第168話

私は今直立不動になっている。いや、時々手を挙げて、とか言われるので直立不動ではないだろう。昨日のうちに宣言されていたので不思議ではないが、今日はドレスの仮縫いだ。測定もされていないのにどうして仮縫いまで出来ているか不思議だったけど、私のサイズが分かっているので、それに合わせて作られているのだそうだ。その話に納得していると着々と仮縫いは進められていく。仕付け糸を付けたまま、少し歩いたり、クルクル回る様に言われたりもする。動いたときの見栄えも気にするらしい。らしい、と言うのは私は気にしていないので、言われるままになっているからだ。


 現在、仮縫い中なのでこの部屋には男性と呼ばれる人種はいない。男子禁制だ。代わりに入り口と言う入り口には騎士さん達が必ず立ってくれている。ありがたい事だ。お仕事ご苦労様です。




 ドレスは重厚感のある紺だった。重たい色なのに良いのだろうかと不思議だったが、デビューなので落ち着いた雰囲気を出したいのだろうと想像する。


 ドレスの上半身に花の刺繍があって、スカートの方まで同じように刺繍が施されている、上品な印象だ。ウエストの部分には光沢感がある同色のリボンが用意されている


、誰の目にも素晴らしドレスだ。豪華なレースには、ため息が漏れる。これを私が着るのかと思うと別な意味でため息が零れそうだ。これは豪華さに私が負けそうだ。私が浮きまくってドレスの引き立て役間違いなしだろう。もう少し地味なドレスはなかったのだろうか? 何なら既製品でも良いんだけど。




 「筆頭。これは、少し派手ではない? 私にはもう少し地味なものが良いと思うのだけど?」


  裾の長さを調整してもらいながら筆頭さんに確認を取る。ここまで作ってもらっておきながら今さra


だと思うが、私にはドレスの相談はなかったのだ。ここで主張してもバチは当たらないと思う。筆頭さんは予想していたのか、用意されていたようなセリフが返ってきた。


 「そう仰ると思っていましたので、私の方で落ち着いた装いを用意させていただきました。デビューですので、本来ならもう少し華やかなものを用意する事が多いのですが、姫様はそういった装いはお好みではないと思いまして」


 落ち着いた装い、という事はこれで地味という事だよね? これで、地味なんだ。


 私は仮縫いのドレスを見ながら仕立て屋さんを見る。彼女は苦笑を隠しながら私に頷いて返事をしてくれた。




 「筆頭様の言われましたように、デビューされるお嬢様方の中では、かなり落ち着いた装いだと思われます。お色も紺ですし。大体のお嬢様型は明るい色を好まれる事が多いですので。よろしければ他のドレスもお持ちしましょうか? 見本としていくつかは用意してございますが?」


 「どんなドレスなのかしら?」


 仕立て屋さんが従業員の人だろうか頷いて見せると、他のドレスを運び込んでくれることになった。10着ほど持ってこられた瞬間に私は白旗を揚げた。今のドレスでお願いします。思わず唇から単語が漏れ出すほどに降参を認めたのだ。


 他のドレスは綺麗だった。見る分には。私が着るとなると話は別だ。


 ピンクに明るい赤、黄色、紫は紫でも色がきつい感じのものとか、何と言っていいか分からないけど、派手だった。私が着れる感じではない。しかもセパレートとといえば良いのか、上下で色が違ったり、ボレロに大きなお花がついていたりで、着れる気がしない。大事な事なので2回言いたいと思う。筆頭さんの判断は私の希望を最大限に反映されているものだと理解した。私が言うべきセリフはただ一つ。


 「この衣装でお願いします」


 肯定のセリフを繰り返したところで、仕立て屋さんは苦笑いを隠しながら仕事を続けてくれていた。




 仮縫いが終了すると休憩と言うのかお茶の時間だ。一息ついたらもう一度ダンスの練習。私は無駄だと思いつつもデビューのダンスを何とか回避できないか画策していた。


 デビューまであと10日。私のダンスが改善されるとは思わない。その上お相手が問題だ。陛下の命令とはいえあちらも私の相手など遠慮したいと思っているだろう。 


 私もそうだったが、親など子供のためにと言いつつ自分の意見を押し付けるものだ。子供の意見を聞くことなどない。子供は自分の判断に従うと思っているものである。後から自分が間違っていたと反省する事が山のようにあるのだ。何回、子供と相談して決めることが大事なのだと反省した事か。


 その反省が有益になるかはまた別問題なのだが。その辺を踏まえてどうするべきか考える。


 無駄な抵抗とは思いつつも頭を捻る。こういった無駄な抵抗の話は筆頭さんにはできない。隊長さんなら軽口を言いながら付き合ってくれるのに。今日は仕事で不在なので残念だ。




 私は慣れない事に疲弊している事と、嫌な事を完遂しなければならないというプレッシャーからか、考えが纏まらない感じになっていた。右に左にと迷走している感じだ。




 自国にいるときならお披露目みたいなものはあったが、ここまで大掛かりな感じではない。もう少し内輪的な物なので気楽な感じで良かったのだ。


 離れにいたままならこんな苦労はなかったんだろうな。


 過ぎた事を考えても仕方はないのだが、思わず考えてしまうが一つの答えに行き着く。




 一人で考えるから考えが纏まらないし、本人の希望を聞かないから面倒くさい事になるのだ。


 だったら本人に聞いてしまえばいいのだ。当人同士で話し合えば上手くいくんじゃないだろうか?


 以前の親だったころの経験を活用し答えを導き出さば良いのだ。




 私は明日に隊長さんに相談する事を決めた。


 これで少し状態が好転する事を期待してお茶を楽しむ事にした。


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