第44話

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 044_開発

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 雪降るデデル領。深い雪に閉ざされ、孤立する最北の騎士爵領。そんなデデル領の領主屋敷は、熱かった。

 領主であるロドニーは、賢者ダグルドールの催促によって自動車を再現するための努力をしていた。

『造形加工』を『操作』と『理解』を発動させて補強し、自動車の部品を作っていく。

 最も重要なのはエンジンだが、そもそも石油がない。石油がなくてはガソリンや軽油などの燃料が得られない。

 どこかを掘ったら石油が出てくるかもしれないが、そんな博打をするくらいなら他の方法を試す。


 ビーム砲を解体したことで、生命光石をエネルギー源にした電気を発生させる発電構造は理解している。だから、モーターで動く自動車を開発することにした。


「モーターだと二酸化炭素を排出しないから、環境に優しそうだからいいか」


 宝物庫で入手したビーム砲を、賢者ダグルドールと共に触りまくったことで自動車に使える技術が手に入ったのは大きい。

 発電機は自動車だけではなく、色々なものに使える。しかも、そのエネルギー源は生命光石なので、環境にも優しい。


 王都へ向かうのが冬になる直前だったのは、ビーム砲や電磁投射砲レールガンを解体して部品を複製していたことが原因でもある。

 それらの兵器を解体したことで、生命光石をエネルギー源にした構造が理解できた。それを応用すればエンジンは無理でも、モーターならそこまで難しい話ではない。


 モーターの構造もそこまで難しいものではないので、すぐに再現できた。ただし、理科の授業で知り得る程度の知識なので、前世で自動車や電車に使われていたものではないと思われる。


 まずは変速機なしの自動車を作るつもりだ。変速機の構造なんて知らないためだ。

 発電機とモーターはできている。それを載せる車体もトロッコのようなもので作った。試作だから形はそこまで拘らない。ここで問題が発生した。


「タイヤなんて再現できませんよ……」


 木や鉄のタイヤなら問題ない。だが、ゴムのタイヤは無理だ。ゴムなど手に入らない。

『造形加工』は材料がないと、意味をなさない。その材料となるゴムがなければ、どうにもならないのだ。


「そのゴムというものの代用品を探すのだ!」

「簡単に言わないでください……」


 賢者ダグルドールの無茶ぶりに、何か良い素材がないか考える。


「そう簡単に浮かんで来たら、苦労はしないか」


 思わぬところで躓いた。


「ん……別に鉄の車輪でもいいのか」


 ロドニーはレールを敷けばいいと思った。自動車ではないが、電車を再現することはできると。


「おお、それはいいアイディアだ! すぐに、線路を敷くのだ!」

「線路を敷くには、これくらいのバラストと言われる石が大量に必要です」


 両手の指で輪を作って見せて、それくらいの尖った石が大量に必要だと言う。


「そんなもの、魔法でなんとでもしてやるわい。そうだ! バージスが石を魔法で創るのだ。大量に要るとなれば、魔法の訓練にもってこいだ」

「ぼ、僕にできるでしょうか?」

「やるのだ。さすれば、道は開かれる!」


 魔力を感じる訓練と魔力を動かす訓練を経て、魔力を体中に循環させる訓練をしているバージスだが、そろそろ簡単な魔法を扱うくらいはできるだろうと賢者ダグルドールは言った。バージスの修行は新たな局面に入った。


「お師匠様。他にも枕木にする木材、レールにする鉄も必要です。冬のデデル領では、簡単に用意できるものではないですよ」

「ぐぬぬぬ。春になったらすぐに手を付けるのだ! それまでバージスは石を創り出す訓練だ!」

「そういえば、枕木は石でもよかったな」

「バージス、枕木もだ!」

「はい!」


 賢者ダグルドールの弟子になったバージスは、デデル領の長い冬の間中、魔法でバラストと枕木を創り出す訓練に明け暮れることになった。


 一旦、自動車および電車の開発を棚に上げたロドニーは、敷地内に研究施設を建てることにした。これまでは倉庫の中で色々やっていたが、機密を扱うには不都合があると今更ながら気づいたのだ。


 研究施設は石造りの建物にしたかったので、海に入って海底から石や岩を持ち帰ろうと思った。

 ユーリンと2人で海に入って、海底散歩を楽しみながら手ごろな石や岩を収納袋に入れていく。


「こうしてユーリンと2人きりになれたのは、久しぶりだな」

「ロドニーは忙しい身ですから、仕方ありません」


 2人は手を繋ぎ、海底を自由に泳いだ。

 冬の弱い光が、海に差し込む。その光の隙間を泳ぎ、時に身を寄せ合った。

 大きな岩があればそれを拾いながら、2人はこれまで出たことのない沖へと向かった。


 沖の水深は軽く100ロム(200メートル)はあり、海底は光が届かない暗い世界だった。

 海面近くを泳ぎ、2人だけの世界を楽しんでいたら、小魚の群れが2人の近くを通った。銀色の鱗に反射する光が美しくて目を奪われる。

 すると、大型の魚がその小魚を追って活発に動き回る。大型魚にぶつからないように避けるが、数が多く速度もある。2人は魚の群れから離れ、笑い合った。

 沖に出るとこういうこともあるのだと、新鮮だった。


 岸に向かう途中で、ついでに港建設の予定地の視察をした。

 デデル領の海岸に近い場所は、岩場が多くて危険だ。サルジャン帝国の皇女エリメルダが乗った船が座礁したのも、その岩場である。

 今も座礁した船の残骸が岩場にあるが、今後はその岩場も含めて整備するつもりでいる。


「俺はビール工房に寄っていくけど、ユーリンはどうする?」

「お供します」

「従士じゃないんだ。もっと砕けた口調でいいんだぞ」

「これ以上はちょっと……」


 徐々に慣れてもらうしかないかと、ユーリンの肩を抱く。

 ビール工房に入ると、工房長のドメアスとその弟子たちが出来上がったビールの試飲をしていた。


「ロドニー様、ユーリン様。丁度良いところにおいでくださいました」


 ドメアスは2人にも試飲してほしいと、出来立てのビールを出した。


「これは、美味い!」


 スッキリとした飲み口で、苦みがあるのにしつこくない。それでいて旨みも感じられるビールだった。

 ドメアスたちが試行錯誤して作り上げたビールは、味こそ生前の記憶のものとは違っているがとても美味しいものだった。


「本当に美味しいですね」


 ユーリンもビールを飲んで笑顔になった。


「やっと満足いくものが出来ました」


 ロドニーは記憶にあるビールの作り方をドメアスに教えたが、それでビールが作れるほど簡単なものではない。ロドニーの知識をここまでのビールに仕上げたのは、ひとえにドメアスの努力のたまものだ。

 ロドニーはビールをここまで仕上げてくれたドメアスに、感謝の気持ちを表したかった。


「このビールは、ドメアスと名づける。このドメアスを量産してくれ」

「わ、私の名を……感激です!」


 ドメアスは感無量で泣き出してしまった。その周囲に弟子たちが集まってもらい泣きする。


「親方、良かったですね!」

「親方の苦労が報われましたね!」


 ドメアスは良い弟子たちに囲まれていた。


 ドメアス・ビールは瞬く間に王国全土に広がった。特に夏に冷やして飲むと、とても美味しいと評判になった。しかし冬でも美味しく、1年を通して売れた。


 2人が屋敷に戻ると、魔法の訓練をしてるバージスの姿があった。

 賢者ダグルドールの指導は厳しいものだが、バージスは挫けることなく訓練に勤しんでいる。

 数日前には石を創り出すことができたと喜んでいた。今は安定して石を創り出す訓練をしている。


「ロドニー様、お姉ちゃん。おかえりなさい」

「バージス、精が出るな」

「お師匠様の弟子にしていただいたのですから、中途半端なことはできませんので」

「その意気です。がんばりなさい、バージス」

「はい、お姉ちゃん」


 ロドニーは拾ってきた石や岩を素材にし、『造形加工』を使って研究施設を建てた。地面を掘り起こして、地下も造った。その土で外壁を覆うと、なんだか秘密基地のように見えた。


「いい感じになったじゃないか」


 賢者ダグルドールが褒める研究施設は、1階の広さが30×15ロムで中二階もある。地下には10×10ロムの部屋が2つあって、かなり広いのが分かるだろう。

 セキュリティに関しては、賢者ダグルドールが魔法で結界を張ってくれた。さらに認識阻害の魔法までかけてくれた。そういった魔法が持続するように、大がかりな魔法陣を設置している。


「これで、自動車や電車の開発や、ビーム砲や電磁投射砲レールガンの生産を行えます」


 兵器の生産は、外に洩れるとマズいことになる。情報保護の観点からも、こういった施設は必要だ。


「まあ、秘密は漏れにくいほうがいいだろう」


 冬が終わるまでロドニーと賢者ダグルドールは、この研究施設にこもって色々なものを作った。


 

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