第24話

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 024_王都へ

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 バッサムに到着すると、バニュウサス伯爵家の大鷲城へ入った。

 相手が皇女ということもあり、バニュウサス伯爵がエントランスの前まで出迎えに出た。


「某、ザバルジェーン領を治めます、アデレード=シュナイフ=バニュウサス、爵位は伯爵にございます。ようこそおいでくださいました、エリメルダ殿下」

「バニュウサス伯。お世話になります」


 バニュウサス伯爵はロドニーにも短く声をかけた。今はエリメルダの歓待が優先なので、ロドニーも不満はない。

 その日はバニュウサス伯爵家に逗留することになり、夜はエリメルダを歓迎するパーティーが催されることになった。パーティーがあるとは思っていなかったロドニーは、服をどうしたものかと頭を悩ませた。


「そうだ、シーマと一緒にパーティー用の服を作ったんだった!」


 すぐにハックルホフの屋敷に領兵を走らせ、服を持って来てもらった。その服に袖を通すと、ややきつかった。

 作ってから月日が経過したことで体が成長したことと、日頃鍛えているために筋肉が発達したためだ。


「ないよりはマシか……」


 かなり無理をして着込んで、パーティーに参加する。

 北部の領主たちが一同に会したかなり大掛かりなパーティーだった。


(この雪の中、エリメルダ様との縁を繋ごうと出て来たか。下手をすれば、次期王妃となられるお方だから無理してでも出てくるよな)


 北部の貴族がエリメルダに挨拶をしていく。とても美しいエリメルダに見入ってしまう貴族もいたが、高位の貴族から挨拶していく。

 ロドニーのフォルバス家は騎士爵なので最後のほうだ。ただし、エリメルダを助けたこともあり、他の騎士爵家よりは先に挨拶ができた。


「フォルバス卿のおかげでわたくしは無事だったのです。感謝してます」

「もったいなきお言葉」


 なんとかパーティーを無事に終えたロドニーは、今にもボタンがはちきれそうな服を脱いで大きく息を吸った。


「空気が新鮮に思えるな」


 くすりと笑ったユーリン。ロドニーの裸は小さい頃から見慣れているが、最近はかなり逞しくなったと目を細めた。


「明日は爺さんのところに世話になるから、ユーリンも気が抜けるぞ」

「私はいつでも常在戦場の心構えにございます」


 相変わらずだと思いながら、ロドニーはベッドに横になった。

 脱ぎ捨てた服をユーリンが片づけていると、ロドニーはいつの間にか寝入っていた。ユーリンのそばは安心できて、自然と気が緩むのだ。


 夜が明けてバニュウサス伯爵と会談する。昨日はゆっくりと話せなかったが、わざわざバニュウサス伯爵が時間を作ってくれたのだ。

 北部の貴族の多くが集まっていることから各貴族と会談するのだが、優先的にロドニーに会ってくれた。


「これで肩の荷が下りました」


 ロドニーがそう言うと、バニュウサス伯爵は何言っているんだこいつ。という目で見て来た。その視線の意味が分からなかったロドニーだが、バニュウサス伯爵の次の言葉で声を失うことになる。


「ロドニー殿には、私と共に王都に向かってもらうぞ」


(なぜっ!?)


 ロドニーが驚愕していると、バニュウサス伯爵は続ける。


「エリメルダ殿下を保護したのは、貴殿であろう。王都に行かぬわけにはいかぬぞ」


(そうなのか……そうなんだろうな……向き合いたくなかった)


 ロドニーは嫌だなーと思いながらも、バニュウサス伯爵の言う通りだと諦めた。

 その後、ハックルホフの屋敷に移ったロドニー。

 エリメルダが王都へ出発する2日後には、もう一度大鷲城へ向かうことになっている。


「エリメルダ様はどんな方でしたか?」


 シーマは海を越えた先の国の皇女様のことが気になって、ロドニーにしつこくどういった人物か聞いた。あまりにしつこいので、途中からユーリンに丸投げしたほどだ。


「ロドニーも大変だったな」


 シーマから逃げたロドニーだが、今度は祖父のハックルホフに捉まった。


「異国の姫様だからな、気を遣ったよ」


 家も明け渡して不便だった。早く新しい領主屋敷が完成してほしいと思ったロドニーだった。


「ところで、ガリムシロップとビールのほうは順調のようだな」

「ああ、ガリムシロップは増産に増産を重ねているし、ビールは最初の頃よりも良くなってきた」

「ビールの増産はいつ頃になるんだ?」

「発展途上なので、まだ先だ」


 ガリムシロップと違って、ビールはロドニーの思い浮かべる味には程遠い。それでも美味しいものが出来ているのだが、これで満足してはいけないと思っている。


 この2日は忙しい時間になった。

 服を作らせ、王都に向かうことになったとデデル領へ伝令を走らせ、シーマにあれやこれや聞かれ、ハックルホフに増産をしつこく言われ、王都までの道程の説明を受けたり、貴族が訪ねて来たからだ。

 特に貴族の相手は大変で、中にはガリムシロップとビールという産業を起こしたロドニーに嫌味を言う者までいた。


 エリメルダが王都に出発する日の早朝、ロドニーは服屋に来ていた。


「無理を言ってすまなかったな」

「なんとか間に合わせることができて、よろしゅうございました」


 貴族用の服を3着頼んだが、普通はこんな短時間でできるものではない。それをやってくれた服屋に感謝して、服を受け取った。


 ロドニーがバニュウサス伯爵家に入ると、バニュウサス伯爵は出立準備を整えていた。


「遅くなりました」

「いや、時間通りだ」


 やや待つと、エリメルダが現れたので、バニュウサス伯爵に続いて挨拶をする。


「フォルバス卿が同行してくださるのであれば、心強いです。よしなにお願いしますね」

「はっ」


 エリメルダの中ではロドニーの評価は高い。田舎の小さな領地だったことから、宿泊設備は満足いくものではなかった。

 しかし、自らの屋敷(家)を提供したり、自国では味わえないような柔らかいテッコなど美味しい料理を振る舞ってもらったりと、もてなしてくれた。

 特に領主一家が屋敷を出てまで、エリメルダにできる限りのことをしようという意気込みは、エリメルダの胸を打った。


 バニュウサス伯爵の家臣団300名とフォルバス家の領兵10名に護られたエリメルダ一行は、順調に南下した。徐々に雪の量が減り、雪がなくなった頃に王都へ到着した。

 その時には、王家直属の騎士団も加わっていて、護衛の規模は500名になっていた。


「ユーリンは王都は初めてだったな」

「はい。大きな町ですね」


 ロドニーは王都へ来るのは2回目で、最初の時は10歳の時だった。その時は、王都の大きさに驚きぱなしだった。しかし、今は前世の記憶があるため、王都であっても小さな町に思えてしまう。


「しばらく王都に逗留することになるから、王都見物でもするといい」

「そういうわけにはいきません。私はロドニー様の従士ですから」

「それじゃあ、俺が王都見物をするから、一緒にしよう」

「そ、そういうことであれば……」


 顔を赤くして頷くユーリンがとても初々しい。


「王城が見えてきたぞ」


 大鷲城よりも大きなこの城が、このクオード王国国王が住まうレイドルーク城である。

 城下町は白色で統一されていて、清潔感がある。しかも、夜には街路灯が灯されて、その光が白色の壁に反射するようになっているので、王都の夜はかなり明るい。


 街路灯を灯すのに、実は生命光石が使われている。王都の町中にある街路灯は、光石アイテムと言われるものなのだ。生命光石のエネルギーでアイテムを動かすものを、光石アイテムと言うのである。

 王都には多数の光石アイテム職人が工房を構えていて、日々光石アイテムが開発、製造されている。

 ロドニーもいつかはデデル領で光石アイテムを開発、製造したいと思っているが、光石アイテム職人の所有や登用は法律で厳しく制限されているので簡単ではない。


 

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