第45話
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045_結婚
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長い冬がやっと終わり、春がやってきた。とうとうロドニーとユーリンの結婚式が行われる。
招待された貴族たちも2人の門出を祝福してくれる。
「ロドニー殿、ユーリン殿。おめでとう。しかし、このような器量良しの女性を妻にできて、ロドニー殿は幸せ者だ」
「ありがとうございます。バニュウサス閣下。私も幸せ者だと、自分で思っております」
「ははは。のろけてくれるわい」
レースのケープは腰まである輝く金髪を神秘的な美しさに引き立てており、純白のドレスを身に纏ったユーリンはまるで美の女神のような美しさであった。
「閣下。今後は主人共々、よろしくお願い申しあげます」
「もちろんだ、ユーリン殿。今度、我が城に遊びにきてくれ」
「ありがとうございます」
多くの来賓から祝いの言葉をもらった。
今日のために高価なバニュウサス器を買い求め、バッサムの有名店からシェフを呼び寄せて料理を作ってもらっている。
「ロドニー! よくやった! これでフォルバス家も安泰だ!」
「爺さん、暑苦しいぞ」
「嬉しいのだ!」
ハックルホフは相変わらず暑苦しかった。
「ユーリン、おめでとう。私も素敵な彼氏がほしいわ」
「シーマ様。ありがとうございます。シーマ様であれば、すぐに良い方が見つかりますよ」
「本当にそう思う? お爺ちゃんがあれだよ?」
ロドニーに絡んでいるハックルホフを2人が見る。ハックルホフの孫可愛がりは、ユーリンも知っている。もし、シーマに彼氏ができたら、「ワシの目が黒いうちは許さん!」と言う光景が浮かんできて苦笑した。
「ユーリンさん。ロドニーをお願いね」
ロドニーの祖母でハックルホフの妻であるアマンは、柔らかな笑みを浮かべてユーリンの手を取った。
「こちらこそよろしくお願いいたします。アマン様」
多くの来賓から、祝福を受けたロドニーとユーリン。
その2人の前にバツが悪そうに現れたのは、ロドニーの伯父であるサンタス。
「その……あの時は悪かった。許してほしい」
ロドニーに絶縁宣言した後、ハックルホフにボコボコにされて王都の店で役職もない平店員として修業していた。そこでロドニーが活躍している噂を聞き、自分が間違っていたこと、人を見る目がないことを痛感していた。
大商人の息子としていい気になっていたのを反省して、真面目に仕事に取り組んだ。サンタスは最近、バッサムに戻されたところだ。
「今日は来てくださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね、伯父上」
ロドニーはあえて何も言わず、結婚式に来てくれて感謝していると伝えた。サンタスもぎこちない笑みだったが、ホッとしたような表情をした。
「ロドニー様。次は
「気が早いぞ、ロドメル」
「何を仰いますか。ロドニー様の英名さとユーリン様の武を受け継いだ男子がお生まれになられたら、フォルバス家の繁栄は数十年のものになりましょう。我ら家臣一同、そうなることを願っております」
相変わらずだなと、ロドニーが苦笑する。
「まあまあ、ロドメル殿。ロドニー様もそのくらいのことは考えておりましょう」
従士ホルトスが楽しく飲もうと、ロドメルを引きずっていく。
皆が楽しみ、祝ってくれた。それがとても嬉しくて、胸がいっぱいになった。
「ロドニーよ、良かったな。ユーリンを大事にするのだぞ」
「はい、お師匠様。ユーリンを悲しませないように、努力します」
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結婚式の翌日には、賢者ダグルドールに連れ出された。線路造りのためだ。
新婚でも構わず連れ出す賢者ダグルドールは、欲望に忠実だった。
冬の間中魔法漬けだったバージスがバラストを敷設したところを、ロドニーがタコと言われる地面を固めるもので圧をかけて均す。『剛腕』を発動したロドニーがタコを打ちつけると、バラストが締まっていく。
新婚というものを抜きにしてもラビリンスに入る時期なのだが、線路の敷設のためにロドニーは
ロドニーとバージスは、20ケンツ(4キロ)程の線路を敷設した。これによってバージスの魔法練度が上がり、かなりスムーズに魔法が発動するようになっていた。
「これで良し。お師匠様、準備完了です」
「うむ。さっそく自動車を走らせるのだ!」
自動車と言っているが、どちらかというと電車のほうが近い。ロドニーはどっちもでいいと思っているが。
トロッコのような台に発電機とモーターが載っただけの簡素な自動車に、ロドニーと賢者が乗り込む。
箱型の発電機に引き出しのようなものがあり、それを引いた。そこに生命光石1個を設置する。この生命光石は廃屋迷宮で最も多く入手できるゴドリスのもので、いくらでも手に入るものだ。
本来、生命光石を扱う職人―――光石アイテム職人は国によって厳しく管理されている。だが、例外もある。それは、貴族家の当主本人だ。
貴族家の当主が光石アイテム職人であった場合、国の管轄を離れる。
そもそも貴族家の当主が職人のマネ事をすることは、あまり褒められたことではない。それを禁じる法はないが、卑しい行いとされているためしないだろうという程度の根拠だ。
発電機のスイッチをオンにすると、モーターに電力が供給される。その電力を調整して、モーターの回転数をコントロールする。
静かな音がしたのでモーターが動き出したのが分かる。車輪が回り自動車がゆっくりと動き出す。
「おおっ! 動いたぞ、ロドニー」
「動かしているのですから、当然ですよ」
「お主には感動というものはないのか!?」
はいはいと適当に流して、さらに回転数を上げていく。回転数が上がると速度も上がり、賢者ダグルドールのテンションはさらに高まる。
「気持ち良い! これが自動車か!?」
「お師匠様、座ってください。危ないですよ」
速度メーターがないので正確な速度は分からないが、時速は30キロ程の速度まで上昇したところで賢者ダグルドールは感激して立ち上がった。この世界で初めての自動車または電車の走行に成功した瞬間なので、興奮するのも無理はない。
「ロドニー。速度をもっと上げるのだ」
「これが最高速ですよ。試作品だから、そこまで速度に拘ってませんので」
「次はもっと速度が出るものにするんだぞ」
「分かりましたから、座ってください」
モーターを手で触るが、発熱は予想よりなかった。回転数をもっと上げるには、冷却も考えないといけないだろう。
そんなことを考えていると、線路の端が見えてきたので電力をカットして、ブレーキレバーを引いて自動車を止める。
「ロドニー。線路をもっと長くするんだ」
「試験走行用なんですから、これくらいでいいじゃないですか。それに、お師匠様は電車ではなく、自動車を作ることを考えているのでしょ? だったら、タイヤの素材を探したほうがいいと思いますよ」
「だが、ゴムというものはないのだろ?」
「ゴムじゃなくても、ゴムに似た素材を探せばいいのです」
探すと言っても、ゴムの木やそれに類する植物が、デデル領のような寒冷地で育つとは思えない。
「南部のような温暖な場所であれば、発見できるかもしれませんよ」
「ふむ。ならば、南部へ行くぞ!」
「俺は無理ですよ。領地経営もあるし、港も築かないといけませんから」
「むむむ」
「そうだ、お師匠様とバージスに頼みがあったんです。港を築くのを手伝ってほしいんです」
「工事なんてつまらん」
「そう言わずに、可愛い弟子の頼みを聞いてくださいよ」
賢者ダグルドールは渋々港工事を引き受けた。
海岸そばの岩場を埋め立てる。ここでもバージスがいい仕事をした。
船が座礁した場所まで埋め立てると、今度はロドニーが『造形加工』で埠頭にしていく。同時に防波堤の役目もあるので、かなり大がかりなものだ。
座礁していた船を収納袋に回収し、海底も整備する。幸いなことに座礁ポイントはそこまで多くなかった。
回収した船にはめぼしいものはない。サルジャン帝国の水夫たちによって、回収されているからだ。少しは金目のものがあっても罰は当たらないと思った。
皇女エリメルダを王都に送った後、サルジャン帝国から感謝の書状と贈り物が届いた。
今年、そのエリメルダが輿入れしてくるらしい。ロドニーにも招待状が来たので、もうすぐ王都へ向かう。
「なかなか立派なものを造ったな」
「あの先に灯台を建てる予定です。それで港湾の整備は終了です」
「その後は自動車開発をするのだぞ」
「自動車よりも先に造船所を建てる必要があります。港があっても船がないのでは、本末転倒ですからね」
「船など買ってくればいい。海賊を狩って、船を奪ってもいいぞ」
「海賊から船を奪うとか、どっちが海賊か分かりませんよ」
「海賊から奪うのは、世のため人のためだ。ははは」
ハックルホフが紹介してくれた船大工が、デデル領に来てくれる。それがこの夏だ。ロドニーは船大工たちに使ってもらう造船所を建てたいと思っている。
港の敷地内に、その造船所を建てる。ここでもバージスの魔法が役に立つ。ロドニーの『造形加工』は材料がないと、何もできない。その材料となる石をバージスが魔法で出してくれるのだ。
ロドニーは港をベックと名づけた。死んだ父親の名前だ。
領主としてはパッとしなかった父親だが、ロドニーたち家族を愛していた優しい父親の名である。
このベック港がデデル領の発展を見守ってくれることを願って、この名をつけた。
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