沖縄3

 時間は午後3時半。ちょうど良い時間だ。


「あの角の銀行で良いんじゃない?」

葵が交差点にある地方銀行を指さした。


「オーケー。じゃ、ちゃっちゃっと片づけて買い物して帰ろう」


 銀行裏口。葵が目で合図をしてきた。 さぁ、ショータイムの始まりだ。


「では尋常に、徳川家伊賀流忍術指南番、小杉葵、参る!」

葵が印を結ぶと深い藍色の忍者装束姿に変わり、続けて

「伊賀忍法、隠れ身の術!」既に壁の一部になっている。


さて。私も行くか!


「甲賀流忍術師範、風見結衣、参る!」


茜色の忍者装束姿になると続けて「甲賀忍法、隠れ身!」


裏口ドアのカギ穴へ火薬球を詰めて導火線に火をつける。


ボンッ! ドアノブが飛び散ってドアが半開きになる。 と同時に警報が鳴り響く。


「甲賀忍法、光玉!」

半開きのドアから投げ込まれた玉が激しく発光して行員たちが目を覆った。


葵がドアを開けて行内へ飛び込み、「伊賀忍法、眠り玉!」

玉から黄色い煙が噴き出し、行員たちはその場で眠り込んだ。


葵はそのまま金庫室へ向かって走る。私もその後を走る。やはり金庫室のドアは開いていた。


銀行が閉店した後から行員が帰るまでの間が客も居なくて銀行正面も閉まっていて、でも金庫室も開いている、もっとも都合が良い時間帯だ。 ただ、行員の作業が終わってしまうと金庫室も閉められてしまうので、運次第でもあるのだが。


「結衣、ここよ!」

葵が現金を見つけたようだ。 


「グッドジョブ!」

葵の所へ駆け寄り、万札の札束を掴んで左右の腰の袋に2束づつ詰め込んだ。


「終わり! 撤収!」葵が裏口ドアへ走る。


 裏口ドアから外へ出ると、警報の音で集まった野次馬が沢山居た。

野次馬達は私達を指さし、忍者、忍者と騒いでいる。

パトカーのサイレン音も近づいて来ている。


「伊賀忍法、影分身の術!」


葵が印を結ぶと辺り一面が葵の分身だれけになった。

相変わらず葵の分身の術はボリューム満点だ。


野次馬達からは驚きとも悲鳴ともつかない、うぉぉぉぉっという声があがっている。


私も葵も葵の分身達に隠れて術を解き、Tシャツ、短パン姿に戻って野次馬達の中に紛れ込んだ。

野次馬に混じって葵の銀行裏の葵の分身を見てる葵自身が小声て印を結ぶと、分身がパッと消えた。


分身達が消えると野次馬達からまたしても、うぉぉぉぉ、という声があがった。

なぜか葵自身も、うぉぉぉぉ、言っていた。 あんたの忍術でしょうが・・。


パトカーが数台飛び込んで来た。

警官数人が行内へ入り、別の警官達が黄色いテープで規制線を作って野次馬達を後ろに下がらせた。


警察の車が続々とやってきて、最前列の野次馬達に聞き取りをしているようで、「忍者」、「増えた」という単語が聞こえてくる。


 しばらく野次馬として現場を見ていたが、動きが無くて飽きてきたのか、帰り始めた野次馬に続いて私達も現場を離れた。

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