第62話

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 062_王都攻め

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 王都は3つの防壁に護られた堅牢な都市だ。

 騎士団員の反乱があって第1と第2の防壁は破られ、今は第3の防壁を攻めている。

 守備側にも攻撃側にも多くの被害が出ていて、王都の中には敵味方の将兵の死体が転がっていた。昨夜の攻防で奮闘空しくこと切れてしまった将兵たちの死体だが、両陣営とも回収ができていない。


 交戦音が聞こえてきた。すでに他の貴族軍が王都へ入っていて、王家側と交戦しているようだ。


「赤です。南部軍です」


 敵味方の識別のために、南部貴族軍は赤色の布を腕に巻いている。北部貴族軍は黄色で、ロドニーたちも腕に黄色の布を巻いている。


「先を越されたか。他に侵入する経路はなかったな」

「最後の防壁ですから、通路はこの城門だけです」


 ここまで突っ走ってきたが、頭をリセットして冷静になる機会ができた。

 後からやって来た北部貴族軍所属のロドニーが、南部貴族軍に混ざって攻撃すると不要な争いが生まれる。ここは南部貴族軍が優先だ。


 最後の防壁というだけあって、この防壁は高く分厚い。誰もが防壁の破壊は無理だと思い込んでいる。

 防壁の向こうが王族の暮らす場所でなければ、ロドニーはこの防壁ごと城門を破壊していただろう。城門でなくても、破壊すれば道ができる。


「侵入できる場所を探すぞ」

「「「はっ!」」」


 ぐるりと侵入できそうな場所を探したが、王都の防壁というだけあって堅牢だ。それに、いたるところに見張りの兵士が配置されている。

 ロドニーが侵入口をを探している間に、他の貴族軍も城門前に到着していた。


「夜陰に紛れれば忍び込むか」


 ロドニーはバニュウサス伯爵のザバルジェーン領軍のところまで後退した。

 ザバルジェーン領軍と合流したロドニーは、ジェグサス男爵に状況を説明した。


「南部の者に先を越されてしまったのは、仕方がない。南部の者のお手並みを見物させてもらおう」


 城を包囲するように、各貴族軍が展開した。南部貴族軍が城門を攻めているため、他の貴族軍は静観だ。もちろん、他の攻め口を探したり、王城から誰も逃がさないように監視をしている。


「かなり手古摺っているようですな」

「城門を守るのは、王国最強と言われた騎士団長様らしいからな」


 北部貴族軍が接収した建物の中で、休憩をしながら軽い食事を摂りながらホルトスと言葉を交わす。

 接収したのは宮廷貴族の屋敷なので、気兼ねなく上がり込める。これだけ城に近い場所に屋敷があるということは、それなりに高位の宮廷貴族の屋敷だ。

 宮廷貴族本人や家族、使用人は全員退去した後だが、暑さを凌ぐ日影としての役目はしっかり果たしてくれた。


 テーブルではロドニーとホルトス、エンデバーそして従士が食事を摂る。フェルドは壁際の床に座り、干し肉を齧っている。フェルドは尻尾があるため椅子に座るのは得意ではないらしく、基本的に床や地面に座る。領兵も別室で食事を摂っている。


「おお、ロドニー殿。ここにおったのか」


 干し肉に齧りついたところに、バニュウサス伯爵が入ってきた。ホルトスたちは席を立って壁際に控え、ロドニーもバニュウサス伯爵に席を譲った。


「閣下自らこのような前線に近いところまでお越しとは、何かありましたか?」

「いやはや、城門を守るファルケンめが、厄介なのだ」


 ファルケンというのは、王国最強と名高い騎士団長のことだ。城門を守って奮戦しているらしく、南部貴族軍が攻めあぐんでいる。


「長丁場になりそうなのでな、私も腹に何かを入れておこうと思ったのだ」


 食事と言うが、バニュウサス伯爵にはこの屋敷で最も豪華な部屋がある。ロドニーたちに与えられた使用人が使うような部屋に来る必要はない。

 そのことを考えると、バニュウサス伯爵の考えが分かった。ロドニーにファルケン騎士団長を倒してほしいと思っているのだろう。


「確認ですが、放出系根源力を使われたのでしょうか?」

「もちろんだ。上級の放出系根源力を受けてもピンピンしているんだぞ、あれは化け物だ」


 ファルケン騎士団長は狭い通路に陣取っていて、数で押し潰すことができない。放出系根源力を使っても、防御系根源力を駆使してピンピンしている。

 このままでは味方(南部貴族軍)の被害が増えるだけだとバニュウサス伯爵は考えていた。


 もっとも、南部貴族軍がいくら疲弊しても、バニュウサス伯爵は構わなかった。むしろ疲弊してくれたほうがいい。

 戦後の勢力争いを考えて、王都攻めもあえて兵力を温存するようにジェグサス男爵に指示をしているくらいだ。


 北部貴族の半分をまとめるバニュウサス伯爵には、その立場からくる考え方がある。

 この王都攻めよりも、その後にある勢力争いのほうが重要なのだ。それは覇権争いである。王家に替わって国を治めるのか、それとも王家を奉じて国の運営を行うのか、誰が覇権を握るかによって違ってくる。


 東部貴族はジャバル王国との和睦に大きな憤りを感じている。もし東部貴族が覇権を握れば、王家は族滅させられるかもしれない。おそらく南部の貴族たちも、同様の考えが強い。それはバニュウサス伯爵の未来像とは違う。だから、バニュウサス伯爵は王都攻略後のことを、考えて動いていた。


「上級ですか……」


 上級の放出系根源力に耐えるとなれば、最低でも複数の上級の防御系根源力を所持しているか、または最上級の防御系根源力だろう。


「そういえば、ロドニー殿は最北領の怪物と言われていたな」

「本人のあずかり知らぬことです」


 その噂のせいで、面倒臭い者たちがデデル領へやってきた。有能な者が来てくれればまだ良かったが、大した実力もない自己主張の激しい者たちばかりだった。


「化け物と怪物。どちらが強いのであろうな?」

「化け物ではないでしょうか?」

「ははは。謙遜しなくてもいいぞ」


(謙遜も何も、戦ったこともないし、動きを見たわけでもないから、分からないんですが)


 以前、状況報告会でファルケン騎士団長とは顔を合わせたことがあるが、言葉は交わしていない。

 4将軍の中でもひと際存在感を放っていた人物が、騎士団長なのはすぐに分かった。王国最強と言われているのは伊達ではないと、あの時は思ったものだ。


「さて、各軍の代表者による話し合いが、先ほどもたれた」


 バニュウサス伯爵は表情を引き締めた。それを見たロドニーも背筋を伸ばした。

 その話し合いで決まったことだが、各貴族軍から代表者を出してファルケン騎士団長に挑むことになったらしい。北部貴族軍の代表者としてロドニーに出てほしいと、バニュウサス伯爵は言う。


「お話は理解しました。他の方々が私で良いと仰るのであれば、その役目をお受けいたします」

「おお、そうか! 最北領の怪物、宝物庫を開いた英雄、賢者の弟子。これ以上の適任者はいないと思う。他の者もロドニー殿であれば、文句は言わぬ。この私が言わせぬ。約束しよう」


 二つ名が独り歩きしているような気分だった。


 東西南北の貴族軍から出された代表者が集まった。ロドニーの他には30代が2名と40代が1名の、いずれも逞しい体格の人物たちだ。


「ロドニー=エリアス=フォルバスです。お見知りおきを」

「ふんっ。怪物だの英雄だの言われてちやほやされているようだが、ファルケンは俺が倒す。後ろで見ていろ!」


 初対面なのに敵のような敵意を向けてくるのは、南部貴族軍の代表者だ。40代で顔にいくつもの傷痕がある人物である。

 東西の代表者も口には出さないが、敵意を感じる人物たちだった。


「連携は不要ということですか?」


 南部の代表者は子爵らしいので子供のように突っかかっていかずに、丁寧な対応を心掛ける。


「貴様のような非力な者が居ても邪魔だ」

「そうですか。では、私は子爵の戦いを後方から見させていただきます。ファルケン騎士団長を倒せるとよろしいですね」


 ちょっと煽ってしまった。まだ若いなと、反省。

 他の代表者もそれぞれ単騎でファルケン騎士団長と戦うと言うので、くじ引きで順番決めた。ロドニーは4番目でいいと、くじ引きに参加しなかった。


 以前、会ったファルケン騎士団長の存在感からして、この3名では相手にもならないだろう。そう考えてのことだ。

 その判断が間違っていた場合は、自分の人を見る目が大したことないと諦めるしかない。


 

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