第9話

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 009_根源力の神秘

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 剣を持たせたら、手足のように扱うエミリア。ロドニーはエミリアのことを天才だと思っている。

 あれはエミリアが6歳の頃だった。初めて木剣を持ったエミリアは、一瞬でロドニーを打ち負かした。その頃からロドニーは剣の才能がないと思われていたが、それでもこの頃の2歳の差というのはかなり大きなアドバンテージのはずなのにまったく敵わなかった。


 根源力を発動させて維持させるのは、なかなか難しい。だが、天才肌のエミリアは『剛力』を簡単に維持させた。天才というのはこういうものなんだろうとロドニーは思った。


 さて、当のロドニーだが、『剛腕』のおかげで瞬間的なパワーは凄まじかった。しかし、発動にやや時間がかかることと、維持できる時間が短かった。こればかりは訓練あるのみなので、努力するしかない。ロドニーは、努力するのは得意だ。剣術ではそれが報われなかったが、根源力は使えば使うほど練度が上がるはずなのでそれが楽しみだった。


 ラビリンスから戻ってきたロドニーは、20個の生命光石を前にしていた。


「お兄ちゃんのおかげで、今日は少なかったね」

「いや、俺だって意外だったんだよ」


 戦闘術もへったくれもないパワーのごり押し。ロドニーが槍を振り回せば、ゴドリスは吹き飛び塵となって消えてしまう。おかげで槍がそのパワーに耐えきれずに折れてしまって、そこで狩りは終了になった。

 中級根源力というのは、それほどの力なのだ。それをロドニーは得ることができたことに、心から歓喜した。


「ところでお兄ちゃん。どうやったら『剛腕』を得ることができるの?」

「まあ、待て。今教えるから」


 エミリアに教えるつもりはなかったが、あれだけ力だけのごり押しをすれば、誰でも根源力を得たのだと気づく。しかも、それが下級根源力ではなく、中級根源力である『剛腕』だとエミリアは簡単に見抜いた。

 どうやって『剛腕』を得たのか、あまりにもしつこいものだから帰ったら教えるということになった。


 エミリアに生命光石を口の中で折ったら、『剛力』ではなく『剛腕』を得たと教えた。

 当然だが、あの苦痛のことも話した。意識が飛びそうになるほどの痛みを伴うと強調して話したつもりだったが、エミリアはまったく意に介さなかった。


「なにそれ? お兄ちゃん、生命光石を食べちゃったの?」

「正確には、生命光石を噛み砕いただけだよ」

「うわー、引くわー」


 エミリアに引くと言われ、ロドニーも同感だった。自分でもそんなことをしたいとは思っていなかったのだから。


「本当に体はなんともないのですか?」

「今は大丈夫だ。しかし、あの時はかなり酷い苦痛があったよ。体にかなり負荷がかかる方法なのかもしれない。もしかしたら、今度は死ぬかもね」

「そんな方法をロドニー様にさせるわけにはいきません!」

「いや、俺はやるよ」

「しかし!」

「まあ、聞いてよ、ユーリン」


 ロドニーはユーリンを落ち着かせ、エミリーにも言い聞かせるように話を進めた。今のままではロドニーは父ベックの後を追うことになる。戦争は無力な者を容赦なく殺すのだ。だから、多少の危険があったとしても、根源力を得ると語った。


「話は分かりますが、それでも……」


 ユーリンは唇を噛んだ。本気で心配しているのだと、ロドニーとエミリアは受け止めた。


「だから、2人はしないほうがいい。俺と違って2人には天賦の才能があり、無理をしなくても強いんだから」

「何を言いますか。ロドニー様にだけ危険なことをさせるわけにはいきません。まず、私が生命光石を食べます」

「いや、それは」

「これは私の意思です。ロドニー様であっても、止めることはできません!」


 ユーリンはそう言うと、生命光石を1個取って口に放り込んだ。ロドニーが止める間もない早業だった。


「「あっ!」」


 ユーリンの行動があまりにも速く、ロドニーは止めることができなかった。


「あぐぅっ……」

「おい、ユーリン。大丈夫か!?」

「ユーリン!」


 ロドニーとエミリアが心配する前で、ユーリンは胸を抑えて苦悶の表情をした。のたうち回らなかったのは、さすがと言うべきユーリンだった。


「エミリア、水だ。水を持ってきてくれ」

「うん!」


 エミリアが急いで部屋を出ていく。ロドニーはユーリンの手を握って、励まし続けた。その甲斐あってか、ユーリンの表情が和らいでいった。ロドニーの時より短い苦しみだった。


「もう大丈夫です」

「本当か? 痛いところはないか?」

「はい。痛みは引きました。それに、セルバヌイと戦っていたら、怪我を負うこともあります。それに比べれば、大したことはありません」

「ユーリンは強いんだな。俺はもっと苦しんだぞ」

「日頃の鍛え方が違いますからね」

「そうだな」


 2人して「ハハハ」と笑いあう。そこにエミリアが水を持って部屋に入ってきた。ロドニーとユーリンが手を握り合って笑っている場面に、気まずそうに「あ、ごめん」と言って部屋を出て行った。そこで2人が手を繋いでいることに気づき、慌てて手を離した。とても気まずかった。

 しばらくしてエミリアが部屋に入ってきた。


「もういい?」

「何を勘違いしているんだ」

「だって、いい雰囲気だったから」


 まったくこいつは。と思いながら、ユーリンに視線を向けるロドニー。


「それで、根源力を得たのか?」

「いいえ、残念ながら苦しいだけで、根源力は得られませんでした」


 口の中で生命光石を砕いた場合でも、根源力の取得の確率は低いのだろうかとロドニーは疑問に思った。


「それじゃあ、今度は私ね!」

「エミリア、本当にやるのか? ユーリンの苦しみ様を見ただろ」

「何を言っているのよ、お兄ちゃんは。苦痛があるとしても中級根源力を得られるんだったら、私はやるわよ」


 ロドニーのあのパワーを見せつけられたら、黙って見過ごすわけにはいかない。それほどに中級根源力は素晴らしいものだった。あのロドニーがゴドリスを瞬殺できるのだから。

 エミリアは躊躇なく生命光石を口に放り込んだ。すぐにロドニーやユーリン同様に苦しみ出して、2人を心配させた。苦しみが治まると、根源力を得られなかったとかなり悔しがった。


「それじゃあ、次は俺だ」

「本当に大丈夫ですか? かなり苦しいですよ」


 ユーリンが心配するが、最初にその苦しみを味わったのは自分だと答えた。生命光石を口に入れて噛み砕くと、あの血が沸騰したような苦痛が全身を駆け巡った。

 ロドニーが痛みに弱いのか、それとも他の要因があるのかは分からないが、ユーリンとエミリアよりも苦しがっている。激しい息をして苦しがるロドニーを、2人は困惑の眼差しで見つめるしかなかった。


 痛みが治まったところで、ロドニーは根源力を得た感覚を味わった。今回の根源力は『堅牢』だった。この『堅牢』も中級根源力であり、普通であればゴドリスの生命光石から得られる根源力ではない。そして、ゴドリスの生命光石から2つ目の根源力を得た瞬間だった。


「なんでお兄ちゃんばかりなの!? 私も中級根源力が欲しい!」

「いや、そんなことを言われても……」


 エミリアはかなりお冠だったが、これはロドニーにはどうにもできないことだ。それでもエミリアは駄々をこねて、また生命光石を口にした。


「おい! 何をしてるんだよ!?」


 エミリアの行動に反応できなかったロドニーは、苦しむエミリアの背中を擦ってやることしかできなかった。だが、エミリアは今回も根源力を得ることはできなかった。


「まったくお前は、無茶をする」

「だってー、お兄ちゃんだけなんて、悔しいもん」

「だからと言って、無茶はするな。いいな」

「はーい」


 しかし、今回のことでなんとなく分かったが、口の中で生命光石を砕いて中級根源力を得られるのはロドニーだけの可能性が高い。

 理由に思い当たることがある。前世の記憶を思い出す前に、カギのかかった引き出しの中にあった本だ。あの本を開いたら光に包まれ、意識を失った。本はいつの間にか消えていたが、あれくらいしか思い当たることはない。


「もしかしたら偶然と偶然が重なって、2回連続で中級根源力を得られた可能性もあるけど、根源力を得るのは偶然が重なって連続で得られるようなものではないとも思っている」

「それってどういうこと?」

「つまり、ゴドリスの生命光石から中級根源力を得られるのは、俺だけの可能性が高いということだ、エミリア」

「なぜそう思われるのですか?」

「根拠はある。と思うぞ、ユーリン」


 ロドニーは決して他言しないようにと、2人に念を押してからあの本のことを話した。以外にも2人はその話をすぐに受け入れた。ロドニーが嘘だと思わないのかと聞くと、ロドニーが嘘を言う必要がないのと、実際に中級根源力を得るという不思議なことが起こっているのだから、その話を嘘だと言う根拠がないと答えた。


 その後、時間をおいて落ち着いてから、ロドニーは再度生命光石を口に放り込んだ。苦しみの果てにロドニーは『鋭敏』の根源力を得た。言うまでもなく、これは『敏感』の上位根源力であり中級根源力だ。


「これでゴドリスの生命光石から得られる可能性がある3つの根源力の上位根源力を手に入れることができた。これは俺の勘だけど、これ以上はゴドリスの生命光石から中級根源力を得ることはできないだろう」

「そうですね。その3つを得たのも、ゴドリスの生命光石から得られる根源力の上位根源力だからだと私も思います」


 ユーリンが同意し、エミリアも同じ意見だった。ただ、念のためもう1個確認して、根拠にしたいと思った。ユーリンは反対したが、実験しなければ結論は出ないと説き伏せてもう1個口にした。苦しみが治まっても、下級根源力どころか中級根源力も得られなかった。


「これで、本来得られる根源力の上位互換を得ることしかできないことが分かった」


 もしかしたら本来得られるはずの、下級根源力を得ることができるかもと思っていた。しかし、それは敵わなかった。そう都合よくはいかないらしい。

 同じ系統でも下級と中級を持っていると、その2つを同時に発動させて効果の上乗せが期待できる。それをしたかったので、その後も全部の生命光石を折ったが、下級根源力は得られなかった。もちろん、こちらは手で折った。


「しかし、無茶をします。せめてもう少し時間を空けてから実験するのが良かったでしょう。すごく疲れた顔をしていますよ、ロドニー様」

「本当だよ。その顔を見たらお母さんがビックリしちゃうよ、お兄ちゃん」

「そんなに酷い顔か」

「はい」

「うん」


 なんだか顔が悪いと言われているような錯覚を覚えてしまったが、これからはもう少し自重しようと思った。

 経口摂取であれば、上位根源力の取得率は100パーセントだか無理をしなくても、他の人よりもかなり早く根源力を得られるのだから。


 

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