第43話

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 043_見返り

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 湖底神殿を攻略し、宝物庫のお宝を持ち帰ったロドニーは、従士と領兵たちにボーナスを出した。

 持ち帰ったお宝は、大金貨が3000枚、金塊200ロデム(400キロ)、宝剣2振り、鎧2着、生命光石3個、他にアイテム5種だった。


 販売好調のガリムシロップは、竈を10カ所に増設して早番と遅番の2交代で生産している。その生産量は月間1500ロデム、売り上げは大金貨120枚(年間1440枚)である。

 宝物庫から持ち帰った大金貨だけで、ガリムシロップの売り上げの2年分にもなる大金だ。


 湖底神殿攻略を祝うパーティーも盛大に行った。収穫の時期だったので収穫祭も合わせて行い、デデル領全体で盛り上がった。


「ロドニーよ。これは兵器だぞ」

「やはりそうですか」


 宝物庫から持ち帰ったアイテムのうち、2つは明らかに兵器と分かるものだった。

 ロドニーも前世の記憶からそれがビームのような集束した光を放つものだと思っていたが、賢者ダグルドールの言葉によって確信を持った。


「遺跡からこういった兵器が出土する。学者たちがそれを研究しているが、簡単な修理はできても再現はできていない」


 隣国との紛争の原因となっているセルド地方ゴドルザークの森の中にある遺跡ではなく、他の遺跡から発掘された兵器がある。

 どの国にとっても遺跡の発掘は、最優先事項になる。その意味がこういった兵器だ。


「ゴドルザークの森の遺跡は、まともに探索さえできぬ状態で50年も経ってしもうた」

「お師匠様でも、ジャバル王国軍を退けられないのですか」

「やろうと思えばできる」


 なぜしないのか、ロドニーは思考を巡らせた。


(ジャバル王国軍を退ければ、遺跡の探索は進むのだから王国に損はない。いや、それだけの戦功を立てたお師匠様に、それなりの褒美を与えなければならない。それが遺跡に関することなら、国はこういった兵器の所有権を手放すことになるのか……それでお師匠様に依頼をしないのか?)


 もしそうなら、戦役を課せられている貴族たち、その戦争で死んだり一生癒えない傷を負った者は王家を恨んでいいだろう。


(いや、待てよ……まさか貴族の力を削ぐために、この戦争を利用しているのか?)


 それのほうがしっくりくる。王家は貴族の力を削ぐために、この戦争を利用しているのだと、ロドニーは考えた。


「ロドニーよ。ここでは良いが、外ではうかつなことを口にするでないぞ」

「はい。お師匠様」


 ロドニーの考えが正しいことを、賢者ダグルドールは示唆した。

 戦争は貴族が財産を蓄え、兵馬を養うことを抑制する。同時に王家への不満も溜まることになる。

 ロドニーのような下級貴族は王家の考えに思い至らないかもしれないが、上級貴族であれば王家の思惑を見透かしているかもしれない。


(すでに50年も戦争をしている。その間に多くの人が犠牲になった。俺のように父親を戦で失った貴族は多いはず。王家はその不満を感じているのだろうか?)


「このまま戦争を続けた場合、王家の求心力は低下するのではないですか?」

「そんなものは、とっくの昔に底を突いておるわ。お前は知らぬであろうが、多くの貴族が不満を持っておる。大臣どもが握り潰しておるのだ」

「状況報告会の場でそういったことを訴えることはできないのですか?」


 状況報告会は領地持ちの貴族の言葉を、国王に直接届けることができる場だ。そこで誰も何も言わないのかと、不思議に思った。


「大臣たちがあの場に居るのは、そういった行動をとった者を牽制するためよ」

「それならお師匠様なら―――」

「何度か国王に話をしたことがある。だが、今の国王は大臣たちから聞いたことがないという理由で、まったく危機感を持たなかった。嘆かわしいものだ」


 国王は賢者ダグルドールよりも、大臣たちの言葉を信じる。国王が誰を信じるかは、国王次第。信じたい者を信じ、そうでない者は信じない。愚鈍な君主であると、賢者ダグルドールは首を振った。


「ロドニーもそのうち出征することになろう。その時には無駄に命を散らさぬようにすることだ。あんな戦争で命を散らすのは、バカらしいわい」


 その戦争で父は死んだ。ロドニーはなんとも言えない表情をした。


「おっと、これは失言だったな。ロドニーの父親をバカにしたわけではないからの」

「はい。分かっています」


 ロドニーと賢者ダグルドール、そして弟子になったバージスは、極秘裏にビーム砲を解体した。

 前世の記憶を持つロドニーは、解体した部品がどういったものかほとんど理解できた。根源力の『理解』もよい仕事をしてくれた。


 また、宝物庫から持ち帰ったアイテムの中に、鑑定片眼鏡というものがある。この鑑定片眼鏡の効果によって、理解できない部品のことが分かった。

 ロドニーはビーム砲の部品を『造形加工』で複製し、ビーム砲を新しく造り出した。


「これは大変なことだ。古代兵器を複製したのだからな。だがな、ロドニー」

「他言は無用ですね?」

「そうだ。このことは我ら3名の胸の中にしまい込め。いいな、ロドニー、バージス」

「「はい」」


 宝物庫を開いたことは報告する義務がある。だから報告するが、ロドニーがビーム砲を複製できることは極秘にする。


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 冬になる前に、生命光石をバッサムに送る。王家の上納用の生命光石だ。

 北部の各領地からバッサムに集められた生命光石は、国軍によって王都へと運ばれる。

 いつもは従士の誰かがこの任にあたるが、今回はロドニーが直々に輸送を指揮した。


 中央から派遣されてきた徴石官に生命光石を引き渡すと、その足でバニュウサス伯爵に面会した。


「何と、宝物庫を開けたのか!?」

「賢者様の指導によって、なんとかなりました」


 バニュウサス伯爵はラビリンスの宝物庫のことを知っていた。ロドニーが領主としての教育を受ける前に父親が亡くなったためこういったことを知らなかったが、貴族の当主であれば当然のように知っていることだ。


「宝物庫を開くと、強力な守護者が居ると聞く。それを倒したということで間違いないのだね?」

「はい。強力なセルバヌイが待ち構えておりましたが、倒しました」


 宝物庫に入れるのは、たった3人。その3人で守護者を倒すと、宝物を得られるという仕組みだ。

 賢者ダグルドールからそのことを聞いていたロドニーは、最善のメンバーで挑んで守護者である巨大ヘカトンケイルを倒した。


「宝物庫からは金銀財宝だけではなく、アイテムも得られたはず。このことは王家へ報告せねばならぬが、アイテムのことを聞いてもいいかね?」


 バニュウサス伯爵に5つのアイテムについて教えた。

 ・ビーム砲 : 巨大ビーム兵器。固定型。

 ・電磁投射砲レールガン : 超巨大遠距離攻撃兵器。固定型。

 ・鑑定片眼鏡 : 対象のアイテムの用途、詳細を知る。

 ・怪腕の指輪 : 根源力の『怪腕』と同じ効果を得る。

 ・自動防御ベルト : 装備者への攻撃を自動で防御する。

 どれも素晴らしいアイテムであった。バニュウサス伯爵も、さすがは宝物庫のアイテムだと感嘆している。


 宝物庫の宝物は王家に献上する義務はないが、報告の義務はある。隠していると罪に問われるのだ。

 王家に報告することで宝物の詳細は、公のものになる。バニュウサス伯爵に隠す必要はない。


 また、守護者を倒せる戦力があり、宝物を所持していることが公になると、知らない親戚が増えたり宝物を狙うこれまで付き合いのなかった貴族や商人が近づいてくる。

 そういった者たちの全てを排除はできないので、バニュウサス伯爵は注意するように促した。


「本来では献上する義務はないが、1つでも献上すれば陞爵できるほどの功績だ。ロドニー殿はどうするのだ」

「はい、ビーム砲を献上しようかと考えています」


 ビーム砲と電磁投射砲レールガンは複製できている。共に王家に献上しても構わないが、大盤振る舞いするほど王家に思い入れはないので1つでいい。


「ふむ。この中ではビーム砲、電磁投射砲レールガン、自動防御ベルトのどれかだろう。妥当なところだ」


 ビーム砲と電磁投射砲レールガンは、王家の戦力を底上げする。それに対して自動防御ベルトは、国王が使用することで暗殺などを防げるものだ。

 ただし、自動防御ベルトは複製できていないので、献上品の対象にはしない。


「して、対価に何を望むつもりかな?」


 宝物庫の宝物を献上する以上、それなりの見返りがある。それがこれまでの慣例だ。

 ロドニーは望むものをバニュウサス伯爵に教えた。理解を得て協力を得るためだ。


「ロドニー殿の話は分かった。いいだろう、私からも王家に書状を認めよう」

「ありがとうございます、閣下」


 ロドニーはその足で王都へ向かった。早くしなければ冬になってしまう。最下級貴族の騎士爵が謁見を申し入れても何日も待たされることになることになるだろう。そういった時間ももったいないが、しなければならないことだ。


 だが、その予想は覆された。宝物庫を開いた者はある意味英雄である。さらに言うと、賢者ダグルドールの弟子というネームヴァリューもある。そのロドニーとの謁見は、最優先に扱われた。

 賢者ダグルドールの言葉は聞かないが、その名声は恐ろしい。国王という者は違和感の塊の存在であった。


「北部デデル領が領主、ロドニー=エリアス=フォルバス騎士爵。前に」


 国王との謁見は謁見の間において行われた。宝物庫の宝物は、それほどのものだということだ。


「この度、フォルバス卿によって、廃屋の迷宮の宝物庫が開かれた。フォルバス卿は守護者を討伐し宝物庫の宝物を持ち帰り、王家に宝物を献上するに至った。よき、心がけである」


(献上しなければならない慣例を作っておいて、よく言う。だが、そのおかげで望みが叶うのだから文句は言わないけど)


 大臣の1人、鉤鼻のコードレート大臣が羊皮紙に書かれた内容を読み上げていく。その表情が苦虫を潰したような苦々しいものだった。


(俺が何かを得ることが、そんなに面白くないのかな?)


「フォルバス卿よ。宝物庫の解放、ご苦労であった。また、素晴らしいものを献上してくれた。嬉しく思うぞ」


 国王は素直に喜んでいるように見えた。


「はっ、恐悦至極にございます」

「デデル領に港を開きたいと聞いた。今回の献身を鑑みて、それを許可するものとする。今後も王家への忠誠に励むがよい」

「ありがとう存じます。陛下に一層の忠誠を」


 ロドニーが望んだものは港だ。ガリムシロップの輸出に使える港、そしてこれからはビールも大量に輸出できる港が欲しかった。小さな漁港は、いくらでも築くことができるが、交易を行う港は王家の許可がないと築けない。ロドニーは、交易港が欲しかったのだ。

 もちろん、造船所も造ることになる。船大工をスカウトする必要があるが、そこは祖父のハックルホフに頼めばなんとかなると楽観視している。最悪、ロドニーが『造形加工』で建造してもいい。


 交易港を開くには、バニュウサス伯爵にも話を通さなければならなかった。

 今はバッサム港が最北の港だが、デデル領に港が開港したらバッサム港が中継地になる。そこを治めているバニュウサス伯爵に、仁義を通しておかなければならなかったのだ。


 ロドニーはすぐに冬がくるため、急いで領地に帰った。この時期に王都へやってきたのも、冬が近いからすぐに帰る名目が立つからだ。


 最北の騎士爵が宝物庫を開いた噂は、すぐに王国中に広がった。だが、冬の北部には行けない。特に最北のデデル領は、雪で閉ざされている。美味しい思いをしたいといった者たちの、熱が冷める良い期間だった。


 

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