第189話
私はその後、彼女から学園内の事を教えてもらうべく話を続けようとしたらタイムリミットだった。隊長さんが心配しているようで、私の方ジッとを見ていたのだ。これ以上長くなると隊長さんがしびれを切らして乗り込んで来そうだ。悪い感じで話してはいないのはわかるだろうに、内容が聞こえないだけに心配しているのかもしれない。心配性なお兄ちゃんのようだ。隊長さんの様子に気が付いたご令嬢が驚いたように話しかけてくる。
「姫様。隊長様はいつもあのような?」
「? どういう意味かしら?」
「いえ、姫様への気遣いが素晴らしいと思いまして」
ご令嬢は誤魔化しながら隊長さんの様子を聞いてきた。私にはその欠片を時々しか見せないが、噂に聞く隊長さんは相当に冷たい人らしい。その辺を考えるとご令嬢はギャップに驚いているのかもしれない。
隊長さんのイメージ改革大作戦でも敢行しようかな? 本人に内緒では問題かな? 私は本人に許可を取ってからイメージ改革をしようと心に決めつつ、ご令嬢の質問に答える。
「ええ。普段からとても優しい方よ。気遣いのできる方だわ。彼が護衛に付いてくれてとても良かったと思っているの」
「そうですか」
ご令嬢はため息とも吐息とも判断が付かない呼吸を吐き出しながら、取り合えす相槌を打っている様だ。私にどう返事をしていいのかわからない様子。私はついでに今までの隊長さんの様子を聞いてみることにした。
「教えていただきたいわ。今までの隊長はどのような様子だったのかしら? 感情の起伏が少ないと聞いたことがあるのだけど? 教えてくださる?」
冷たいと聞いているとは言えず、感情の起伏が少ないということでごまかしつつ、今までの隊長さんの様子を聞いてみた。ご令嬢はためらいつつ答えてくれる。
「わたくしの存じ上げている隊長様とは別人のようです。姫様の仰るとおり感情の起伏が少ない方で、与えられて問題を間違いなく遂行することに邁進されているような方と感じておりました。周囲の方にも気遣いはされているのですが、姫様に向けている気遣いとは違うようです。姫様には害がないようにと気遣いをされていらっしゃるようにお見受けいたします。あまりにも違いが大きいのでわたくしも驚いておりますわ」
「そうですか。わたくしが知っている隊長は皆様ががご存知の隊長とは大きく違うのですね。わたくしが知っている隊長は今の様子しか知りませんわ。耳に知る印象が違うので驚いております」
私とご令嬢は二人で印象の違う隊長さんに驚きあって可笑しくなってしまった。二人で顔を見合わせてクスクス笑い合ってしまう。その様子を見ていた隊長さんが少しだけ目を見開いたのが見えた。笑いあっていた事に驚いたようだ。さっきまで害しないかと心配していたので予想外だったのだろう。隊長さんが驚いている事をご令嬢にこっそり教える。ご令嬢がその隊長さんを確認して驚いて、それを見ていた私はさらに面白くなりクスクス笑ってしまった。それを見たご令嬢もおかしくなったのかさらに笑い合う。
「ごめんなさい。おかしくて」
「いえ。姫様。申し訳ありません。わたくしもこんなに笑うのは久しぶりです」
私達が笑い合っているので、驚いている隊長さんはこちらに近づきたいのに近づくこともできずヤキモキしているようだ。
「姫様。ありがとうございます。謝罪に来たわたくしにこんなに良くしてくださって。感謝の言葉もございませんわ」
「? 失礼だけど。わたくしはあなたに良くしたことなど一つもないと思うのだけど?」
「まあ、姫様。わたくしよりも年下でいらっしゃいますのに、懐の広い方なのですね。殿下やわたくしなど足元にも及びませんわ」
ご令嬢の評価を聞きながら私は本気で首をかしげた。なにか懐が広いと評されることがあっただろうか? ご令嬢は何を勘違いしているのだろう? だが今までの中で感じられたことがある。彼女は本気で私に謝罪をしに来てくれたのだと思う。殿下を少しは庇う気持ちもあったのだろう、だからこそ私と二人で話したかったのだと思う。彼女の生真面目さを感じていた。できるなら彼女とお友達になれたらと思う。せっかく仲良くなれそうな人ができたのだ。ぜひ、お友達になりたい。同学年の女子ではないのが残念だけど、この際そこには気にしないことにしよう。
「ご令嬢。よろしかったら今度離宮に遊びに来られませんか? 学園内のことなども教えていただけたら嬉しいわ。今夜だけでは時間が足りない気がしますし、いかがかしら?」
「よろしいのですか?」
「ええ。今度招待状を送らせていただくわ」
「ありがとうございます。楽しみさせていただきます」
「では、失礼させていただくわね」
私はご令嬢に軽く礼をして背を向ける。立場上私が先に出るのがスムーズだ。ご令嬢は最敬礼で私を見送っているのがカラスに映り、隊長さんは私が出てくるのを待ちきれずテラスへ迎えに来た。
「大丈夫でしたか? 姫様。なにか失礼なことはありませんでしたか?」
「心配症ね、隊長さん。見ていたらわかったでしょう? 楽しかったわ」
歩き出す私の少し後ろに隊長さんが付く。今夜は護衛に徹してくれるのだろう。だが、心配症は変わらなかった。
「本当に?」
「楽しかったのがそんなに以外?」
「そういうわけではないのですが、笑いながら嫌な思いをすることもあるのが貴族社会です。その辺は姫様もご理解されていますでしょう?」
「そこは、確かに」
心配性の隊長さんの意見を聞きつつ、筆頭さんを探す。ついでに楽しかったことを信じてもらうために、彼女を離宮に招待したことを話す。
「本当に大丈夫よ。それでね、彼女を離宮に招待したの。学園のことも教えてくれるそうだし、せっかくだから色々聞いて見ようと思うわ」
「本気ですか?」
「もちろんよ。それとも彼女は招待したら問題になるような方なのかしら? 隊長さんが心配するような理由がある? だめだったら理由を教えてほしいわ。確かな理由なら私もやめておくし」
立ち止まり心配性な隊長さんを振り仰ぐ。真剣な心配そうな色を瞳に浮かべていた。それを見ると大げさとは言いたくなかったし、それだけの理由があるのだろうと思えた。
「いえ。確かな理由はありません。ただ、彼女は殿下に近い女性なので。それだけです」
「そんなに近しい方なの? 殿下に婚約者はいないと聞いたけど?」
「確かに婚約者はいません。でも、彼女は姫様が来られるまでは婚約者候補として第一位でした。殿下と年齢も同じですし」
「なるほど。世間的にみれば、私と彼女は仲良くなれなそうね」
「そうですね。あちらも姫様をどう思っているかはわかりません」
「彼女はそれをどう思っているのかしら? 婚約者になりたいのかしら? それなら私は邪魔よね? なんで声をかけてきたのかしら? 不思議だわ」
「彼女とはどのようなお話を?」
私の疑問か隊長さん自身の疑問かはわかりにくくなったが、疑問を解決するべく隊長さんは情報を拾おうとしている。
「謝罪に来られたのよ」
「謝罪ですか?」
「そうよ。スピーチで迷惑かけてごめんなさいを言いに来てくれたわ」
「そうですか」
「以外? 本心ではなかったのかしら? どう思う?」
「わかりません。まさか謝罪に来るとは思ってもいなかったので。それに私は彼女とは交流はない方でして。彼女の両親となら親しいのですが」
「そう。ではわからないことを考えても仕方がないわね。お付き合いして問題があるようならやめればいいいだけのことだわ。とりあえずお話ししてみましょう。それに筆頭さんは親しいようだわ。筆頭さんに聞いてみるものありよね?」
「そうですが」
隊長さんは心配を拭い切れないようで、返事が渋い。だが、こればっかりはお付き合いしてみないとわからない事だと思う。筆頭さんに話を聞いてみることにしよう。
何かを決めるときは情報を集めてからでも遅くはないはずだ。
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