第四章 勇者と魔術師が出会った頃
第10話 成り上がり始めた勇者達
魔王軍元幹部レオボルトを倒し、魔物の発生源を絶ったあの依頼から一ヶ月が過ぎた。
俺達は拠点を変え、現在は大陸北東にある、港町クロードで仕事をするようになった。大抵の場合夕方には依頼を達成し、夜にはみんなでお祝いかつ反省会という名目で酒場にいく。
酔いが回りまくったロブロイが、モニカの隣で今も酒を飲み続けている。四角いテーブルには以前は考えられないほど、美味しそうな料理や飲み物が並んでいる。
「いやー! 一時は俺達もどうなるかと思ったけどよお。まさか短期間でここまで……げぷ!」
「ちょっとー。汚いゲップすんのやめてよね。レディーの前なんだから」
モニカに注意されてロブロイは苦笑いをするしかない。彼女と口論をしても負けることは目に見えているからだ。どうやらこの力関係は、パーティを結成する前からだったらしい。
「でも、なんていうか。今でも信じられないの。不思議だね」
ルーが微笑みながら、俺に酒を注いでくれた。
俺達のパーティは、以前まではとても依頼の達成率が低かった。ノアを追放する直前なんて、もう計算するのも嫌になったくらいだ。
しかしあの塔での件を含めて、その後は一度も失敗がなくなっていた。当初の計画よりずっと早いペースで資金面が潤いはじめ、パーティ全体の強化が進んでいる。
ロブロイは以前よりも体力やパワーが増し、物理攻撃だけではなく壁役としても心強い。体も一回り大きくなったような気がする。
戦士は巷に溢れかえっているが、今のロブロイと肩を並べる者はほとんどいないと断言できるほど、彼は強くなっていた。
ルーは回復魔法に磨きがかかっただけではなく、なんと攻撃魔法をも習得するようになった。今はプリーストではなく賢者となったため、間違いなく一番成長したと言える。
それとルーはプリーストの格好から、青いマントとワンピースにブーツという、いかにも賢者っぽい服装になっていた。まあ、結局子供っぽいところは変わってないが。心配になるくらい痩せていた時とは違い、今はとても健康的に見える。
モニカは一見すると変化がないようだが、実は盗賊としての腕と防衛能力が上がり、サポート役としてかなり助かっている。それと、ルーの良き相談相手にもなっていた。
彼女はとにかく観察力が鋭く、パーティの穴をしっかり見つけてはカバーしてくれるから頼もしい。
ここまできて自分の話になると、ちょっと気まずくなる。俺は自分ではあまり成長したとは思えなかったからだ。
でも、みんなが言うにはあらゆる面で強くなったらしい。特に最近覚えた魔法剣は、なぜかルーによく褒められたものだった。
パーティ内の空気も良好だ。もう一人仲間に加えても良さそうだと思ったが、今のところ連携が非常によく取れているため、無理に追加しなくてもいい気がしていた。逆に慣れていないメンバーを追加することで、連携が乱れて弱くなってしまう例をいくつか知っている。
しかし、順調過ぎるほどの成果を上げているにも関わらず、俺はどうにも気になっていることが二つあった。
一つは、どうしてノアを追放した次の日から、ああも物事がうまく進むようになったのかということ。あの追放が分岐点だったとしか思えないが、いくら何でも追放する前と後で、パーティの強さが極端なほど変わった。
俺とルー、ロブロイはみんなどこか病んでいるような体調だったが、少ししてから嘘だったように元気になった。不思議だったが、考えても理由は分からない。
もう一つ気になっているのは、アケビの塔でレオボルトが死に際に遺した言葉だ。奴は自分の体が石のようになり、崩れ去っていく最中にこんなことを言っていた。
「勝ったと思うなよ。もうすぐ魔王が……あの人間が……我らの希望に」
言葉通りに受け取るなら、もうすぐ魔王が現れるということなのだろう。単なる脅しや嘘っぱちとも取れなくはないが、あそこまで格の高い魔物がそんな小細工をするだろうか。
いや、恐らく本当に魔王が誕生するということに違いない。だけど、奴が最後に伝えてきたあの人間とは誰のことだ?
そいつを見つけることが最優先のようだが、何のヒントもない状態では難しい。
だが、実は答えを知る日は、もう間近まで迫っていたんだ。
しかし、魔王を知る日のことを伝える前に、彼と俺達の始まりについてを語る必要があると思う。
初めて冒険者として活動を始めた日、まず最初に出会ったのはあいつだった。
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