第5話
振り返った先には、涙に泣き崩れている猫達がいた。先ほどまで鬼のように怒っていたり、赤青いろんな顔色をしていたのに、今は顔が真っ赤、鼻水を垂らしながら泣きまくっているのだ。
『チビ……お前、苦労してたんだな……』
『お前……そんな……』
後はもう言葉にならない何かを発していた。子猫の周りにサッと寄り、汚い顔を子猫に押し付けてすりすりしたり、撫でまわし始めた。
『えっ……これはなんなの』
『はぁ、よかったな。被害に
リーダー猫は遠くまで行ってしまったはずなのに、戻ってきたのだ。
『……じゃあ、子猫には何もしない⁇』
『そりゃあわからんな』
リーダー猫は肩をすくめ、猫達を見つめている。こいつは何かする気なのかと疑うが、思っていることがわかるのかリーダー猫はニヤリと笑った。
『俺は何もしないが、あいつらが何かするだろ。あれじゃあチビのしつけもできるかわからんがな』
そう言うと、リーダー猫はふぅとため息をついて地面にゴロンと寝転がった。もしかしたら、こいつらは子猫に町の常識とかそういうのを教えるつもりだったのかもしれない。見た目が怖かったから、子猫に攻撃するのだと勝手に勘違いしてしまっていた。俺は恥ずかしくなり、リーダー猫の横で小さく
『はぁ、面倒になったからここで話を聞くぜ』
リーダー猫は目を閉じてコロコロと転がり始めた。話を聞く体制ではない気がするのだが、猫の常識は俺にはわからないし、こいつらが特殊なのかもしれない。とりあえずは話してみようと思った。
『俺……自分の身体に戻りたいんだけど、どうやったら戻れるの⁇』
『はぁ⁇』
リーダー猫はパッと目を開けて、俺の顔を
『……お前、人か』
リーダー猫の目は鋭く光り、俺は少し怖くなった。
『あぁ……起きたら猫になってたんだ。それでものしり猫に聞いたら、リーダー猫に聞くと言いって言われて』
リーダー猫は耳をポリポリと掻きながら、大きめのため息をついた。
『町の外れに崩れた建物がある。そこに占い猫がいる』
『占い……猫⁇』
『あぁ。そいつに聞くといい。ったく、こんな用事かよ』
さっとリーダー猫は立ち上がり、また先ほどの道に戻り始めた。
『なんでものしり猫はリーダー猫に会えって言ったかわかる⁇』
ものしり猫なら知ってそうな情報を、なぜリーダー猫に聞けというのかがわからなかった。
『そりゃあ、俺がこの町のリーダーだから、周りの猫にも伝えとけって言うものしり猫の圧力だろ』
『あぁ……そういう』
猫の中にも圧力とか言うのであれば、上下関係があるということだろうか。こんなところに人間らしさを感じてしまう。
『おいっ、お前らいくぞ』
リーダー猫が声をかけた途端、子猫にくっついていた猫達はリーダー猫の前まで移動した。
『おい、子猫を忘れてるぞ』
俺はその場に放置されて、目が点になっている子猫を見つめながら声をかけた。
『いや、でもさっきお前のだって……』
戸惑う猫達に対して、俺はにこりと笑い子猫の方を見た。
『お前、名前はあるか⁇』
『……ないよ』
子猫は微妙な顔をしながら、俺を見つめていた。
『お前は今日からウミだ』
『……ウミ⁇』
『俺の名前、海影って言うんだ。俺の名前から取ったんだ』
子猫はウミ、ウミと言いながら下を向く。俺は頭をポンポンと叩いて子猫に笑いかけた。
『お前は俺の弟分だ。ちゃんと迎えに行く。その間はアイツらからこの町のルールとかいろんな話を教えてもらってくれ』
子猫は俺をじーっと見ながら、小さく頷いた。
『うん……ウミ、待ってる』
そう言うと、ウミは猫達のところに向かっていった。ウミが猫達のそばに近づくと、猫がひょいっと
『町の外れに崩れた建物……それって廃墟ってことかな⁇』
猫達がいなくなった後、俺は目的地について考えていた。ここら辺に廃墟があるなんて知らない。聞いたこともないからだ。
『町の外れに行ってみれば、わかるかな⁇』
俺は猫達とは反対側の道を走り始めた。
街の外れにはあまり建物が無いのだ。一年前にできたペットショップがあるくらいで、後は道路と川しかない。夕日が沈み始めており、もうじき夜になるようだ。早くしないと、一日が終わってしまう。
『廃墟って……あれか⁇』
目の前のペットショップは扉が片方割れており、中は真っ暗なのだ。一年前にできたばかりなのに、こんなに早く
『できた当初は来てたのにな……』
このペットショップができたとき、幼馴染の
今年、中学三年になって受験勉強をしなくてはいけなくなり、あまり遊ぶことが無くなってしまったがそんな経たずに潰れて廃墟化するなんて、世の中は分からないものだと思った。
『……さて、占い猫を探すか』
『あたいがなんだって⁇』
突然耳元で声がして、振り返ると大きな顔が目の前にあった。
『ふぉわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!⁇⁇⁇⁇』
俺は驚きすぎて大声を出してしまった。
『うっっっるさいね!!』
大きな顔がこちらに向かって大きな声で叫んだ。俺の声よりも十倍大きな声を出して。
『ご……ごめんなさい』
『ふん。はよ来な』
すっと草むらに顔が無くなった。俺は驚いて腰が抜けたのか動けない。……猫って腰あるのか、ちょっと不思議に思った。
『早く来なさいよっっっっ!!!!』
『はいっ!!!!』
先ほどの大きな顔の声が聞こえて、俺は飛び上がり草むらに向かって走り出した。
草むらに入ると、思った以上にたくさん草がわさわさと生えており、俺を撫でまわすように当たる。
『くっ……くすぐったい』
プルプルと震えながら、ひたすら草むらをかき分けてさらに奥へ向かった。
草むらをかき分けて着いた先は、空き地のようだった。俺の今の猫目線だと広く見えるが、人間目線だと狭いかもしれない。
辺りを見渡していると、先ほどのでかい顔がいた。最初は人間かと思ったが、よく見ると大きい顔の猫だった。全体が見えるが、どう見ても人間と言えるほどの大きさだ。あまりの大きさに言葉すら出なかった。
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