第18話
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018_鍛冶師のペルト
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ザバルジェーン領バッサムの鍛冶師ドレッドから紹介された鍛冶師がロドニーを訪ねてきた。赤の真鉱石を加工できる職人を紹介してほしいと、ドレッドに頼んでから3カ月以上たってからの来訪だった。
「本当に真鉱石を加工していいのですか?」
「そのために呼んだんだ、存分にその腕を振るってほしい」
その職人はまだ若く、どう見ても30には達してないだろう。容姿も鍛冶職人というよりは、役者のように細い。これで真鉱石の加工ができるのかと少し不安になるが、ドレッドの紹介だから大丈夫だと思って鍛冶工房に案内した。
「この工房をオイラが使っていいのですか?」
「思う存分使ってくれ。赤の真鉱石は倉庫の中にあるが、今は200ロデムほど保管してある」
「200!? そんなにあるのですか?」
「領主家の倉庫には、その数倍の真鉱石があるぞ」
「そんなにたくさん……精一杯働かせていただきます!」
「おう、頼んだ。まずは従士用の武器と防具だ。その後は誰でも装備できるような防具を造ってくれ」
「従士様の分はわかりますが、誰でも装備できる防具ですか? 1人1人に合った防具じゃないのですか?」
真鋼の武具はとても高価なものなので、通常はオーダーメイドであり注文者の体に合わせて造る。誰にでも装備できるというオーダーは初めて聞いたのでかなり驚いた顔をした。
「真鋼の防具をほいほい与えることはできないから、領兵に貸し出す形になる。だから、ある程度サイズ調整ができるようにしてほしい」
「なるほど……やってみます」
「頼んだぞ」
この鍛冶師はペルトという名前だが、10年もすると世界有数の名工として名を馳せることになる人物だ。だが、今はまだ無名の鍛冶師であった。
1週間もすると、ペルトがロドニーに試作品を持ってきた。しかし、ペルトの姿を見たロドニーは、かなり驚いた。細かった体がさらに細くなっているのだ。頬はこけて目の下にも大きなクマができている。
(こいつ、寝てないな)
「この部分が稼働します。あとは紐で縛るだけです」
説明は分かりやすく、その防具のサイズ調整の仕方も簡単だった。
「ペルト。お前、寝ているのか?」
「えへへへ。寝てないのが分かりました? 仕事に打ち込むと、休む時間も惜しくてつい……」
(こいつは根っからの職人だな。1人にしておくと、工房内で倒れてそうだ)
ロドニーはペルトのことを職人としては信用できるが、生活無能者だと感じた。せっかくいい腕を持っているのだから、できるだけ長く仕事をしてほしいと思ったロドニーは、誰かをつけないといけないと思った。
(さて、誰がいいかな……)
「これを15セット造ってくれ。真鉱石が足りないなら、倉庫から持っていけばいい」
「ありがとうございます!」
「ところで、ペルト。お前、結婚はしているのか?」
「オイラですか? 結婚なんてとんでもない。オイラのところに来てくれる嫁なんて居ませんよ」
手っ取り早く嫁取りをさせるかと、ロドニーは考えた。そういうのは、自分よりもメイドのリティのほうがいいだろうと思ったロドニーはすぐに動いた。
「リティ、頼みがある」
「なんですか、改まって」
「鍛冶師のペルトを知っているな」
「はい、1週間ほど前に専属鍛冶師になられた方ですね」
「あいつに、嫁を世話してやってほしい。好みは俺では分からないから、あいつに聞いてくれるか」
「まあ! そういう話でしたら、お任せください!!」
ペルトが仕事バカで、放っておいたら寝食を忘れてしまう奴だとロドニーは話した。リティはお任せ下さいと、胸を叩いた。
(この村の娘を嫁にすれば、村を出ていくと言うこともないだろうし、一石二鳥だ)
真鉱石を加工できる鍛冶師が来てくれたので、絶対に逃がしたくない。無理に引き留めることはしないが、このデデル領を出ていきたいと思わないようにしておきたいのだ。
ロドニーは次に酒蔵の建築現場を視察に向かった。
酒造りには水が欠かせないので、川のそばに酒蔵を建設している。もうすぐ完成し、今年の収穫には間に合う予定だ。
建築現場の騒々しさが、ロドニーには心地よかった。この活気がフォルバス家の収益に繋がり、さらにはデデル領の発展にも繋がるのだから。
酒蔵が完成すれば、次は領主屋敷を建て替える予定でいる。金はある程度貯めるが、使わないと意味がない。それで領内が潤うのだから、使わない手はない。
デデル領が好景気に沸けば、人が集まってくる。ガリムシロップのおかげで人は増えているが、それがもっと加速するだろう。
領兵の給金も上げたので、彼らがその給金を村で消費すれば、それも好景向上の一助になる。だから、領兵には怪我などせずに、稼いでもらいたい。
また、給金を上げたおかげで領兵たちのやる気が上り、生命光石の回収量が増加している。早く武具を与えてやりたいと思った。
廃屋の迷宮では、真鉱石の発見が相次いだ。ロドニーが廃屋の床から地下鉱床を見つけたように、いくつかの地下鉱床が4層と5層で発見されたのだ。6層はまだ大規模な鉱床は発見されてないが、それも武具が配備されたら少し余裕ができるので探索が進むだろうと思っている。
ロドニーも廃屋の迷宮に入った。4層をくまなく探索するのに、少し時間がかかったので今回から5層へ入る予定だ。
5層は森の中の廃墟がフィールドになっている。まずは森を探索するが、そこに現れたのは馬の頭を持った人型のセルバヌイだった。
それは馬頭と呼ばれる体長1ロム(2メートル)ほどのセルバヌイで、包丁を大きくしたような剣を持っていた。
馬頭の包丁を受け止めたロドニーの足が地面を陥没させた。それほどの力を持ったセルバヌイだが、『剛腕』を持ったロドニーは馬頭のパワーに負けていない。
包丁を押し返すと馬頭が多々良を踏んで後退した。その無防備なところを狙ったようにエミリアとユーリンが攻撃を加えると、馬頭は塵となって消えた。
「『剛腕』なら馬頭でも押し負けないな」
「あの包丁を受けるために、私の剣はここまで大きくなったのですが、ロドニー様の
従士用に赤真鋼の武器と防具をペルトに造ってもらっている。最初は従士長ロドメル用の武具で、そのあとは年齢順に造るためユーリンの武具は5番目に造られることになった。
真鋼の武具を造るのは普通の鉄の武具に較べてかなり時間がかかるそうなので、ユーリンの武具が出来上がるのはまだ先になる見込みだ。
5層の探索を進めると、今度は牛の頭を持つ牛頭というセルバヌイが現れた。体長1.3ロムほどの巨体の牛頭は、巨斧を振り回して攻撃してくる。動きは馬頭のほうが速いが、その防御力とパワーは牛頭のほうが高い。
「うおぉぉぉっ!?」
巨斧を受けたロドニーが5ロムほど吹き飛ばされ、足で地面を抉った。
「こりゃ、凄いパワーだ」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「問題ない。だけど、エミリアの細剣であの巨斧を受けたら、間違いなく砕けるぞ」
「そんなヘマはしないから、大丈夫だよ」
エミリアが三連突きを牛頭の膝裏に放つと、牛頭は体勢を崩して倒れた。
「私も居ますよ!」
ユーリンが牛頭の右腕にその大剣を叩きこみ、右腕を切り飛ばした。
「俺も負けてられないぜ!」
雄叫びをあげながら立ち上がろうとする牛頭を、
「領兵が牛頭の巨斧を受けるには、『剛腕』の他に『堅牢』もしくは『鉄壁』が必要だな」
「幸いなことに、『剛腕』と『鉄壁』はこの牛頭から得られます」
「馬頭からは『強脚』と『臭覚強化』が得られる。これらの根源力を領兵に得てもらえば、力も速度も防御力も、さらに索敵にも役立つ」
領兵の強化に根源力は欠かせない。そのためには、多くの生命光石を得なければいけない。
ユーリンは5層までのセルバヌイが持っている根源力を持っているので、ロドニーが経口摂取したあとにエミリアが根源力を得た。
ガリムシロップのおかげで資金はあるので上納する分の生命光石を確保したら、後は領兵に使ってもらうための生命光石を集めることにした。
「ところで、4層の悪霊の
家に帰ると、5層で得た生命光石を経口摂取した。それが終わると、エミリアが気になっていたことをロドニーに確認した。
「あれは使い熟すのに苦労しているんだ。もう少し待ってくれ」
悪霊の
上手く使えば、『火球』などの攻撃を『霧散』で掻き消すことができるし、剣などの攻撃さえも『霧散』で防御できるかもしれないのだ。
『火球』のような放出系の根源力だと発動から命中まで時間が少しあるが、剣の場合はそうもいかない。そのため、発動までの時間が短くしないと使いづらい根源力だった。
現在、ロドニーは『霧散』を発動させるのに、やや時間を要している。発動後も長く持続できれば良かったが、『霧散』の持続時間は極端に短い。これを使い熟すのはもう少し時間がかかりそうだ。
だが、馬頭と牛頭の生命光石からは、『加速』『嗅覚感知』『怪腕』『金剛』を得られた。
『怪腕』と『金剛』はこれまで使ってきた根源力の上位互換なので、それほどコントロールに苦労はしなかった。『加速』と『臭覚感知』は初めて使う系統の根源力だが、『霧散』と違って生活している上で使っている力の発展型なので、なんとか使えた。
「私も欲しいな~。私も経口摂取で根源力を得られたら良かったのに~」
足をジタバタさせて悔しがっている。ロドニーはそんな妹を優しくあやすのだった。
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