第30話
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030_湖底神殿
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廃屋の迷宮に入ったロドニーたちは、6層の湖の畔までやってきた。
周囲にはセルバヌイの気配はない。湖からもセルバヌイの気配は感じられない。湖の主が1体だけとは限らないが、今のところは姿を見せていない。
「それじゃあ、行ってくる」
「本当に湖に入るのですか? お考え直しください」
防具や服を脱いで下着姿になったロドニーを、ユーリンが止める。『水中生活』を得たことで、湖に入って湖底を探索すると言うのだ。
「危なそうだったら、すぐに戻ってくるよ」
「しかし……」
ユーリンはかなり不安な表情をする。もしロドニーに何かあれば、フォルバス家の一大事だ。だから、何があるか分からない湖底の探索などしてほしくない。
なによりも従士という立場ではなく、ロドニーを慕う1人の女性として胸が張り裂けそうなくらい不安なのだ。
「大丈夫だよ。俺には『快癒』があるから」
どんな怪我をしても一瞬で治してくれる根源力は、頼もしいの一言につきる。
ロドニーはユーリンの頬に手を添えて、帰ってきたら話があると言いそうになったが、言葉を呑み込んだ。
「無茶はしない。待っていてくれ」
「分かりました。ご武運を」
いい雰囲気の2人は、後ろ髪を引かれる思いで離れていく。
「……私は、完全に無視されてる?」
エミリアが頬をかきながら呟いた。
ロドニーはサンダルと下着、それから
水の冷たさはほとんど感じない。体に纏わりつく水が動きづらいということもない。水が綺麗なこともあるだろうが、視界は良い。肺に水が入ってきても息ができる。不思議な感覚だ。
手で水をかけば大きく進み、足で水を蹴ればさらに大きく進んだ。走るよりも楽なのに、かなり速い速度が出る。まさに魚のように、進んでいく。
大して時間もかからず、岸から1ケンツ(200メートル)ほど進んだ。
水面から顔を出して岸を見ると、ユーリンが胸の前で手を結んで心配そうにしているのが見えた。
手を振って安心させようとしたが、そこにセルバヌイが襲撃してきた。
海王の迷宮に居た鱶人のようなセルバヌイだが、体は普通の魚だ。体長はロドニーより小さい70セルームで、トライデントと言われる三叉槍を持っている。
「海人か」
湖に居るのに海の人。魚人でもいいのにとロドニーは思ったが、この海人は海王の迷宮にも居るセルバヌイだ。
海王の迷宮のセルバヌイが海人と名づけられた以降に、この湖でも見つかったのだろう。水中であれば海でも湖でも構わないようだ。
ロドニーは水中に潜って海人を迎え撃とうと、
地上とは感覚が違うので、踏ん張りが効かない。慣れるまでに時間がかかりそうだと頭を切り替え、『土弾』を放った。『土弾』は勢いを一気に失って3ロム進んだ辺りで湖底へと沈んでいった。
「うわー、これは考えてなかったな」
猛スピードで迫る海人が、トライデントを突き出した。ロドニーは身をよじってそれを避けた。
地上の戦いとはまったく勝手が違い、動きがイメージできない。
(戦いの前に、水中での動きに慣れないといけないのか。予定外だ)
ロドニーは踵を返して逃げた。全速力で逃げた。海人が負って来るが、逃げるだけなら速度はほぼ同じのようだ。
だが、海人はトライデントの先から水の矢を放ってきた。危うく当たりそうになったが、なんとか躱せた。
(水の中で水の攻撃ができるのかよ!?)
だったら自分にもできるだろうと、湖底の岩に掴まって急停止した。海人は止まれずに、ロドニーを追い越してしまう。
チャンスとばかりに、『水弾』を射出。『水弾』の速度はやや落ちたが、振り返った海人の胸に命中して弾き飛ばした。しかし、それだけでは海人を倒すことはできなかった。
(かなり威力が抑えられてしまったか。ならこれはどうだ)
今度は『水弾』に『強化』『増強』を上乗せした。先ほどよりも速くなった『水弾』が海人の顔面に命中して、大きく顔を抉った。
それが致命傷になって、海人は消えてなくなった。生命光石が湖底に落ちたので、ロドニーはそれを拾って岸へと向かった。
岸に上がったロドニーに、タオルを持ったユーリンが駆け寄る。まるで夫の帰りを待っていた妻のように、かいがいしくロドニーの着替えを手伝った。
「水の中でも息ができるし、動きもスムーズだ。だけど、戦闘は慣れないといけないな」
「戦闘があったのですか?」
「海人が出て来た。『土弾』が全然役に立たなかったので、『水弾』を使ってみたらなんとかなったよ」
もう少し水の中の動き方に慣れれば、海中での戦闘もできるだろうとドロニーは語った。また、水中でも使える根源力を見極める必要があるとも語る。セルバヌイが居るこの湖では危険なので、デデル領の海で水中に慣れようと思うとも。
「しかし、海にも危険な魚が居ると思いますが……」
「鱶のことだろ。そんなに沖へは行かないから、そこまで危険はないはずだ」
地上に帰ったロドニーは、海に入って使える根源力を確認した。同時に水中でも剣の戦闘ができるように訓練した。
『水弾』は使えるが、威力が落ちる。『高水圧』も使えたが、これは元々射程距離が短いので接近戦用だ。
全く使えなかったのは、『炎弾』で一瞬で消えてなくなった。『高熱炎弾』はかなり速度と威力が減衰するのを確認した。ただし、『高熱炎弾』を撃つと、周囲に大量の水蒸気を撒き散らして視界を遮ってしまう問題がある。
意外と使えたのが、身体強化系の根源力だ。『怪腕』は海底の岩を持ち上げ、『加速』は泳ぐ速度を速くしてくれる。おそらく『金剛』のような防御系の根源力も問題なく使えるだろう。
遠距離攻撃がかなり弱くなったと感じたロドニーは、水中用の遠隔攻撃を開発することにした。
最初は『土弾』と『風弾』を『結合』してみた。土の弾に風の膜を張ったのだ。水中を回転しながら土の弾が進むことで威力は上ったが、射程の短さは相変わらずだった。
次は『土弾』に『水弾』を『結合』したが、これもぱっとしない。
『土弾』が水中では相性が悪いのだと思ったロドニーは、『水弾』と『風弾』を『結合』してみた。その結果、水の弾の速度が上がり、威力もかなり上がった。海底にあった岩を『風力水弾』が貫通したのだ。水の弾を風で加速させるようにイメージしたのが良かったようだ。
この『風力水弾』は地上でも十分に使える遠距離攻撃手段となっていて、『高熱炎弾』に威力は負けるが飛翔速度は凌駕した。
水中で体を動かす訓練も続けた。おかげで、海人相手なら引けを取らず、身体強化系の根源力を使わずに勝てる程度にはなった。
そんなロドニーの前に、なんと神殿が現れた。
「こんなものが湖底にあったのか……」
6層の湖の底にある神殿は、石造りでかなり大きな建物だった。
その周辺に海人が群がっていて、ロドニー1人で相手するのはさすがに大変そうだと思った。
ロドニーには神殿に見えるが、もしかしたら海人の城なのかもしれない。そう思わせる海人の数であった。
岸に戻ってそのことをユーリンとエミリアに話すと、エミリアが興奮した。
「きっとお宝がたくさん眠っているんだよ!」
「可能性はありますが、現状ではロドニー様しか水中で戦闘ができませんので、その神殿に入ることはできないでしょう」
船を持ち込んで湖に出ることはできるが、湖底神殿は水深25ロム(50メートル)ほどの湖底にある。どう考えてもロドニー1人しか向かうことができない。
今のところは攻略の糸口はない状況だが、いつかあの湖底神殿に入ってみたいと思うロドニーだった。
エミリアも湖底神殿へ行きたいと思うが、さすがに25ロムも水の中に潜ることはできない。悔しいが、今は諦めることにした。
「お兄ちゃん。私も水の中で動けるようにしたい」
「たしか『水呼吸』という根源力はあったが、俺が持っている『水中生活』のように至れり尽くせりではないぞ」
「それでもいいから、欲しい!」
ロドニーは『水呼吸』の根源力がどこで手に入るか、調べると約束して地上に戻った。
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