第16話


どこまでも続く、長い夢の終わり。



見たはずの夢はもう、覚えていない。



真っ白な世界を意識だけが漂っている。





もう、死ぬのかもしれない。


でも、それでいいのかもしれない。





思えば、私は幸せだった。



懸命に支えてくれた、両親に恵まれた。


病気のこと、身体のことを親身になって聞いてくれるお医者さんに、看護師さんに恵まれた。


そして、友人に恵まれた。




絢香に出会えて、好きになった。




日記には書かなかったけど、思えば、あれが初恋なのかもしれない。



あそこまで誰かを好きになったのは初めて。

想い続けたのも初めて。




好きだった彼女の顔を思い浮かべる。





好きだったはずなのに。



思い出すのは、テレビで見た彼女ばかり。




今でも鮮明に覚えている、はずなのに。



好きになったあの時のあなたは、思い出そうとすればするほどに、輪郭がぼやけて、おぼろげになっていく。




「……人の記憶って、なんて不確かなんだろう」



際限なくどこまでも続く真っ白なそらに、ポツリと呟く。





漂いながら、どこか落ちていくような感覚に、私はなんとなく、手を伸ばした。





そこには誰もいない。




伸ばしたって、何にも届きはしない。






……なのに。




なのに、確かに誰かが私の手を取った。




それは、暖かくて、温かい。




あなたの手。






「───絢香!」

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