもらう機会も増えてきたし、さあこれからだというところで、想定していたものとは違う光が当たったんだ。


「僕もさ。魔術師としての才能なんて、この身に宿ること自体想像できなかったんだよ。僕たち、実はけっこう似たもの同士なのかもね。女神の寵愛、あれは本当に壮大な経験だったなぁ」


 俺と彼はそんなに似ているんだろうか。彼の青白い肌を見ながら、ふと妙な気持ちになる。しかし、加護を得た経験が壮大だったという話は同感だった。最初は一言二言の会話しかしない俺達だったが、会う回数が増えるにつれて長く会話が続くようになる。


 女神の寵愛という、なんの脈絡もなく突然降りかかってくる黄金の光。その光を浴びたものは、加護というものを得ることができる。そして普通の人間ではとても発揮できない力を扱えるようになるんだ。


 さらにいえば、加護は浴びた瞬間に名称や、どういった効果を得られるのかが自然と頭で理解できる。俺の場合は勇者の加護であり、すぐに三つの効果を理解した。


 この加護を得たことにより、人生は大きく変わることになった。しかし、最初の仲間作りの時点でつまづいたというか、俺が欲しかった能力を持つ人が見つからなかった。


 事あるごとにギルドに向かい、パーティ募集の掲示板に紙を張り出したが、志願してくれる人はいない。いたとしても、素行に明確な問題があったり、取り立てて長所が見られないような人が多かった。


 何も高望みをしていたわけではない。とにかくバランスを重視したかったんだ。俺は勇者であり、剣と魔法がそこそこできるタイプだった。だからこそ、それぞれ専門分野のエキスパートが欲しい。


 一番最初に出会って以来、ノアと会うことは当たり前になっていた。勿論パーティを組むかという話になっていたが、俺はどうにも心の中に引っかかるものがあったから悩んでいた。自分でも何が気になるのかははっきり分からない。


 しかし、パーティ探しをして一ヶ月もしてから、ちょっと妥協をしても良いかもしれないと思い始めた。それで何度か適当に人を集め、一時的にパーティを組んで依頼をこなしたりもした。


 そうやって人集めをしていく中で、俺はとうとう満足のいくメンバーに出会う。まずは戦士であるロブロイだ。年齢は俺より七つほど上で、既にいくつものダンジョンを攻略していた戦闘のプロであり、同時に仲間を守るプロでもあった。


 次に出会ったのはプリーストのルーだ。当時十六歳だったが、見た目的にはもっと幼く、一見すると頼りなく儚げな少女という印象だった。しかし、彼女の回復魔法の才能は尋常ではなく、どんなに酷い怪我を負っても立ちどころに完治させてしまう。


 俺が求めているパーティの完成はもうすぐだった。しかし、残りの一人がやはり見つからない。そろそろ貯金も底を尽きそうになっていたし、二人もまた早く依頼をこなしてお金を稼ぐことを第一に考えていた。


 だからあの時わずかに妥協をした。ノアからは何度もパーティに入れてくれと言われていた。俺はとうとう首を縦に振ることにする。一度試しにパーティを組みダンジョンに潜ったところ、特に悪くはない活躍だった。


 とはいえ、それでも疑問は残っていた。彼は俺より一回り以上年上であり、キャリアでいえばあのロブロイすらも凌ぐ筈だが、使う魔法といえばファイアボールやフリーズなど、基本中の基本だけだった。


 どうもおかしいとは思ったが、まだ疑うほどではなかった。俺がみんなと相談して決めたルールの一つに、加護の力や覚えたスキルは、必ずみんなに情報共有をするというものがある。ノアは普段は基本的な魔法しか使っていないが、申告上はほぼ全ての攻撃魔法を覚えていた。


「ここいらの魔物は低級の奴らが多いからね。無駄に大きな魔力を使うことは得策じゃないんだよ」


 言われてみれば確かにそうかもしれない。時期がくれば、強力な上位魔法で敵を蹴散らしてくれるだろう。しかし、俺はやはり間違っていたことに、情けないことだが少しずつ気がついていくことになる。

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