第35話
■■■■■■■■■■
035_魚竜狩り
■■■■■■■■■■
オブロス迷宮の7層へと至ったロドニーたちは、目的のセルバヌイを発見した。
幅が100ロム(200メートル)ほどある川の岸に、体長3ロムほどのトカゲ型のセルバヌイが陣取っている。
トカゲなのに魚竜と名づけられたセルバヌイの足の指には、鋭い爪があって、指の間には水かきがある。全身は硬い鱗に護られているため、ダメージを与えるのが難しい。しかも、群れていて30体以上が固まっていた。
「数が多いですな」
ロドメルが顔を顰めた。さすがに、30体以上の魚竜を相手にするのは、厳しいと感じたのだろう。
「どうしますか、ロドニー様」
ユーリンが魚竜を鋭い視線で見つめ、ロドニーの指示を待つ。
「俺とエミリアとユーリンで『高熱炎弾』を放つ。連射して魚竜を殲滅するが、近づいてきた魚竜はロドメルたちで応戦してくれ」
「承知しました。戦闘配備だ! 1体もロドニー様たちへ近づけるなよ!」
「「「応っ!」」」
作戦は決まった。ロドニー、エミリア、ユーリンの3人は最も近い魚竜から50ロムほど離れた場所から攻撃することにした。
その少し前にはロドメルたちが、『高熱炎弾』の射線軸に入らないように陣取った。
「準備はいいか?」
ロドニーの問いに、全員が首肯した。
「よし、『高熱炎弾』を撃て。弾幕を切らすな!」
「「はい!」」
3人が『高熱炎弾』を放った。高速で飛翔した『高熱炎弾』は、魚竜の群れの中で爆発した。2体が死亡、4体がかなり大きな怪我をし、群れ全体から怒りの感情が発せられた。
その怒りは当然ながらロドニーたちに向けられた。魚竜たちは怒り狂ってロドニーたちへと向かった。そこに再び『高熱炎弾』が着弾する。先頭の魚竜の体が弾け飛び、後方の魚竜の上に落ちた。
ロドニーたち3人は、『高熱炎弾』を連射した。狙いはつける必要はなく、とにかく弾幕を張ることを優先した。爆発が起きれば、その周囲にいる魚竜にダメージを与えられる。硬い鱗を持っていても、『高熱炎弾』は圧倒的な暴力を振り撒いた。
「これはまた……」
ロドメルが言葉を失うほど、『高熱炎弾』の弾幕は効果的だった。数十発の『高熱炎弾』によって地形が変わるほどの破壊が起こり、30体の魚竜は殲滅された。
ロドメルたちのところへやって来たのたった2体だった。その魚竜も爆発によって傷ついていたため、倒すのに苦労はしなかった。
「ロドメル。生命光石の回収を」
「はっ」
『高熱炎弾』を放った3人は休憩し、ロドメルたちが生命光石を拾い集めた。生命光石の数は32個。『高熱炎弾』の威力が高いことはロドメルたちも知っていたが、ここまでの凶悪だとは思っていなかった。連射ができることで『高熱炎弾』の凶悪さに磨きがかかっていることも驚愕だった。
「お嬢とユーリンの『高熱炎弾』も凄いが、ロドニー様の『高熱炎弾』の威力は群を抜いておりますな」
「剣では敵わないが、『高熱炎弾』のような特殊根源力で負ける気はない」
『カシマ古流』のおかげでロドニーも剣の達人の域に近づいたが、天才であるエミリアやユーリンの域には及んでいない。その人が生まれながらに持つ才能には追いつけないと、最近は感じている。
であるならば、人よりも才能がある、またはアドバンテージがある分野に特化すればいいのではないかと思ったのは最近のことだ。それが根源力なのは、言うまでもないことである。
根源力を使い熟すには、それなりの基礎能力が必要になる。剣の訓練は天才たちに勝つためではなく、根源力を使い熟すためと感覚を研ぎ澄ますのに役にたった。
放出系の根源力を使うと、体力が消耗する。特に『高熱炎弾』のような強力な根源力は、体力を大きく消費する。そのためにも体を鍛えることは、重要であった。
現在、ロドニーが『高熱炎弾』のような体力消耗の激しい根源力を多用できるのは、毎日金棒を振って体を鍛えてきたからだ。それ以前も、才能がないなりに努力をしてきたからである。
では、エミリアが『高熱炎弾』を多用できるのも、体力があるからなのか。
エミリアは幼い時から剣術を習って、野山を駆け巡っていた。小さく細い体なのに、その体力はロドニーよりもあるように見えた。
エミリアは天才だ。天才は体の使い方も効率的なのだ。体を動かす動作の1つ1つが無意識に効率化されていたことで無駄な体力を使わないため、体力があるように見えた。
もちろん、野山を駆け巡ったことで、エミリアに体力がついたのは間違いない。
さて、そんなエミリアだが、根源力を使うのも天才的だった。悪霊との戦いの時に、瞬時に剣に『鋭気』を纏わせて見せたことがあった。普通は訓練を重ねてできる
だからと言って根源力では、ロドニーのほうも負けてはいない。経口摂取というアドバンテージがあるのだから、天才とタメを張る以上のことができると信じている、根源力まで負けるつもりはない。そのための努力はしてきたつもりだ。
休憩を終えた一行は魚竜の群れを探して進み、先ほどの群れよりも大きな群れを発見した。
「今度は50体は居そうですな」
「何体でもやることは同じだ。頼むぞ、皆」
ロドニー、エミリア、ユーリンの3人は、『高熱炎弾』を射出した。高速で飛翔して、魚竜の群れの中で爆発した。数体の魚竜が爆発の威力によって吹き飛ばされ、死んでいく。
先ほどの戦いで着弾場所が似通っていたり、同じ魚竜に命中した反省を踏まえてロドニーが中央、エミリアが左側、ユーリンが右側を担当することにした。
あとはやってみて、改善が必要であればすればいい。
分担制は効果があったようで、50体の魚竜は3人の『高熱炎弾』によって殲滅された。今回は弾幕を掻い潜って接近されることもなかった。
それからもロドニーたちは魚竜の殲滅戦を繰り返した。4度目の殲滅戦を終えたところで、ロドニーは思った。
(これは魚竜狩り祭りだな!)
魚竜を発見したら、最低でも30体は居る。かなり短い時間でとても多くの生命光石を手に入れることができる狩りができた。
ロドニーはとにかく狩り続ける選択をした。エミリアとユーリン、それだけではなく他の従士や領兵に『水中適応』を与えるためだ。数さえあれば、それだけ水中戦力が増えることになる。それは、海に面したデデル領の領主として当然の判断なのかもしれない。
数日かけて魚竜を狩りまくったロドニーたち。4日もすると、魚竜の群れが再配置される周期も把握して、さらに狩りの効率が上がった。
国王は軍がセルバヌイを狩ることでラビリンスが荒れるのを警戒して、10人しかラビリンスに入れない条件をつけた。ロドニーたちは10人の部隊でも十分に荒しになるくらい狩りまくった。
だが、ロドニーは国王との約束を守っているのだから、文句を言われる筋合いはない。もっとも、この7層には王国騎士団の騎士たちは来ないので、誰も文句を言う者はいない。
王国騎士団は群れる魚竜との戦いを避けている。ただでさえ硬い魚竜を一度に30体以上も相手するのは無謀と思っているのだ。
それをたった10人でしてしまうロドニーたちが異常なのだ。
「ロドニー様。そろそろ地上にもどりましょう。すでに予定を大幅に超えております」
オブロス迷宮に入って、そろそろ10日になる頃である。ロドメルが地上に戻ろうと言うのも無理はない。
ロドニーはその提案を受け入れて、地上に戻ることにした。
地上に出たところで数名の騎士が狩りの成果を確認してきた。ロドニーは3層で石巨人に遭遇したと報告した。その生命光石も見せたが、騎士にはその生命光石が石巨人のものか判断がつかない。
ロドニーの報告をそのまま報告書に書いて国王に報告をするか迷ったが、確認する術がないのでそのまま書いた。
また魚竜の生命光石がありえない数だったのも、しっかりと書いて報告した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます