番外編 単独任務(4)


 事務所の屋上では、グレートチョイナーがユノの繭の護衛のため、平従者のオルト、シフト、デリート、タブ、エンター、ナムロックの計六名を招集していた。


 ジャベリガンが六名を横一列に整列させ、腕を後ろで組みながら右に左に歩いて、彼らを品定めするように睥睨へいげいしている。


「まあ、何だなお前ら、揃いも揃ってブッサイクな顔してんな。さぞかし女にモテなかろう、え?」


 ジャベリガンが眉間に皺を寄せ、六名を威嚇するような態度を取りながら、罵倒とも問いかけともつかぬ言葉を吐いた。


 グレートチャイナーは苦々しい思いで様子を見ていた。確かに、今の発言内容は誰もが認めるであろう紛れもない客観的事実ではある。が、今それを言う必要なないだろう。


 それを言ったらジャベリガンも異様に顔が長くて、どちらかというと、いや、明らかに不細工の部類だ。少なくとも目の前に並ぶ六名の容姿を馬鹿にできる資格のある顔ではない。


「顔で戦うわけではありません」


「あ゛ぁっ!?」


 オルトが言葉を返すと、ジャベリガンは目を細め、凄みを利かせながら手に持つメイスをオルトの喉元に突き付けた。


 思わずオルトは顎を上げて、固い面持で唇を真一文字に結んだ。


「そうか、俺も同感だ。じゃあオメーら、ウィーナ様のためなら何でもできるか?」


「何でもできます!」


 六名が一斉に声を張り上げた。


「そこまで言う必要はない!」


 後ろで様子を見守っていたグレートチョイナーが前に出てきたが、ジャベリガンが腕を伸ばして制止した。


「だったら今すぐ全裸になってみろ!」


 ジャベリガンが吠える。


「えっ?」


「い、今ここで?」


 狼狽する平従者達。


「どうした、ウィーナ様のためなら何でもできるんじゃなかったのか?」


「脱ぐ意味が分かりません!」


 エンターが言うと、ジャベリガンが彼の喉元にメイスを突き付ける。


「意味とか言ってる時点でもう迷いが生じてるだろうが! そんなんでウィーナ様が満足すると思っているのか?」


「ぐぬぬ……」


 六名はしばらく歯を食いしばったが、すぐさまそれぞれが着用している鎧やローブを脱ぎ始めた。


「おい、ウチの隊員に何をさせてんだ」


 グレートチョイナーが抗議したがジャベリガンが「誰かさんが繭に引きこもったせいで、今この隊の指揮権は我らダオル隊に移ったのだ。文句あるならお前んとこの隊長に言え」と言葉を返した。


「ぐっ……」


 グレートチョイナーが渋い顔でジャベリガンや平従者達を交互に見遣る。


 六名はパンツまで脱ぎ捨て、全裸になって整列する。


「よーし、これから俺がお前らに、最強無敵の力が手に入る伝説の装備品を支給してやる。ちゃんと装備しないと効果がないぞ」


 ジャベリガンは六名分の天狗のお面を持ってきて、六名の股間に装備させた。


 次は女性もののパンティを六名分持ってきて、六名の頭に被せた。そして12個の洗濯バサミを用意して彼らの乳首をつまんだ。


「いで、いでででで!」


「我慢しろ! 最強の力がほしくないのか!」


 その後、彼らの頭のパンティに鼻フックの付いたベルトを固定し、フックで鼻の穴を上に引っ張る。


「いで、ちょ、これキツイ!」


「我慢しろ! そんなんで芸人が務まるか!」


「俺達芸人じゃなくて戦闘員……」


「黙れ! ウィーナ様を失望させたいのか!? ウィーナ様のお望みを無視するというのか!?」


 ジャベリガンが痛がる六名に檄を飛ばす。続けて「屁で演奏しろ!」と言いながら彼らの肛門にリコーダーを差していく。


 そして最後に、股間の天狗のお面の鼻の先端にアメリカンクラッカーを固定して「腰を振ってクラッカーを鳴らせ!」と命令した。


 六名は一斉に腰を左右に振ってアメリカンクラッカーを鳴らそうと試みるが、なかなか上手くいかない。


「お前上手いなあ」


 シフトがオルトに言うと、オルトが「左右よりむしろ上下に振った方がいいかも」と返した。


「これ難しいな」


 デリートが愚痴をこぼすとすかさずジャベリガンが「普段からキンタマで練習しとかないからそういうことになるんだよ!」と怒鳴った。


「本当に、本当にこれで最強の力が手に入るのでありますか?」


 タブが鼻フックで持ち上げられた鼻を抑えながら、フガフガとしゃべり辛そうに問いかけた。


「当たり前だ!」


 ジャベリガンが即答する。


「本当にこのようなこと、ウィーナ様がお望みになったのか?」


 グレートチョイナーがジャベリガンに問う。


「当たり前だ!」


 ジャベリガンが即答する。グレートチョイナーは訝しげな表情をし、深く鼻から溜息をついた。







「私の糸を初見でかわすとは……。噂に聞いたユノ隊の『疾風の暗殺者』とは、あなたのことだったのね」


 屋上に続く階段の前に立ち塞がった、アックンガーやバッフンバーとほぼ同じ見た目をした、緑色の肌の男。


 その男は、レドゥーニャの出糸突起から出した糸に加え、彼女の両手の指から同時に出した十本の糸も全てすり抜け、レドゥーニャの背後を取ったのだ。


「フッ……、その通り。人呼んで『疾風の暗殺者』ことユノ隊中核従者筆頭、アックンガー四兄弟が三男『風のヌーツルラー』とは俺様のことよ。繋がり眉毛は伊達じゃない!」


 全方位から繰り出された糸を避け、レドゥーニャの背後へ抜けたヌーツルラーは、振り向いてニヤリとニヒルな笑みを見せた。


「さっきの二人とは、スピードも技のキレも比べ物にならないわ。結構やるじゃない」


「上の二人の兄貴は、俺達四兄弟の中でも戦力外の数合わせに過ぎない。ここからが四兄弟の本領発揮よ!」


「あら、そう。お兄さんなのに不甲斐ないものね」


「ああ、できの悪い兄を持つと弟は苦労するものだ」


「……おしゃべりはここまで。早くしないとヴィクト殿が出発しちゃうわ」


 レドゥーニャは上半身を後ろに目いっぱいひねり、闇属性の攻撃魔法を詠唱した。


 レドゥーニャの両手から暗黒の波動がビーム状に放出されるが、またしてもヌーツルラーは跳躍してかわし、レドゥーニャの脇を通り抜ける。


 すれ違いざまに、レドゥーニャは右手の鋭い爪を振りかざし、ヌーツルラーの鎧に爪跡を刻みつけた。


「流石だな、俺の動きを捉えるとは」


「あなたの相手をしてる暇はないわ。大人しく道を開けなさい」


 レドゥーニャは相手がスピードを活かせぬよう、粘着性のある糸を四方八方にまき散らしながら、狭い通路を自らの巨体で塞ぐように、ゆっくりとヌーツルラーとの距離を詰める。


「そうはいなかい。管轄従者のアンタに勝てれば、俺は今度の試験に自信を持てる」


 どうやらこの男は、管轄従者への昇格試験を控えているらしい。なるほど。ピンからキリまでいる中核従者の中でも上位の実力を持っているようだ。


「じゃあ、あなたも試験を辞退せざるを得ない体にしてあげようかしら?」


 レドゥーニャは高い位置から小柄なヌーツルラーを見下し、嗜虐的な笑みを浮かべた。







「さっきから騒がしいな」


 ヴィクトが何となしに言う。


「騒がしいね」


 ゲキシンガーも何となしに返した。


 ヴィクトは暫しの間、双眸そうぼうを閉じ、応接室の外へ耳をそばだててみた。


 耳に入ってきた音は、八本程の足によって奏でられる規則的なハイヒールの靴音。複数人の悲鳴や戦闘音。そして、ここからでも強力な闇属性魔法の気配。かなり強い魔力でハイレベルな術者であることを窺わせる。


 それらの情報を総合すると、ヴィクトの隊の管轄従者・レドゥーニャの仕業に間違いないようだ。


「レドゥーニャだ」


 ゲキシンガーが言う。ヴィクトは、若干うんざりしたような表情を見せることで、ゲキシンガーへの返答とした。


「……ゲキシンガー、じゃあ早速だけど、サポートお願いしたい。ここ任せていいかな?」


 ヴィクトが問うと、ゲキシンガーは苦笑した。


「ここでかぁ……。マジかよ」


「頼む。俺はウィーナ様の所へ顔出して、そのまま任務へ出る」


「承知!」


 二人はすぐに応接室を出た。


 ヴィクトは何者かに破壊された玄関からウィーナの屋敷に向かい、ゲキシンガーは手すりがバキバキになぎ倒された階段を昇って騒動の元を目指していった。


 ヴィクトは玄関前で、ユノ隊の派遣従者・アックンガーに出くわす。


「ああっ、ヴィクト殿、丁度いいところに! おたくの隊のレドゥーニャ殿がドアを滅茶苦茶に壊して中に入ってったんですよう!」


「知ってる! 今ヴィクト隊ウチのゲキシンガーに対応を任せた。今度はどんな体型の種族でも入れるように建て直そう!」


 それだけ言ってヴィクトは足早にウィーナの元へ向かった。







 ゲキシンガーが事務所二階に上がると、ユノ隊の平従者バッフンバーと中核従者ヌーツルラーが二人揃って複雑骨折の重傷で、手の空いた者によって担架で運ばれている最中だった。


 兄弟二人ともほとんどそっくりな見た目で、体色ぐらいでしか見分けがつかない。


「ゲキシンガー殿!」


 自分を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、そこには平従者のヤブラコウジがいた。寝ていたのか、シャツとトランクス姿で頭は寝癖だらけである。


 ゲキシンガーはヤブラコウジの報告で、少なくとも青い肌のバッフンバーの方をやったのは、レドゥーニャであることが分かった。


「ヌーツルラー殿はちょっと分からないなぁ……」


 ヤブラコウジが当惑しながらぼやくと、担架を運ぶ者の一人が「いやヌーツルラー殿もレドゥーニャ殿がやったの!」と答える。「あ、そうなんだ」とヤブラコウジ。


「下に行くぞ。階段気をつけて」


「うん。いいよ」


 担架を担ぐ戦闘員達が、ヌーツルラーとバッフンバーを一階に運ぼうと歩みを進めたとき、階下から彼らの兄である赤い肌のアックンガーが駆け上がってきた。


「おっ、色違いだ。ゲーム後半で出てくる強化版かな?」


 ヤブラコウジがそんなことを口走ったので、ゲキシンガーが「いや、こいつらの兄貴だよ。むしろ弱いんだけど」と正した。ヤブラコウジが気の抜けた相槌で応じる。


「おお、弟達よ! 複雑骨折してしまうとは何事だ! 情けない弟達だ!」


 アックンガーが弟達の無残な姿を見て悲憤していた。


「ちょっと邪魔、どいてよ」


 担架を運ぶ戦闘員の一人がアックンガーを押しのけ、さっさと彼らを一階に降ろしていった。


 一方、仮眠室の方からは、まだざわざわと喧騒が聞こえている。


「まだ生きてる!」


「馬鹿、脳を揺らすな!」


「筋肉増強剤なんか使うからこういうことになるんだよ!」


「誰かそっち回れよ!」


「おいぶつかるぶつかる一旦ストップ!」


 そんな風な喧騒が重奏を成す中、二人一組の戦闘員達に担がれた担架が、更に三セット仮眠室からぞろぞろ出てきたのだ。担架には、いずれも顔面が拳の形に陥没した、意識不明の重体となった者達が横たわっていた。


「おいおい、こっちも大事じゃねーか!」


 ゲキシンガーが驚愕する。


「まだ生きてます。下に転移用の魔方陣マットを用意してあるので、直ちにリティカル殿のいる理想研究所リソ研に搬送します!」


 担架を担ぐ一人がゲキシンガーに報告した。


「まさか、これもレドゥーニャが?」


 ゲキシンガーがヤブラコウジに問う。


「いや、違いますけど……」


「ええい、これじゃ埒が明かん!」


「ユノ殿の繭もレドゥーニャ殿も屋上へ行きました」


「分かった!」


「お気をつけて!」


 ヤブラコウジや他の野次馬達に見送られ、ゲキシンガーは屋上へ走った。







 レドゥーニャは難なくヌーツルラーをその糸で絡め取り、宣言通り管轄従者昇格試験を受けれない体にしてやった。


 そして屋上へ上がると、そこには確かにユノの繭があった。


 しかし、彼女が繭の存在を認めた直後、ダオル副社長の側近的立場の一人であるジャベリガンが、全裸で股間に鼻の先端にアメリカンクラッカーをぶら提げた天狗のお面をつけて頭にパンティを被り鼻フックで顔を釣り上げ尻にリコーダーを差した六人の変態達をけしかけてきたのである。


 レドゥーニャは変態達を一瞬にして魔力の込められた糸で拘束し、思念を送って締め付け、全員の骨を粉々に砕いた。


「お、俺は最強……、最強なんだぁ……! ナムロック、死にます……」


 変態の一人がそう捨て台詞を吐き、白目をむいて失神した。


「ぎゃああああっ! ウィーナ様ああああっ! エンター! 死にまああああああす!」


「ほ、骨が、骨があああっ! ウィーナ様ああああっ! オルト、享年23歳! 今から死にまああああああす!」


「どうしてだ、どうして最強の力を得たのに負けるのかーっ!? 全身骨が粉々で内臓に突き刺さって早く楽になりたいからウィーナ様とりあえず自分ちょっと死んどきますね!? なわけで、タブ、これより死にます!」


「ぐわあああ! これが俺が今まで生きてきた積み重ねの全てだああああっ! このシフトっ! 遠のく意識の中でっ! ウィーナ様の勝利と栄光を願いっ! 死にまあああああっす!」


「ぎょええええっ! 俺の人生これでお終い! 頭にパンティ被って股間に天狗のお面着けてケツにリコーダー差して俺の人生お終いだああああっ! ウィーナ様ああああっ! これでよかったのでしょうか!? 俺の選択は間違ってなかったんでしょうか!? ……えっ、ほ、本当ですか!? ああ~! そ、そのお言葉だけで救われます! フヒヒ、イヒヒヒィ……! 全てはウィーナ様のためにっ! デリート! 死にまああああああす!」


 他の変態達もそれぞれ断末魔の叫びを上げ、次々と白目をむいて、連鎖的に失神した。本人達は死ぬと思っているらしいが、当然レドゥーニャは致命傷までは与えていない。


「気持ち悪ッ!」


 レドゥーニャは倒れる六人の変態達を見下し、吐き捨てるように毒づいた。


「グレートチョイナー、俺は行く。後は頼んだぞ」


 ジャベリガンが脇に立つグレートチョイナーに調子の良い感じで言うと、グレートチョイナーは舌打ちをしてレドゥーニャの前に立ちはだかった。


 グレートチョイナーは体色が茶色という以外は、先程戦った三人と全くと言っていいほど同じ容姿であった。


「部下の変態達に戦わせておいて、あなたは自分で戦わないのかしら?」


 レドゥーニャが屋上を立ち去ろうとするジャベリガンに問う。


「はぁ? 何で俺がユノ隊とヴィクト隊のもめ事に介入しなきゃいけないの? 俺カンケーねーし。お前達で解決すべき問題だろ? それに平従者なんて所詮使い捨ての駒に過ぎないでしょ? こんな使えないゴミ共」


 ジャベリガンがさも当然といった風に答えた。


「貴様ッ……! 今なんつった?」


 グレートチョイナーが額に青筋をいくつも立て、身の丈程もある巨大な金槌を構えてジャベリガンに視線を送った。


「おっと、倒すべき相手を間違うなよ。俺はダオル殿の命令で、ユノ殿の任務を引き継いだヴィクト殿のサポートとして同行する使命がある。それでは」


 そう言い残してジャベリガンは階段を駆け下りていった。


「はぁ? 何でアンタが行くのよ? ちょ、待ちなさい!」


 レドゥーニャが振り向くが、もうジャベリガンはいなかった。ヴィクトのサポートして同行するなら、ジャベリガンなどではなく、直属の自分が行くべきだとレドゥーニャは思った。


 ヴィナスも副官であるにも関わらず、ヴィクトがハッチョウボリー行きを断るところを最後まで見届けず、Valkyrie5のスケジュールを優先させた。


 以前よりヴィクトの側で副官を務めることを熱望していたにも関わらず、ヴィナスはウィーナの娘という特別な立場を利用して彼の副官に収まった。


 しかもValkyrie5という芸能グループの片手間で。更にはウィーナやヴィクトの配慮からか大事にされ、勝利が約束された格下の悪霊や魔物相手の安全なミッションしか回されない。


 その割に態度が非常に尊大で我儘だ。レドゥーニャは納得いかない。ヴィナスに対する嫉妬の感情ももちろんあった。それは否定しない。


「くぅ……、それもこれも全部ユノ殿のせいよ! ヴィクト殿を危険な死地に出向かせはしないわ! 隊長は私が守る!」


 ジャベリガンを追うのを諦め、レドゥーニャがグレートチョイナーに向き直る。


「ヴィクト隊に迷惑をかけたことは、本当にすまねえと思ってる。それに関しては謝る。申し訳ない!」


 グレートチョイナーは金槌を床に置き、床に膝を突き、額を床に打ち付け、土下座して謝罪した。


 しかし、彼の土下座はレドゥーニャの心には全く響きはしなかった。


「だったらその繭、好きにさせてもら」「悪いがそれはできねぇ!」


 レドゥーニャの言葉を、土下座したままグレートチョイナーが遮った。


「はぁ!? じゃあ何で土下座したわけ?」


 グレートチョイナーは押し黙ったまま、立ち上がって再び巨大な金槌を構え直した。


「羽化の前の状態で、無理に繭を破壊すると、ユノ殿の体にどのような影響を及ぼしてしまうか分からない」


「だから何? そっちの都合でしょ? それってヴィクト殿が行かされることと関係ある?」


「確かにそうだ。けどそれはウィーナ様やヴィクト殿の意思で正式に決まったこと。上層部が納得したことであれば、下の連中が勝手にそれを曲げるって違くねえか?」


「曲げるわけじゃないわよ。ユノ殿が目覚めれば別に当初の予定通り何の問題もないってだけでしょ?」


 六人の変態が気絶する中で、二人の論戦は続いた。


「……なら戦う他、仕方あるめえ。アックンガー四兄弟が末弟、ユノ隊管轄従者『土のグレートチョイナー』、相手になるぜ! 兄貴達の無念を晴らす!」


「あ~ら、随分と弱いお兄さん達だったわねぇ。てっきり色違いの雑魚モンスターと繰り返しエンカウントしてるのかと思っちゃったわ。ホホホホ!」


 レドゥーニャが手の甲を顎にあてがい、高飛車に笑って相手を挑発した。


「お前は俺の部下達を気持ち悪いと言ったが、俺に言わせりゃあ脚だけヒューマン系の蜘蛛って方がよっぽど不気味で気持ちわりーと思うがな」


「何ですって!? この八本の美脚の美しさが分からないの?」


「この組織は戦闘能力至上主義。文句があるなら『武』で示せ」


 そう言って、グレートチョイナーは威勢よく金槌を振り回した。


「黙れ!」


 レドゥーニャは脚を罵られたことに心の琴線を刺激され、怒りに任せて八本の『美脚』を激しく蠢かせながらグレートチョイナーに突進した。


 繋がり眉毛を引き締め、迎え撃つ形で金槌を構えるグレートチョイナー。


 両者の体が交錯する瞬間。


「超波動砲!!」


 掛け声と同時に、両者の間を、青白いオーラの奔流が通り過ぎた。凄まじいエネルギーを湛えた波動はそのまま光の柱となって遥か天空へと駆け抜けていった。


 レドゥーニャとグレートチョイナーはその場でピタリと佇み、波動が発せられた方を向く。


 屋上の入口(レドゥーニャの体の幅に合わず、既にドアは彼女の足や後体を無理矢理通す過程で破壊されてしまっている)に、両の掌を突き出した体勢で、普段着姿のゲキシンガーが構えていた。

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