第5話:海のカミングアウト
帆波との交際がスタートして数ヶ月後の冬のこと。海が鈴木くんの家から登校していると噂が流れた。
「お前ら同棲してるってマジ?」
「同棲じゃなくて居候。親に追い出されて路頭に迷ってたら麗音の母さんが拾ってくれて。それだけ」
海が鈴木くんの家に居候していることを認めると、同じ部屋で寝てるのかとか、一緒に風呂に入ってるのかとか、ヤッたのかとか、そんな質問が海と鈴木くんに容赦なくぶつけられた。鈴木くんは困りながら否定していたが、誰も彼らを信じようとしなかった。
ついに耐えきれなくなったのか、海は自身が男性に対して恋愛感情を抱かないことをカミングアウトした。
「だから、こいつとは何にもねぇよ。キモい想像すんな。死ね。カス」
すると次は、彼らは犯人探しをするように海の恋人を詮索し始めた。矛先は彼女と仲が良かった女子達に向かい、彼女の周りからは少しずつ人が消えていき、佐藤さんは少しずつ、学校に来なくなり、中三の四月には、彼女はもう学校に在籍していなかった。何も言わずに転校してしまった。泣きながら自分を責める彼女を、私と帆波、そして鈴木くんの三人で慰めた。
高校は、海と同じ学校に進学した。誰も同級生がいない学校に進学したくて選んだらたまたま被った。帆波も同じ学校を選んだ。
鈴木くんは別の学校に進学したが、たまに会うと海の話ばかりしていた。
「海のこと、本当に好きなんだね」
「……うん。好きだよ。幸せになって欲しい」
「海も同じこと言ってたよ。鈴木くんには幸せになって欲しいって」
「……そっか」
『女だったら好きになっていたと思う』
海がいつしか言ったその言葉は伝えなかった。好きな人から言われるその言葉の辛さはよく知っていたから。それだけは絶対に、伝えてはいけないと思った。
「……私も海のこと好きだよ。恋愛的な意味じゃないけど、凄く、大切に思ってる。彼女が居なかったら私、帆波と付き合えなかったから。彼女には感謝してもしきれない。佐藤さんのことは……私達もあの場でカミングアウトすべきだったって、今でも悔やんでる」
「海は二人のこと責めたりしないよ。……佐藤さんも、きっと。……もちろん俺も責めない。責める権利なんてないから。……海のこと、これからもよろしくね。一人にしないであげて。俺は……側にはいられない。近くに居たら重いだろうから」
「うん。言われなくても、一人にしたりしないよ」
一人にしない。大丈夫。海は私達が守る。私と帆波が。この時は本気でそう思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます