第3話
『猫が……喋ってる⁇』
俺は驚いて心の声を声に出してしまったが、目の前の猫はクスクスと笑うのだ。
『今の君も猫だろう⁇猫同士なのだから話せて当然ではないか⁇』
『あんまり、笑われるのは好きじゃないんだけど』
『あぁ、ごめんごめん。君はいつも面白いからね』
『……いつも⁇』
『あぁ、ごめんごめん。こっちの話』
そう言うと猫は目の前まで歩いてきた。俺よりも一回り大きくて、思ったよりも大きな口だったので、少し怖かった。
『俺は矢崎海影って言うんだ。お前の名前は⁇』
『私に名前はないよ』
『えっ⁇飼い主がつけた名前は⁇』
猫はまたもクスクス笑う。いい加減にしてほしい。
『なぜ、私達が話す言葉を君達が分からなかったのに、君達の言葉を私達がわかると⁇』
至極真っ当な言葉にまたも言い返すことができなかった。
『僕らの中ではものしり猫と呼ばれているんだ』
『ものしり猫……⁇』
『そう、ここら辺一体のことは私の耳に届いているからね』
ものしり猫はそう言うと、腕で顔を
『ちょっと待って!!』
『……なんだい⁇』
ものしり猫はニヤリと笑いながらこちらを振り返る。多分、俺が聞きたいことを知っているんだと思う。
『俺……自分の身体に戻りたいんだけど、どうやったら戻れるの⁇』
『ふふっ、あっちに行きなよ』
そう言うとものしり猫は、商店街の方に手を差した。
『あっちにね、リーダー猫がいるの。彼に聞いてみるといいよ』
『あ……ありがとう!!行ってみる!!』
俺はものしり猫にお礼を言うと、商店街に向けて走っていった。
商店街はお昼時だからか、人が多くて混雑した道になっていた。俺は人の足元を必死にかいくぐりながら進んでいた。そこらにちらほらと猫がいるものの、声をかけようとするとそそくさといなくなってしまうのだ。
『なんで誰も相手してくれないんだよ……』
トボトボと歩いていると、目の前に俺よりも小さな黒猫がいた。黒猫の目の前には、魚屋がある。魚屋のおばさんが商品の
「あっ、コラァァァァァァッ!!」
魚屋のおばさんが気付いて、大きな怒声が鳴り響く。俺は驚きつつ、泥棒子猫を追いかけた。
『おいっ!!おいっ止まれよ!!』
子猫なのに、俺と同じくらいの速度で走り続けていた。どこまで追いかけたかわからないが、いつの間にか空き地に辿り着いた。空き地に着くと、子猫は立ち止まって魚を食べ始めた。
『おいっ!!お店の商品を取るなんて、やっちゃいけないことだぞ!!』
俺は魚に咥えついている子猫を引っ張り上げる。それでも食べるのをやめないのだ。
『あのな、お店の商品が無くなるとお店の人が困るんだぞ⁉泥棒は警察に捕まっちゃうんだぞ⁇』
魚を食べ終えた子猫はこちらを
『警察って何⁇』
そう、警察は人間社会にある仕事であって、猫の世界にはないのだろう。
『あーっえーっと……人間の世界では、人のものを勝手に持って行ってしまうのは泥棒と言って、警察はそういう悪いやつを捕まえるのが仕事なんだ』
『それで⁇』
子猫はきょとんとしながら、こちらを見つめてくる。何とも言えないほどつぶらな瞳で見てくるので、俺が悪いことをしている気分だ。
『えっっと、だから、猫の世界でも悪いことをすると、取り締まられるよってこと……かな⁇』
『誰に取り締まられるの⁇』
子猫は手を
『えーっと……同じ猫とか⁇』
『その通り!!』
突然、後ろから大きな声が聞こえてきた。振り返ると五匹くらい猫がこちらに向かって歩いてくる。俺は驚いて、
『おっ……お前らは誰だ⁉』
『俺はここいらをまとめるリーダー猫だ。お前はここらじゃ見かけない不審な猫だな。俺のシマにいる猫たちから届いた情報と一致した見た目だ』
リーダー猫は俺をまじまじと見ながら、ふむふむと
『この匂いは、ものしり猫のだな。アイツに俺のところに行けっていわれた口か⁇』
こんなすぐ話が通じるのかと驚きつつ、俺は頷いた。
『ここで話すのもあれだから、俺んちに行くぞ』
そう言うと俺に背を向けて歩いていこうとする。俺はリーダー猫について行こうと歩き出そうとすると、子猫が足にしがみ付いていた。
『ん⁇どうした⁇』
子猫を見ると、
『なっ……なんだよ⁉』
『お前に用はない、用があるのはそのチビ猫だ』
『コイツは俺らの縄張りを乱した悪いやつだ』
『縄張りを荒らすやつはお仕置きが必要だ』
猫達は口々に騒ぎ始める。子猫は震えている。
『ソイツは最近来たチビだが、俺らの言うことを聞かないで好き勝手やってたんだ。これが
リーダー猫がそう言って、俺に早く来いと言わんばかりに首をくいっと引いた。
『……助けて』
子猫が震えながら俺の方を見ていた。確かにこの子猫は魚屋のおばさんの店から魚を盗った泥棒だ。悪いことをしたら、それなりの
だが、子猫なのだ。先ほども俺が怒っている時は真面目に話を聞いていなかったが、逃げたりしていないのだ。もしかしたら、親猫からはぐれてしまって何も知らないままここにいるのかもしれない。
縄張りやら他の猫やらの騒いでいる理由が、よくわからなかったのかもしれない。この状態でこいつらに引き渡したら、果たしてこの子猫は無事なのか不安しかなかった。
『おい、リーダー猫!!』
さっさと歩いていくリーダー猫に大きな声で呼びかけた。
『……なんだ、まだついて来てないのか』
『この子猫は俺のだ。だから、お前らに引き渡すわけにはいかない』
そう言うと、リーダー猫は振り返りこちらに向かって歩いてくる。周りの猫たちは
『あっ……あの……』
泣きそうな目をした子猫が俺の方を見るので、俺は頭を撫でた。
『後でいっぱい
子猫を背に隠して振り返る。リーダー猫達は、もう目の前までゆっくりと
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