幕間 夜の夏越神社 祀り準備
闇夜に和装の巨漢が下駄を履いて歩いていく。下駄は一音も立てない。あれほどうるさかった神社の境内は静まり返り、動くものは彼だけだった。
動かない男たちはいた。何人もの男たちは、土下座をして動かない。
夏越カコシダは、その巨体を鷹揚に彼らに向けた。
「なんだい斎藤さん、今日は前田さんとこで、祭り前の前祝じゃないのかい」
土下座する姿をとめることすらしない姿は、昼間の切符の良い言動とは打って変わって、威厳に満ちたものだった。
土下座の姿勢のまま、一番年配の老年といっていい男が口を開く。
「地域に害するものが見つかりました。カコシダ様のお力をお借りしたいのです」
ほう、とカコシダは片眉をあげた。
「俺はただの宮司だぜ」
「わかっております。なので、どうか、かの者にお言葉添えいただけないかと思っております」
「斎藤さん、俺になんて言ってほしいんだ」
斎藤と呼ばれた男は顔をあげた。カコシダの顔は闇に隠れて見えない。けれどだからこそ勢いよく、彼は言う。
「夏越様につぶしてほしいのです。この街のどこかに潜む陰謀と、利権が潜む魑魅魍魎の目的を」
だって夏越様は神だから、叶えてくださいまし。
そう言う彼らをカコシダは見下ろした。その瞳には、京介が見れば虹のような光がともっていることがわかっただろう。
「夏越は、人を助ける存在だ。あなたたちの話を聞きましょう」
厳かな声に、再度男たちは平伏する。
「でも、どう困っているか聞かせてくれ、斎藤さん。俺にできることであればするから、きっとあなたがたの言う、あの『夏越』なんかの力を借りんでもなんとかなるかもしれないだろ?」
その声には信念が宿っていた。カコシダは長兄として、凛とした声を張る。
「神なんか得体のしれないもん、頼るんじゃないよ」
男たちは歩き去るカコシダの後を、何歩も距離を開けて、ついていった。
彼らの様子を、カメラ付きの眼鏡をかけた薄桃色の唇を持った影が見つめていた。
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