第138話 エイプリルフール小話
明日は4月1日
私の前いた世界ではエイプリルフールだ。嘘をついても良い日となっている。もちろんこちらの世界ではそんな事はない。
しかーし、いたずらをしたいと思う気持ちがないとは言えない。基本的に私はいたずらをするのが大好きなのである。それを加味すると何かをしたい、と思う人情は許していただきたい。
だが、エイプリルフールという概念がない以上私の行為はただのいたずら、しかも【姫】という肩書のついた人物のいたずら、である。他の人からしたら質の悪い事にしか思えないだろう。そう考えると、何をしたら笑い話になるか考えないといけない。人を困らせるのは本意ではないのだ。
わたしは昼食の下ごしらえを始めながら考える。しかし、これが意外と思いつかない。
私の発想が貧相だからだろう。どうしたら人に迷惑を掛けず、笑い話になるいたずらがあるだろうか?
ゆっくり考えてみよう。
① 料理をすることを辞めると言う ⇒ 筆頭さんが喜ぶ図しか考えられない。冗談だと言っても、辞めさせられる今後しか想像できない。却下だ。
② 国に帰りたいと騒いでみる ⇒帰りたい気持ちはあるが、騒ぐほどあるかと言えばそうでもない。これをすると管理番を始め、隊長さんや筆頭さんが眉をㇵの字にして困る姿しか想像できない。それは申し訳ない気がする。
③ ちょっと美味しくないご飯を作って管理番たちに出す ⇒ 考えてはみたがこれは私の主義に反する。材料に申し訳ないし、提供するなら美味しく食べてもらいたい。喜んでもらって、わたしも嬉しいのだから。これも却下。
④ 仮病を使う → お腹が痛いと言ってみる。これはいけるかもしれない。お腹が痛いのは自分にしか分からないし。寝てれば平気と言えばお医者さんも呼ばれない気がする。 いいかも。これは候補にしよう。
と思ったけど、体調不良で嘘をつくのは良くない。人に心配をかけるのはどうかと思うので却下。
⑤ 思いつかない。 想像力が足りないのか。これ以上は思いつかない。
どうしようか。諦めるか。
悩んでいるうちに当日が来てしまった。これはどうしようもない。
「おはようございます。姫様。今日も良いお天気ですよ」
「おはよう。それは良かったわ。今日も気持ちよく過ごせそうね」
私は侍女の一人に世話をされながら朝の身支度をする。
私のエイプリルフールのスタートだ。
今日は管理番たちが来る日でもあるので、ランチに何を作ろうか決めかねているところだ。
昼食のメニューを考えながら午前中を過ごしていると、良い事を思いついた。
これならだれも傷つかないし、笑い話になる気がする。
私は一つの計画を思いつくと実行する事にした。
「みんな。いらっしゃい。よく来てくれたわね」
私はトリオをダイニングへ案内しながら。声を掛けていく。
メインの食材は希望を聞くが、基本的には私が作りたいものを作る事になっている。管理番と隊長さんは料理に詳しくないし、商人は新しい料理を知りたがるので希望はない。私は気ままに好きなものを作りたいので、何となくこんな感じが定着したのだ。
因みに、今日は鶏肉を希望されている。
なので、始めは炊き込みご飯を作ろうと思っていたのだが、急遽カオマンガイに変更する事にした。正式な方法で作るのは私の記憶にないので、簡単カオマンガイだ。私の料理方法はあくまでも家庭料理なので、鶏肉と一緒に炊き込む方法で作っていた、。そのせいか、それ以外の方法を覚えていない。パクチーはこちらにはないが、にたような香草はある。しかーし、私があまり好きではないので、ネギで代用。別皿にして好きな人は自分で載せてもらう事にする。私が苦手だからとはいえ、他の人に強要する気はない。
そしてニマニマしながら今日の料理を提供する。
「姫様。今日の料理はなんというのですか?」
「カオマンガイという炊き込みご飯みたいなものよ」
「炊き込みご飯と言うとご飯と具材を一緒に炊く料理ですよね? 簡単にできますか?」
商人が興味深いというように質問を重ねてくる。これはいつもの事なので私も気にしていない。
恒例行事になっているが、レシピも教えている。商人は嬉しそうだ。
管理番は別なことが気になっている様だ。だが管理番は遠慮がちなので私に聞けないのだろう。
デザートが気になっているはず。私はその事に気が付いてたが気が付かない振りをする。そうしていると隊長さんが気が付いたようだ。管理番の代わりに聞いてきた。
この二人は甘党なのかデザートを喜ぶ傾向がある。
「姫様。今日はデザートがありますか?」
「今日? デザートと言うか、果物を用意しているわ」
「そうですか」
心なしか管理番の肩が落ちたようだ。甘いプリンやクッキーを想像していたのかもしれない。
管理番はガッカリしつつも、私に何かリクエストをすることはないので申し訳ない気分になる。
隊長さんが慰めるように背中をポンポンしていた。隊長さん、忘れてるかもしれないけど、管理番は貴方よりも年上だからね。
「最後のデザートは別なの。持ってくるわね」
今日はカオマンガイ定食だった。それをみんな食したので最後のデザートを別に出す。
「じゃーん。初だし。ショートブレッドでーす」
私は自分で効果音を付けつつ、こちらでは初めて作るショートブレッドを皆に見せる。
予想していた通り、管理番と隊長さんはビックリしていた。
予想外だっただろう。果物ではなくお菓子だったのだから。私は自分の期待していた顔をしてくれた管理番に笑いかける。管理番は驚きすぎたのが恥ずかしかったのか、照れ隠しなのか。少し私に憤慨して見せた。
「ひどいですよ。姫様。騙したんですね」
「そうよ。ビックリした?」
「姫様がこんないたずらをするとは思っていませんでした」
「一年に一回ぐらいいいかと思って」
隊長さんが付け加え、管理番も同調していた
「しょっちゅうあるのは嫌ですが、一年に一回なら許せます」
「確かに。そのお菓子も美味しそうですし」
「許してくれる?」
私の問いかけに、管理番と隊長さんは笑って許してくれた。
私のエイプリルフールは概ね成功した言えるだろうと。
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