第6話 五十年前

 病院のベッドで目を覚ました私は、警察から事情聴取をされた。

 あの子はやはり同じクラスメイトの子で、頭を打って死んでしまったこと、そして、あの子のペアが古條さんであることをそのときに知った。

 私は記憶を辿たどって、あの場から立ち去ったのが古條さんであることを確信したが、警察には言わなかった。いや、言えなかったという方が正しい。古條さんはあの子と途中ではぐれてしまったと警察に説明しているようだったし、そう言われると私が目撃した光景が実際の出来事だったのかうまく自信が持てなかったのだ。

 何よりもしあれが本当に起きた出来事だったのなら、一部始終を見ていた私はあの子を見殺しにしたも同然だった。当時はそのことで自分が責められるかもしれないと思い、怖くて言い出せなかったのだ。

 退院してクラスに戻った私は、古條さんのことを意識せずにはいられなかったが、それも長くは続かなかった。私たちは卒業し、別々の学校に進んだためだった。私は私立の中高一貫校に、古條さんは詳しくは知らないけれどどこか遠くの避暑地として有名なところに引っ越したと人づてに聞いた。

 それきり一度も会うことはなく、自然とあのときのことを訊く機会も失われてしまった。

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