第187話

 「ありがとう。同じ学年の方にお会いするのは初めてなの。お会いできて嬉しいわ」


 私はそう言いながら、目の前の姪っ子ちゃんが顔を真っ赤にするのを目撃してしまった。自分でもカミカミの挨拶と内容が問題だった事に気がついたのだろう。人に指摘される前に自分で気がつけたので問題ないのではないだろうか? 横にいる管理番も恥ずかしそうにしていた。管理番もこの場で注意するわけにはいかないので、後から注意しようと決めているように見える(勝手な思い込みだが) 


 ぜひ後からにしてあげてほしいと。彼女自身も自分でもいたたまれない様子だ。私はカミカミの挨拶には触れず笑顔をキープ。彼女は自分の失態にどう対応していいのかわからず、俯いて番へ水を向ける。


 「管理番。もう踊ってきたの? せっかくなのに一曲も踊らないのは勿体ないのではない? 姪っ子さんはダンスは苦手なのかしら?」


 「いえ、まだなのです。初めにご挨拶に伺いたくて。正直、私もそんなに上手ではないのですが。、お言葉に甘えさせていただきます。行こうか?」


 最後の一言は姪っ子ちゃんに向けたものだ。彼女は少し顔を上げると頷いた。予想は当たっていていて、少し涙目になっていた。せっかくのデビューの日だ。楽しんできてほしいと思う。にこやかに二人を送り出すと、隊長さんがフーと細く息を吐き出した。


 「女の子らしい可愛らしい方ね」


 私がみんなの感想をまとめてみた。全員そんなことを思っていないのは確かだけど、初対面の人を悪くは思いたくないのでこの感想だ。私が好意的に評したのでそれ以上の感想もなく。さて、どうしようかなった。私の知り合いはこれ以上いないし、周囲に話しかけてみようかと考えていると私の正面からきれいな銀髪のお姉さんが歩いてくるのが見えた。


 


 侯爵令嬢(予想)だ。こちらに向かって真っすぐ歩いてくる。さっきの話では私に話しかけることはできないはずなので、目的は隊長さんだろうか? でも、殿下のパートナーなら他の男性に話しかけても問題はないのか? そのへんの細かいルールは知らないので疑問に思いつつ彼女を待つ。どう見てもこちらに歩いているので無視するのが躊躇われたのだ。


 彼女は私に礼を取ると、筆頭さんに向き直り挨拶をする。


 「お久しぶりでございます」


 「ご令嬢、お久しぶりです。お元気でいらしたでしょうか?」


 「はい。お陰様を持ちまして健やかに過ごさせて頂いております」


 「それは何よりと存じます」


 筆頭さんとは慣れた感じで話をしていた。この様子ではご令嬢は筆頭さんの生徒だったのだと思われれる。私はどうするか迷っていた。この場で私から紹介してほしいとお願いするべきなのだろうか。彼女は私にどんな印象を持っているかわからないし、本気で筆頭さんに挨拶に来ただけなのかもしれないし、横から口を挟むのも嫌だし、と思っていたら彼女から筆頭さんに頼んでいた。


 「筆頭様。図々しいと思われますが、よろしければご紹介をお願いできませんでしょうか?」


 誰に、何をという直接的な表現はなかったがどう考えても私のことだった。隊長さんはさり気なく令嬢側に立ち私を隠すようなことはしないが、少し動けが間に体を入れることができる位置に動く。彼女が何をするかわからないと判断したのだろうか?


 筆頭さんは隊長さんの立ち位置を確認してから私を見た。私の判断に委ねるつもりなのだろう。私は彼女の考えも知りたかったし、何を話してくるつもりなのかも興味があったので、筆頭さんに許可を出すように頷いた。




 「ご令嬢。ご紹介いたします。離宮の姫様です。ご存知とは思いますが、今年がデビューとなります」


 「ありがとうございます」


 筆頭さんに礼を述べた後私の方に体を向け、正式な挨拶をしてきた。


 「初めてご挨拶をさせていただきます。このような機会をお許しいただけましたこと、光栄と存じます。侯爵家の長子となり、総会の副会長を努めております。学内で困りごとがありましたらいつでもご相談いただけたらと思います」


 「ありがとう。留学してきて初めての学園生活に緊張しているので、心強いことを言っていただけて嬉しく思います。何かありましたら相談させてください」


 本気で言っているのかはわからないがとりあえずは丁寧な挨拶だった。私は楽にしてほしいことを伝え、彼女も礼を解く。


 改めて正面から彼女を見る。


 


 銀髪に澄んだアメジストの瞳。ほっそりとしていて華奢な感じだ。薄いブルーのドレスで、その上にチュールを重ねてある。きれいな感じにまとめてあるが派手な感じはしなかった。やはりデビューの子たちが主役なので、派手にはしないように気をつけているのだろう。そこは使い分けのできる人だと感じられた。なんとなしに彼女に好感を抱いていると、令嬢は私にニッコリと微笑みかけた。


 「姫様。失礼を承知で申し上げます。よろしければ女の子同士、少しお話をしませんか?」


 「わたくしと?」


 意外な申し出に聞き返してしまった。彼女は微笑みながら頷く。筆頭さんが心配そうに私を見て、隊長さんを見る。隊長さんは無表情だが私にはわかる。隊長さんは今、気持ちの上では苦虫を噛んでいる。100匹くらい。


 彼女の真意がわからずどうするべきか迷ったが、好奇心が勝った。隊長さんを制し彼女の話に頷く。


 「ええ。折角ですしお話をしてみたいわ」


 「嬉しいですわ。どうぞこちらへ」


 令嬢は私をテラスの方へ案内してくれる。テラスは会場から隠れることのない位置で二人でいても様子はしっかり見える場所だった。この位置で私に何かかれば彼女が害をなしたことがえわかるので、そんなことはしないだろう。隊長さんは私を案内する彼女の後ろにつく。それを見た彼女は勇者だった。


 「まあ隊長様。女の子同士の話を聞くなんて、紳士のすることではありませんわ」


 「私は姫様の護衛だ。聞くつもりもない」 


 その上を行くのは隊長さんだった。彼女の牽制も気にする様子はなく跳ね返す。だが、聞く気もないのは本当らしく。テラスの入り口で止まり。それ以上は近づくことはなかった。なにかあれば走れば間に合う距離だけど話は聞こえない。絶妙の間合いだった。


 


 その位置を確認した令嬢はホッとした様子を見せた。


隊長さんに聞かせたくない話をしいたいようだ。彼女は私に何を話したいのだろう。気になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る