第12話
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012_高熱弾
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3層の探索も何度目か。ルルミル狩は赤、青、緑、黄の数はいる。しかし、白と黒のルルミルがまったく発見できなかった。ルルミルは色が違っても、得られる根源力は1つなので火の球を射出できる赤のルルミルの人気が高い。
白と黒のルルミルの発見例はあるのだが、討伐したという記録はない。赤のルルミルの人気が高いので、時間をかけて白と黒のルルミルを探す必要もないと、放置された結果だった。
「火弾」
左手の人差し指と親指だけを伸ばして、人差し指を緑ルルミルにむけたロドニーは、中級根源力の『火弾』を発射した。
『火球』だと直系5セルーム程の火の球が飛んでいくが、『火弾』は直径1セルームにも満たない火の弾丸が高速で飛んでいく。『火球』のほうはよく見ていれば、一般兵士でも避けることはできるだろうが、『火弾』は火自体が小さく飛行速度がかなり速いため避けるのは至難の業だ。
『火弾』が命中した緑ルルミルは、体が弾け飛んで生命光石を残した。
「よーし、今度は私だからねー」
エミリアは近くに居た青ルルミルに『火球』を放った。動きが緩慢なルルミルに『火球』は命中したが、ルルミルは健在だった。ロドニーと同じで1発で決着させるつもりだったようだが、『火球』は青ルルミルと相性が悪い上に、威力も低いためだ。
思わぬ反撃を受けたエミリアだったが、終わってみれば危うい場面はなかった。
「まさか4発も撃つとか、ありえないわ!」
青ルルミルに『火球』を4発も放って倒したエミリアは、ぷんすかとお冠だった。
「まあ、『火球』の使い方としては、メインの攻撃じゃなくて牽制のような使い方をするべきなんだろうな」
「私も牽制に使うことが多いです。でも、ほとんど使いませんけど」
『火球』や『水球』などは、あまり威力がないので牽制などに使うのがベターな使い方なのだろう。ダメージを与えるというよりは、嫌がらせ程度の効果を期待してユーリンも牽制に使っていた。
それが『火弾』になると、メインで使える速度と威力がある。その根源力の特性を把握して使い分けることができると、戦術の幅が広がってくるとロドニーは考えた。
エミリアやユーリンはルルミルから1種類しか根源力を得られないが、ロドニーは違う。経口摂取によって痛みを伴うが、ルルミルから得られる根源力の上位互換を全種類得ることができる。
だから、白と黒のルルミルも討伐して、その根源力を得たい。沼地を歩きまわって小屋の中も探っているが、まったく見つからないので諦めかけた時だった。
(ん? この小屋の中から気配がするぞ)
『鋭敏』で小屋の中の気配を探ったロドニーは、その気配に違和感を感じた。これまでも小屋の中に気配を感じることはあった。しかし、その気配はそこまではっきりとしなかったのだが、この小屋の中にいる気配はかなりはっきりと感じられた。
「2人とも待ってくれ。あの小屋の中にいるルルミルの気配が、今までと何か違うんだ」
「そうなの? 私は感じないけど?」
「何か居そうな気配がします。気をつけましょう。エミリア様」
「俺が確認するから、2人は待っててくれ」
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。これでも防御系中級根源力を、2つも得ているんだぞ」
「そうだったわね」
ロドニーは金棒を担いで、小屋の扉を開けた。その瞬間、何かがロドニーの腹部に激突して、ロドニーが2歩後ずさった。『鉄壁』『堅牢』を発動させてなかったら、肋骨が何本か折れていたかもしれない衝撃だ。
激突したものは通常よりも2回りほど大きなルルミルだった。そして、その色は真っ白だった。
「お、白だ!」
エミリアがその色を見て声を発したと同時に、ロドニーは地面を蹴ってその大白ルルミルに飛びかかった。金棒を振り下ろすと、大白ルルミルは素早くそれを避けた。
「何!?」
ルルミルの動きは緩慢だが、大白ルルミルはかなり素早く、ロドニーの攻撃をその素早い動きでことごとく避けた。
「ロドニー様。支援します」
「待ってくれ。もう少し俺だけでやらせてくれ」
ユーリンの助力を断ったロドニーは、金棒を真っすぐ大白ルルミルに向けて構えた。その瞬間、大白ルルミルから白い球が放出されたが、その速度は『火球』とは段違いに速かった。
その速度に意表を突かれたロドニーは、すでに切れていた『堅牢』を発動させるのがやっとで、白い球の直撃を受けた。
「がっ!? 熱っ!?」
ロドニーの革鎧が熱によって焼け爛れ、穴が開いていた。幸いなことにロドニー自身は『堅牢』のおかげで傷はない。
「やったな、このっ!」
お礼とばかりにロドニーも『風弾』を射出した。大白ルルミルはそれを避けたが、それはロドニーの思惑通りだった。避けた先に先回りして金棒を振り下ろすと、大白ルルミルの弾力を感じた。だが、そんなものお構いなしに力を込めた。
大白ルルミルは金棒に潰され、塵となって消えた。そして通常よりもやや大きい白っぽい生命光石を残した。また、その横には白い塊が落ちていた。
「ロドニー様、大丈夫ですか!?」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、革鎧に穴は開いたが、俺は大丈夫だ」
生命光石と塊を拾い上げて2人に見せると、ユーリンは共に初めて見ると言った。生命光石は家に帰ってから使うとして、この白い塊は何だろうということになった。
「金属のようだね。真鉱石かな?」
「しかし、白色の真鉱石なんて聞いたことないです」
エミリアが真鉱石かと言うと、ユーリンはそんな真鉱石を聞いたことがないと言う。真鉱石は金、青、緑、黄、赤の各色が知られているが、それは白色。ロドニーも白色の真鉱石は聞いたことがなかった。
「とにかく、これは持ち帰って調べてみよう」
3人は残った黒ルルミルを捜したが、その日は見つからなかった。家に帰るとキリスが書類の決裁を求めてきたので、まずは書類を片づけることにした。
エミリアとユーリンはその後にあるイベントを待っているので、ロドニーの書類仕事が終わるのをソファーに座って待っている。そこで手に入れた白い塊を取り出して真鉱石ならいいと話していたのだが、キリスがその塊に目を止めた。
「それは……」
キリスは2人に断って、その白い塊を眺めた。
「キリスさんは、これを知っているの?」
「これは真鉱石です。滅多に世に出ない白い真鉱石です」
「へー、これが真鉱石なんだ。で、白色ってどんな効果があるの?」
エミリアが質問するとキリスは眉間にシワを寄せた。
「すみません。白い真鉱石が珍しいものだとは知っているのですが、効果までは知らないのです」
「残念~」
「それが真鉱石だと分かっただけでもいいじゃないか」
デスクで話を聞いていたロドニーが、真鉱石だと分かっただけでも助かると言った。
「これが真鉱石なら、ロドニー様の剣が造れますね」
「剣か。俺に剣が扱えるかな……」
根源力を得て腕力や防御力は上った。しかし、それと剣術は別の話になる。ただ殴る、守るといったものではない剣術は、ロドニーにとって鬼門とも言うべきものだった。
「大丈夫だよ。真鋼は丈夫だっていうから、剣で殴っちゃえばいいんだよ、お兄ちゃん」
「それもそうか。ハハハ」
剣で切るや斬るのではなく、殴れと言う妹の言葉に気が楽になる。
書類仕事も終わって書類を受け取ったキリスが退室すると、ロドニーもソファーに座った。そこで白大ルルミルが残した生命光石を口に放り込んだ。
激痛が体中を駆け巡り、ロドニーの毛穴から汗が噴き出す。胸を押さえて苦しがるロドニーをユーリンは自分のことのように心配しているが、エミリアはもう慣れた感じでお茶を飲んでいた。
「おい、エミリア。少しは俺を心配しろよ」
「だって、お兄ちゃん、大げさなんだもん。女の子の私やユーリンでも、そんなに大げさに痛がらないよ」
「くっ……」
妹が辛らつだったことに精神的なダメージを負ったロドニーは、今得た『高熱弾』に意識を集中することにした。『高熱弾』は白いルルミルから得られる火球根源力の『熱球』の上位互換の中級根源力だ。赤ルルミルから得た『炎弾』は対象に火のダメージを与えるのに対し、『高熱弾』は熱による融解ダメージを与える。似たようなものだが、威力は『高熱弾』のほうが高い。
白大ルルミルが放った白い球は『熱球』だった。『熱球』は『火球』などの火球根源力よりもはるかに速い速度で飛び、大きなダメージを与える。そのため、『高熱弾』も『炎弾』よりも速くて高ダメージを与えることができるものだった。
「どうやら発見しにくいのには、それなりの理由があるようだな」
他のルルミルよりも強い分、個体数が少ないようだ。
「こうなると、黒ルルミルも倒したいですね。ロドニー様」
「欲しいのはやまやまだが、今度は4層に向かおうか。黒ルルミルは必要になったら捜そう」
「分かりました」
「まあ、その前に借金返済のために、デルド領に向かうんだけどな」
そろそろ街道の雪も解けた頃なので、メニサス男爵の屋敷へ向かう。借金返済をすれば、月1割もの高利を今後は払わなくても清む。それはとても大きなことだ。
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