堕ちた聖女の告白

 処刑当日。僕は広場に集まった群衆の前でフェルの罪状を高々と読み上げた。


「被告人フェルチア・ポピエルは王太子の婚約者として王族の務めを果たすべく最前線に赴任するも、一切の責務を放棄しぜいを尽くし、次々と兵士を寝所に誘い込み姦淫かんいんの限りを尽くした!

 また、三百二十六名もの兵士を救助したと功績を捏造し、不正に深紅綬勲章しんこうじゅくんしょうを賜り年金をだまし取った横領の疑いもあるっ!

 更にありもしない戦場の惨劇さんげきを語り、民心を不安に陥れた反逆罪にも問われている!

 よって被告人を斬首ざんしゅの上さらし首とする!なお、ポピエル公爵家は連帯責任で取り潰しのうえ国外追放だっ!」


 僕の堂々たる宣言に応えて広場に集まった民衆が歓喜の声を上げる。

 「くたばれ淫売」といった聞くに堪えない野次と罵詈雑言ばりぞうごんが絶え間なくフェルの怜悧れいりな美貌に浴びせられた。

 僕のことなど眼中に入れようともしない、いけ好かない女を今日こそ葬り去れる。これでどちらが上か、奴もさすがに理解するだろう。地獄で心の底から後悔するが良い。


「さあ、最後の慈悲である。申し開きがあるならば言うが良い!」


 びしっと指をつきつけて言い放つが、声など出るはずがない。余計な事を言えぬよう、獄中で食事に水銀を混ぜのどを潰しておいたのだ。

 しかし、勝ち誇る僕の思惑と裏腹に、凛とした涼やかな声が処刑場に響き渡る。


「お集りの皆さん、わたくしは罪を犯しました。しかし、それは王太子が並べたような荒唐無稽こうとうむけいなものではありません。

 わたくしはこの五年間、地獄のような戦場を必死に戦って参りました。彼が必死に否定する陰惨いんさんな戦場の現実、それはわずかでも戦場を垣間見かいまみた方には真実のものであると、彼らが語る能天気で享楽的きょうらくてきな有様こそ非現実的な絵空事えそらごとだとご理解いただけるでしょう」


 な、なぜ奴は当然のように、広場全体に響き渡るように語りかける事ができるのだ!?奴の喉は確かに潰したはず。

 最期の申し開きなど上辺だけの建前で、一言だって喋らせる気はなかったのに。


わたくしは王国歴百三十八年一月、王族の代表として我が国の精鋭たる第二魔道機甲師団の一員となりました。当時は開戦より一年が経過し、戦死者の増加に従い女性や少年も前線に送らざるを得なくなったのです。当然、そのような戦禍を招いたあげく、何ら有効な対策ができない王家に批判が集中しました。

 そこで、彼らは当時王太子殿下の婚約者だったわたくしを代理として派遣する事にしました。まだ正式な婚姻前のわたくしが戦死したところで王室は痛くもかゆくもない上、治癒魔法の使い手であるわたくしは衛生兵として働かせる上で好都合だったのです」


 フェルは僕たちの焦りなど素知らぬ顔で、淡々と語り続けている。

 静寂魔法をかける等の対応策は全く通用せず、それ以前に、奴の喉は完全に潰れて声が出せないはずなのに、なぜあのような弁舌が可能なのだろう?

 まさか、奴は無詠唱で高度な治癒魔法や結界術を起動、展開する事ができる天才なのだろうか。

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