第42話
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042_湖底神殿の守護者
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オジンと賢者ダグルドール、ロクスウェル、エンデバーの戦いが始まった。
地上と違い、水中ではオジンの動きは素早い。ロクスウェルとエンデバーは2人でオジンの動きを牽制するので、賢者ダグルドールに大打撃を与えてほしいと頼んだ。
「よいじゃろう。わしの力をとくと見るがよい」
「「はっ!」」
2人も伊達にデデル領の海で訓練してきたわけではない。デデル領の海は沖へ100ロム(200メートル)も行くと、かなり速い海流が流れている。その海流に抗うことで、水中でも自在に動けるように訓練してきたのだ。
オジンの速い動きにも負けない動きをする2人を見て賢者ダグルドールは目を細め、自分も負けていられないと口角を上げる。
オジンの大きさは経験豊かな賢者ダグルドールであっても、滅多に見ないほどのものだ。久しぶりの大物に、心が躍る。
賢者ダグルドールは魔力を練り上げる。
「ロクスウェル! エンデバー!」
「「応!」」
オジンの視界から賢者ダグルドールが消えるように、2人は全力で離脱する。
「キモイ化け物め、死にさらせ。デスキャノン!」
死の気配を感じたのか、オジンは賢者ダグルドールへと顔を向けた。時すでに遅し、デスキャノンの黒く淀んだ砲弾が目の前まで迫っていた。
オジンはその砲弾をなんとか避けようと巨体をよじるが、砲弾はオジンの頭部の付け根に命中した。
「ギャァァァァァァァァッ」
不快な悲鳴が水を伝った。
デスキャノンが命中した場所が黒く変色している。その黒は徐々にオジンの体に広がっていく。
黒く変色した鱗がボロボロと剥がれ落ちる。皮膚が腐っていくのがオジンにも分かるくらいの苦痛が襲う。皮膚の下の肉をも腐らせ、さらには骨や内臓も壊死していく。
苦痛に暴れ回ったオジンだが、次第に動きが悪くなっていき、全身が黒く変色したところで動かなくなった。
塵となって消え去ったオジンの生命光石が、湖底へと落ちていく。
「あんな根源力は見たことがありません。さすがは賢者様です」
「ロクスウェルよ、世の中は広い。自分が知っていることなど、この世界のほんの一部でしかないのだ」
「賢者様のお言葉、しっかり覚えておきます」
根源力は生命光石を大量に得られる者でなければ得ることができないが、それさえクリアすれば誰でも使えるものだ。だが、魔法というものは根源力と違って、誰でも使えるものではない。
この世界で魔法を使える者がどれだけいるだろうか。長く生きている賢者ダグルドールでも、バージス以外で魔力を持っている者を知らない。
仮に魔力を持った者が居たとして、魔法を使えることに気づくだろうか。難しいだろう。
誰も魔力に気づかない。それが、この世界で魔法が発展しない理由かもしれない。
賢者ダグルドールは自分の魔法を後世に伝えることができないことを嘆いていた。この世界では魔法の修行よりも楽に根源力が得られる。それが弊害になっているのかもしれない。
だが、バージスという自分に匹敵するほどの魔力を持った少年を見つけた。体が震えるほどの歓喜だった。
今回は連れてきていないが、いつかバージスが新たな賢者となるだろう。必ずそうなるように育てて見せる。
その意気込みが、今日のアルガス=セルバム=ダグルドールにあった。
湖底神殿に向かったロドニーたちは、迫り来る海人を斬り飛ばして進んでいた。どこから湧いて出てくるのか、斬っても斬っても海人は出てくる。
それでもロドニーたちは進んだ。そして、とうとう湖底神殿に辿りついた。
ロドニーたちが湖底神殿の入り口の前に立つと、不思議と海人たちは襲ってこなくなった。海人たちは湖底神殿から一定の範囲には入ってこれないのだ。
「なんと言うか、デカいね」
エミリアが巨大な湖底神殿を見上げる。
「この巨大な扉を開けるのは、かなり苦労しそうです」
ユーリンは現実的な考えを口にした。
「これほどの彫刻を誰がしたのかな?」
ユーリン像を作っていて分かったが、湖底神殿の壁に施されている彫刻の繊細さは感嘆に値する。
誰がラビリンスを作ったか賢者ダグルドールにも分からないらしいが、その造形美は賞賛できるものだった。
「お兄ちゃん、早く中に入ろうよ!」
懐からカギを取り出して、カギを扉にかざす。
この湖底神殿が宝物庫であれば、これだけでカギが反応するらしい。
カギがスーッと消えてしまった。賢者ダグルドールの言う通り、この湖底神殿は宝物庫だったのだ。
「お兄ちゃん、扉が開いていくよ」
巨大な扉が徐々に開いていく。中から眩い光が漏れ出してきた。
眩しさに腕で光を遮る。光がロドニーたちを包み込む。
「「「………」」」
気づけば、3人は宝物庫の中に居た。
どういう原理かは分からないが、一瞬で移動したようだ。ただ、光に包まれただけで、それ以外は何も感じなかった。
「お兄ちゃん……」
「ロドニー様……」
「お、おう……」
宝物庫の中には水はなく、代わりに石の巨人が立っていた。ヘカトンケイルである。
「これはまた大きいな」
その大きさはオブロス迷宮で遭遇したヘカトンケイルよりも大きかった。容姿はまったく同じで3つの頭と8本の腕があるが、倍近い大きさだ。
後方を見ると、扉は固く閉ざされていた。
宝物庫には必ず守護者が居る。その守護者を倒さないと、逃げることもできない。賢者ダグルドールの言っていた通りである。
「エミリア、ユーリン。先制攻撃だ」
「「はい」」
3人は剣を抜くと構えた。
エミリアとユーリンが、ヘカトンケイルに向かって『高速回転四散弾』を撃つ。同時にロドニーも『爆砕消滅弾』を撃った。
3人が射出した極悪な根源力は、一瞬で巨大ヘカトンケイルに到達し、大爆発を起こした。
『鉄壁』『堅牢』『金剛』といった根源力を発動し、爆風に耐える3人。
爆発が収まる。巨大ヘカトンケイルは傷ついているが、健在だった。
「オブロス迷宮の奴よりも硬い!?」
「ロドニー様。口が開きました」
それはビームの予備動作だ。
「迎え撃て!」
「「はい」」
エミリアとユーリンが、再び『高速回転四散弾』を射出したと同時に、ビームが放たれた。
3本のビームが迫り来る。2人の『高速回転四散弾』はビームに当たることなく、巨大ヘカトンケイルへと飛翔する。
ロドニーも根源力を発動させる。だが、今回は『霧散』だ。迫りくる3本のビームが掻き消えた。
2発の『高速回転四散弾』が巨大ヘカトンケイルに着弾し、再び爆発を起こす。
ロドニーは、休むことなく『爆砕消滅弾』を3連射した。
圧倒的な爆風が3人を襲うが、ロドニーは『金剛』を発動させてエミリアとユーリンを護るように前に立つ。
爆風の中、巨大ヘカトンケイルがまだ健在なのは、『鋭敏』が教えてくれた。
「まだ生きているぞ。頑丈な奴め」
守護者は通常のセルバヌイと違い、非常に強力で頑丈。賢者ダグルドールの言葉を思い出す。
巨大ヘカトンケイルが動き出したのが分かった。床を破壊するほどの地響きを立てたのだ。
姿を現した巨大ヘカトンケイルは、顔が2つなくなっていて、腕も1本しか残っていなかった。胸にも穴が開いていて、向こう側が見える。それでも、まだ動くのだから、頑丈というよりはしぶとい、さらに言うとしつこいと形容するのが正しいだろう。
「お兄ちゃん、ユーリン、行くよ!」
「おう!」
「はい!」
3人は散開して飛び出した。
エミリアが直線的に巨大ヘカトンケイルとの間合いを詰めると、1本だけ残った太い腕が振り下ろされて拳が床にめり込んだ。
エミリアは飛び上がって、その太い腕に着地。そのまま腕を駆け上って、顔に刺突4連。石の顔が破壊されるが、頬が抉れた程度だ。
「あんた、硬いのよ!」
巨大ヘカトンケイルはエミリアを振り落とそうと、大きく上体を動かした。エミリアは後方宙返りを決めて着地する。
ユーリンとロドニーは左右から、巨大ヘカトンケイルの足を斬りつける。ユーリンの一撃は、赤真鋼の大剣が太い足を抉った。そこからヒビができていく。
ロドニーも巨大ヘカトンケイルの足に斬りつけた。『怪腕』『加速』そして『カシマ古流』、さらには『覇気』を
巨大ヘカトンケイルの自重によって、ユーリンの攻撃できた足のヒビ割れが広がっていく。
反対の足は、足首に一筋の線ができてそこからズルりと落ちた。体勢を崩した巨大ヘカトンケイルは、轟音を立てて倒れた。
「2人の共同作業に負けないんだから!」
「「そんなんじゃ!」」
ユーリンとロドニーの攻撃を共同作業と言うエミリアが、3人に見える程の速度へと加速した。
「「「エミリア命名、必殺15連突き!」」」
3人のエミリアが巨大ヘカトンケイルの頭部に攻撃を加えた。3人がそれぞれ5連突きなのか、1人が15連突きなのか見えないほどの刺突攻撃だ。
巨大ヘカトンケイルの頭部が爆ぜた。それがとどめになって、巨大ヘカトンケイルは塵になって消えた。
その跡に山のような宝が現れた。
「おおおっ、これは凄いな」
「金貨が山のようにあるわよ、お兄ちゃん」
「本当に宝物庫だったのですね」
ロドニーたちは山のような宝を前に、座り込んで笑いあった。
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