第39話
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039_『結合』の可能性
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湖底神殿用に『風力水弾』をエミリアとユーリンに覚えてもらおうと思い、2人から『高熱炎弾』を『分離』させた。
この時、ロドニーはふと疑問に思った。この2つの『高熱炎弾』を『結合』させたらどうなるのかと。
元々『炎弾』と『高熱弾』を『結合』させている『高熱炎弾』だが、さらなる『結合』ができるのかと疑問に思ってしまったのだ。疑問に思ったらやらなければ気が済まない。
『高熱炎弾』と『高熱炎弾』を結合させる。かなり精神集中が必要で、『結合』の間ずっと2つの『高熱炎弾』が暴れているような感覚を覚えた。『操作』も意識して使い、なんとか『結合』は成功した。『操作』がなかったら、成功しなかったかもしれない。
『結合』して新しくできた根源力は『爆砕消滅弾』というものだった。試し撃ちをしたいと思ったが、『高熱炎弾』でも威力が大きかったのでラビリンスへ向かうことにした。
当然のようにエミリアとユーリンがついてくる。それに、バージスまでついてきた。
「バージスは絶対に前に出てはいけませんよ」
「はい、お姉様」
微笑ましい姉弟の姿を見て、ロドニーもエミリアに言う。
「エミリアは俺が護るからな」
「何言ってるのよ、私がお兄ちゃんを護るんだよ」
こちらは全然微笑ましくなかった。
廃屋の迷宮の1層。出てくるセルバヌイはエミリアが瞬殺した。その流れるような動きに、バージスは目をキラキラさせる。
1層は廃屋が多く立ち並ぶ廃村エリアだが、どこまでも続いているわけではない。奥まで進むとラビリンスの壁が行く手を阻む。
「ラビリンスの壁に向かって、『爆砕消滅弾』を試し撃ちしたいと思う」
「ラビリンスの壁は最上級根源力でも傷つけることができないと聞いています。試し撃ちには不向きではないですか?」
「そうでもないぞ、ユーリン。壊れないから、好きなだけやれるってもんだろ」
『高熱炎弾』でもかなりの高威力なのだから、壊れないラビリンスの壁になら好きなだけ試し撃ちができるというものだ。
ロドニーは3人を下がらせ、壁から50ロム(100メートル)程離れた場所で精神を集中する。両手をかざすと、そこに直系5ロムほどの光の弾が現れた。
「唸れ『爆砕消滅弾』!」
光弾が空気を切り裂き一瞬で壁へと到達し、めり込んだように見えた。かなり大きな力のはずだが、何も起きないことにロドニーは失敗かと思った。
壊れないと言われているラビリンスの壁にめり込んでいるだけでも、凄いことだとはさすがに思い至ってない。
後方にいる3人も、どうしたのかと首を捻った。その瞬間、光弾がめり込んだ場所から四方八方にひび割れが出来て、大爆発を起こした。
大爆発の余波は、ロドニーにも襲いかかった。吹き飛ばされたロドニーは、瞬時に『金剛』を発動して地面を転がった。
後方に居たユーリンたちにも余波が襲う。ユーリンはエミリアとバージスを庇うようにして蹲った。距離を取っていたことから、ロドニーのように吹き飛ばされることはなかったが、それでも『硬化』を発動してなければダメージを負っていただろう。
爆発が収まると、なんとラビリンスの壁が大きく抉られていた。直系15ロム程がクレーターのようになっていたのだ。
壊すことができないと言われたラビリンスの壁を壊したことに、ロドニーたちは驚愕した。
「今の感じですと、最低でも150ロムは離れないと危険ですね」
ユーリンの言う通りだと思ったロドニーは、200ロムほど距離を取って再び試射をする。
結果、光弾は200ロムを一瞬で飛翔し、大爆発を起こした。ロドニーのところに爆風は届いたが、吹き飛ばされることはなかった。
壁は先程と同じように15ロムほどのクレーターができていた。『爆砕消滅弾』の射程距離を把握するために、さらに距離と取って何度か試射をした。
最大有効射程距離は1000ロムほどだと分かった。それ以上離れると、爆発時の威力が小さくなってしまう。だが、1000ロムもの射程距離は、あり得ないことなので『爆砕消滅弾』は武器になると思った。ただし、使いどころが難しいとも思った。威力が高すぎて、味方を巻き込む可能性があるからだ。
そこでロドニーは思った。『結合』した根源力同士をさらに『結合』できるのであれば、2つではなく3つ、4つの根源力を一度に『結合』できるのではないかと。
やってみたらできてしまった。『炎弾』『水弾』『土弾』『風弾』の4つを『結合』したところ、『流体爆発弾』という根源力になったのだ。
この『流体爆発弾』の威力は『高熱炎弾』とほぼ同等。速度は『風力水弾』未満『高熱炎弾』以上。射程距離が100ロム以上あり、爆発の範囲が広いのが特徴だ。
水銀のような流体金属の弾で、対象に付着してから爆破する。地上、水中のどちらでも使えた。
他の根源力でも色々試したが、『結合』できなかった根源力もあった。そんな中で、最大4つまでは『結合』できた。これが『結合』の限界なのか、今の限限界なのかは分からない。
さらに『風力水弾』同士を『結合』した。出来たのは『高速回転四散弾』。風を纏ったドリルのように回転する水の弾が着弾したら、広範囲を切り裂く刃を撒き散らした。
飛翔速度と攻撃範囲は『爆砕消滅弾』を凌駕するが、射程距離は半分程だった。威力も『爆砕消滅弾』に較べれば低いが、それは『爆砕消滅弾』が高すぎるためだ。『高速回転四散弾』は『風力水弾』よりもはるかに威力は高いのだから、使い方次第だとロドニーは思った。
地上に戻って結合した根源力を、湖底神殿攻略組に与えた。その都度、生命光石を経口摂取しなければならないので、数日がかかった。
エミリア、ユーリン、ロクスウェル、エンデバーに『高速回転四散弾』を覚えてもらい、中堅領兵の10人には『流体爆発弾』を覚えてもらう。
最初は全員に『高速回転四散弾』を覚えてもらおうと思ったが、全員が同じ根源力を使うと戦術の幅を狭めてしまうと思って別にした。
メニサス騒動と『結合』に新たな発見があったため、湖底神殿攻略は伸びに伸びていた。
『高速回転四散弾』と『流体爆発弾』の訓練をしている従士や領兵を見ると、そろそろ湖底神殿の攻略も問題ないだろうと感じた。『高速回転四散弾』と『流体爆発弾』を使えるようになって、攻略の成功率はかなり上昇したはずだ。
「ロクスウェル。エンデバー。『高速回転四散弾』の使い方には慣れたか?」
「はい。いつでも湖底神殿へ向かえます」
「某もロクスウェル殿と同じにございます。しかし、『高速回転四散弾』は素晴らしいものですな。最上級根源力と同等かそれ以上なので、使いどころが難しいですが」
領兵たちもかなり『流体爆発弾』に慣れたので、ロドニーは湖底神殿攻略の号令を出そうと口を開きかけた。領兵の1人が駆け寄ってきてロドニーに屋敷に戻れと伝えなかったら、号令していただろう。
「け、賢者様がおいでです」
「お師匠様が?」
急いで屋敷に戻ると、応接室でお茶を飲んでいる賢者ダグルドールとその妻のメリッサが居た。
「おう、ロドニー」
ロドニーの顔を見た賢者ダグルドールの最初の言葉はとても軽いものだった。
「お師匠様、奥様。ご無沙汰しております。お元気そうで、何よりです」
「ロドニーさんが婚約されたと聞きましたよ、おめでとうございます」
「おう、そうだ。めでたいな! 可愛い弟子の婚約を祝おうと思って、やってきたんだ」
「それはありがとうございます。ですが、お越しくださると知っていれば、お迎えにあがりましたものを」
「この人がロドニーさんを驚かそうと言うもので、ごめんなさいね」
子供っぽいところがある賢者ダグルドールらしい。ロドニーは苦笑した。
「ところで、婚約者のユーリンはどこに居るのだ? 紹介してくれ」
ユーリンは応接室の外で待っていると言うと、部屋に入れろと言われる。
訓練場から直接やってきたのでユーリンは鎧姿のままだと言うと、構わないと賢者ダグルドールが言った。
「賢者様。奥様。ユーリンと申します。このような恰好でお目にかかる無礼をお許しください」
「よいよい。うむ、美人じゃないか。ロドニーも隅に置けぬのう、メリッサ」
「はい。綺麗な方です。ユーリンさん。私は何度か屋敷でお会いしてますが、これからは私のことを祖母だと思ってくださいね」
「滅相もない。恐れ多いことです」
ユーリンが慌てたが、メリッサは優しい笑みを向ける。
「ロドニーさんはウチの人の弟子です。弟子と言えば子供や孫と同じ身内です。つまり、ユーリンさんは私の子供や孫と同じなのです。分かりましたね」
「ありがとうございます」
メリッサとユーリンが和やかに話をしている横でお茶を飲んでいた賢者ダグルドールが、ロドニーに顔を近づけて囁いた。
「ロドニーよ、湖底神殿の攻略はまだだよな?」
「はい。準備は整いましたので、一両日中には」
賢者ダグルドールの視線が鋭いものに変わった。
「それ、わしも行くぞ」
「え?」
「わしも宝物庫を開ける手伝いをしてやると言ったのだ」
(俺とユーリンの婚約にかこつけて、本当はそれが目的か。お師匠様らしいな)
短い付き合いだが、賢者ダグルドールの性格は理解したつもりだ。子供っぽく、好奇心旺盛、そして夢中になると周りが見えない。
ロドニーは、賢者ダグルドールも湖底神殿の攻略に連れて行くことを約束した。動機がどうあれ、賢者ダグルドールの戦い方を見ることができるのは、ロドニーにとっても勉強になると思ったのだ。
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