第6話

更新されることのない私たちの時間は、日々更新されていくトーク欄にかき消され、埋もれていく。


せっかく思い出せたことも、人はこうしてどこかへ置いてきてしまうのかもしれない。




……そして、忘れていく。





ううん、でもそれではダメなの。


もう、置き去りにしない。

忘れない。


言い訳はしないよ。




カレンダーアプリからの通知。


〝4/13 桜子 誕生日〟



出会ってすぐの頃、もう誕生日を過ぎていた彼女に、


来年は絶対にお祝いする!


と言って、忘れないように登録した。

それから毎年、前日にはアプリから通知がきていたはずなのに。



「……おめでとう、の一言も言ってなかったな私」



今更かもしれないけど。


あれから時間が空いてしまったけど。


次は私から連絡をしよう。


そしてまた、他愛もない話で盛り上がれたらいいな……。



そんな思いを胸に、私は桜子にメッセージを送る。



〝誕生日おめでとう! 元気にしてる?〟








桜子にメッセージを送ってから、一週間。


遂には、一ヶ月が経った。



更新したはずのトーク欄は、また下へ下へと落ちて、埋もれていく。



既読は……ついてない。



本当に忙しいだけなのか。

または、それ以外に何か理由があるのか。


考えたところで、私には全く見当もつかない。



「絢香さーん、そろそろ休憩終わりますよ!」



遠くでマネージャーが私を呼ぶ。



「待つしかないか……」


そう言いながら、スマホをしまおうとした時、


───ブーッ ブーッ ブーッ




着信があった。



画面には〝小田 桜子〟の文字。


私は慌てて通話ボタンを押した。



「も、もしもし!」



しかし聞こえた声は、



「……もしもし、急なお電話でごめんなさい」



聞き覚えのあるような、ないような。

少し歳を重ねた女性の声だった。



「こちら、大森絢香さんのお電話で間違いないでしょうか?」


「……ええ、大森です。失礼ですが、どちら様でしょうか」


「申し遅れました。小田桜子の母です」



……桜子の、お母さん?



「あの子のスマホに番号があったので、勝手ですがお電話かけさせて頂きました」


「そうだったんですね。どうかしましたか?」


「絢香さーん!」


「はーい! すぐ戻ります!」


「お忙しいですよね、また改めて……」


「いえ、大丈夫です! それで、ご要件は……」



桜子との連絡が途絶えてしまった今、彼女のことを聞けるチャンスは恐らくここしかない。




……そして、何となく。


何となく、今聞いておかなければいけない。


そんな気がした。







「……娘の意識が戻らないんです」

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