第41話

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 041_湖底神殿攻略戦

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 湖底神殿が近づくにつれ、海人の数が増えていく。鱶のようにロドニーたちの匂いを嗅ぎつけてきたようだ。


「いやー、久しぶりの戦いで、血が滾るぞ!」


 賢者ダグルドールは喜々として海人をぶっ飛ばしているが、海人もただ殺られるだけではない。トライデントの先から発っする水球がいくつも向かってくる。

 だが、賢者ダグルドールは根源力ではなく、魔法でこれらの攻撃を防ぎ、海人を蹴散らす。

 細身で比較的小柄、しかも高齢の賢者ダグルドールの戦う姿に触発されたのか、ロクスウェルとエンデバー、そして領兵たちも戦いに加わった。


「よく鍛えられた兵たちだ」

「従士たちがしっかりと指導してくれたおかげです、お師匠様」

「うむ。それが分かっていればいい。全てがロドニーの力ではない。お前を助けてくれる者がいてこその力だ。そのことを決して忘れるでないぞ」

「はい。お言葉、ありがとうございます」


 賢者ダグルドールでさえも、昔は挫折しかかった。仲間や自分を支えてくれた者たちがいてこそ、今の賢者ダグルドールがある。その経験があるからこその言葉だ。


「しかし、あの『流体爆発弾』と『高速回転四散弾』は、素晴らしいな。放出系の根源力は水中であまり威力を発揮せぬが、この2つの根源力は常識外れの威力だぞ」


 賢者ダグルドールが感嘆するように、ロクスウェルたちの『流体爆発弾』と『高速回転四散弾』は水中であっても非常に威力が高い。


「水兵に『水中適応』を覚えさせる貴族は居るが、放出系の根源力は覚えさせない。ほとんど意味がないからだ。ロドニーは水中戦において、大きな力を得たことになる。アホな奴はそれをやっかむから、使いどころには気をつけるのだぞ」

「肝に銘じておきます。お師匠様」


 湖底が砂から岩に変わると、ここからが本番である。

 岩場を少し進むと、湖底神殿の方向から200を超える数の海人が向かってくる。圧倒的な数だ。


「ここは我らが」

「ロドニー様たちは力を温存しておいてください」

「頼むぞ。ロクスウェル、エンデバー」

「「はっ」」


 ロクスウェルとエンデバーは、領兵たちを率いて前進した。水中戦は地上戦と違って前後左右を警戒するだけでは不備がある。前後左右に加えて上下も警戒しなければならない。12名で立体的に警戒できる隊形を組んだ。


「『流体爆発弾』用意!」

「「「応!」」」


 攻撃指示はロクスウェルが受け持つ。対して防御に関してはエンデバーが行う。海人の数が数百体なので2人が考えに考え、訓練に訓練を重ねた結果、このような連携になった。


「撃て!」


『流体爆発弾』が一斉に放たれ、それが海人に着弾。数が多いので撃てば海人に当たる状態だ。

 べちゃりと付着した流体金属が、その周囲の海人まで巻き込んで爆発した。爆発により大量の泡が発生し、視界が遮られる。だが、ロクスウェルはお構いなしだ。


「次弾、撃て!」


 泡で視界が遮られても、その向こうには大量の海人が居る。見えなくても撃てば当たる状態だ。

 泡を通り抜けた先で爆発が起こると同時に、ロクスウェルは下降を指示した。


 ロクスウェルの思った通り、海人たちは散開していた。狙い通りだとニヤリと口角を上げたロクスウェルが、再び『流体爆発弾』を撃つように命じた。

 領兵たちはロクスウェルの命令通り、一糸乱れぬ動きを見せた。海人が圧倒的な数なので、領兵たちの練度が低いと生きて帰れない。そういった共有ができていて、必死で訓練したのだ。


 ロクスウェルは巧みに部隊を動かしながら、海人の攻撃をいなして攻撃を加えている。

 海人の数は多い。しかも、戦闘が始まってからも湖底神殿から増援がある。ロクスウェルが巧に部隊を動かしても、数の差は埋めようがない。


「上方、数30、迎撃する!」


 エンデバーが上方に『高速回転四散弾』を撃った。圧倒的な速度で水中を進んだ『高速回転四散弾』は1体の海人に着弾し、周囲に無数の刃を撒き散らした。

 ロドニーが知る限り最大の攻撃範囲を誇る『高速回転四散弾』は、30体の海人を一瞬で切り刻んだ。

 パラパラと生命光石が落ちてくるのを気にすることなく、エンデバーは油断なく全方位に意識を向ける。


「よし、後退!」


 ロクスウェルが海人を牽制しながら、海人との距離を取ろうとする。

 海人は距離を取られまいと、前進してくる。

 だが、ロクスウェルは部隊を半円状に展開し、突出した30体ほどの海人に集中砲火を浴びせた。


「あの者、なかなか戦巧者だな」

「おかげで楽ができます」

「楽をし過ぎるのは、いかんぞ」

「承知しています。お師匠様」


 その後もロクスウェルは巧みに部隊を運用し、攻めて来た300体近い海人を倒すに至った。

 さすがに領兵の疲弊は激しく、ロドニーは領兵を後方に下げる判断をした。


「これよりは、領兵の援護なく進む。エミリア、ユーリン。いいな」

「まかせてよ、お兄ちゃん!」

「ロドニー様に勝利を!」


 ユーリンの口調が従士のそれに戻り、ロドニーに「様」をつける。それほど緊張しているのだ。


「我らも行けるところまでお供いたします」

「露払いはお任せあれ!」


 ロクスウェルとエンデバーはまだ動ける。素晴らしい精神力だと、ロドニーは頼もしく思った。


「お師匠様も無理をされないように」

「誰に向かってものを言っておるか! ワシの心配をするのは100年早いわ!」


 久しぶりの実戦に、血が滾る賢者ダグルドール。幾度となく危機を乗り越えてきた精神力と体力は、年老いたと言っても健在であった。


「進め!」


 ロドニーの号令と共に、皆が進む。まだ数百の海人が湖底神殿を護っている。だが、その数はかなり減っているように見えた。


「ウォーターサイクロン!」


 最初に動いたのは、賢者ダグルドールだった。20体ほどの海人を生命光石に変えた。


「「『高速回転四散弾』!」」


 ロクスウェルとエンデバーが同時に『高速回転四散弾』を撃ち、さらに50体ほどが生命光石に変わった。


「私も負けてられないわ。『高速回転四散弾』!」


 エミリアの『高速回転四散弾』によって、30体の海人が生命光石に変わった。


「ロドニー様の邪魔をするものは、全て薙ぎ払います!」


 ユーリンの強い意志によって発動された『高速回転四散弾』は、密集していた海人60体を切り刻んだ。


「ユーリンよ、やるではないか」

「賢者様にお褒めいただき、この上なき誉れにございます」

「だが、その堅い物言いはいかんぞ。心に余裕がない証拠だ。心を落ち着けるのだ」

「……ありがとうございます」


 賢者の言葉を受け、ユーリンは肩に力が入っていることに気づいた。


「ははは。肩の力が抜けたようだな。うむ、素直なことは良いことだ」


 喋りながらも魔法を発動する賢者ダグルドールは、その称号に恥じぬ実力を発揮していた。


 ロドニーも『高速回転四散弾』を連発し、海人を屠っていった。

 群がる海人は数をかなり減らし、集団ではなく個、または少数で襲ってくるようになった。こうなると、『高速回転四散弾』では効率が悪い。白真鋼剣びゃくしんごうけんを抜いて、海人を斬っていく。


「ははは。ロドニーよ、戦いは楽しいのう」

「そう思えるのは、お師匠様のような強者だけです」

「何を言うか、お前も強者の一角に入っているぞ」


 2人は喋りながらも接近してきた海人を屠る。ロドニーは白真鋼剣びゃくしんごうけんで、賢者ダグルドールは格闘が得意のようで海人を殴り殺している。


「お師匠様。あまり無理をしないようにしてくださいね。奥様にもはしゃぎ過ぎないように言われてますよね」

「うるさいわい! こんなもの、準備運動にもならんわ!」


 徐々に近づく湖底神殿。その厳かな外見からそれが神殿に見えたロドニーだが、おそらくは宝物庫である。

 ロドニーたちは湖底神殿に取りつこうと、進む。そんなロドニーたちの前に大きな影が現れた。


「オジンです!」


 ロクスウェルの声が響く。


「なんじゃ、あのキモイ奴は」


 脂ぎった中年男性の顔を持ったヘビのようなセルバヌイ。水中ではその巨体に似合わぬ速度で移動できる化け物だ。


「ロドニー。あれはわしに任せて、先に行け」

「しかし……」

「あんなもの、わしにかかればちょちょいのちょいだ。お前は湖底神殿のカギを開けるのだ」

「……分かりました。お任せします」

「「賢者様を援護いたします!」」


 ロクスウェルとエンデバーが、賢者ダグルドールを援護するために残ると言う。ロドニーは頷き、2人と賢者ダグルドールにオジンを任せることにした。


「エミリア、ユーリン、行くぞ」

「「はい!」」


 

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