皐月 イチゴ




「はいあげる」

「なんだこれ?和菓子か?」

「土入りの鉢にわざわざ和菓子を置くわけないでしょ。花よ。イチゴの。本物だからね」

「くれるっつーなら、花より実の方がいいんだけどよ。なんでくれんだ?」

「ほら。小さい頃、私。あんたからハナショウブの花をもらったでしょう」

「俺がおまえに花を?まさか」

「池に入って蛙見つけたって言って、勢いよく突っ込んで、ちぎったハナショウブの花を私に渡したでしょう。黄色の」

「あー。あー。ったような?」

「あんなに怒られたのに忘れる?」

「小さい頃はしょっちゅう怒られてたからな。いちいち覚えてない」

「今もそう変わらないし」

「嘘つけ。昔よりは減った」

「とにかく。あんたが覚えてなくても私が覚えていたの。だからお返し」

「いや、別に渡そうとして渡したわけじゃねーだろ。お返しなんていらねーんだけど」

「いいの。もらってよ。一株からでも増えるって言うし。うまく育てればいっぱい食べられるわよ。それに見ているだけで癒されるでしょう。ほら。まるっこくてピンクで可愛い」

「可愛いっつーか、うまそう。こーゆー花型の和菓子、あるだろ。どーせならそっちくれよ」

「本当に花より団子よね。でもあげるのはこのイチゴの鉢だけ」

「あー。じゃあ。おふくろに渡すわ」

「いいわよ。あんたじゃ、明日にはもう枯らしそうだし。イチゴが可哀そう。ぜひそうしてちょうだい」

「じゃあ渡すなよ」

「いいの。渡したかったの」

「何もやらねーぞ」

「いらないわよ」

「………へんなやつ。餞別でもねーのに」

「お返しだし。それにいーじゃない。何の記念日もないふつーの日に花をあげたって」

「そーですかー」

「そーなんですー」










(2021.12.13)



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