第132話

今日は予定していた昼食会の日だ。


前回同様、陛下は楽しみにしていたのか予定の時間より早めに来ていた。宰相閣下は陛下を止めるのを諦めたのか、黙って陛下の後ろに佇んでいた。こうなるだろうと予想していた私は、教訓を活かし早めに準備を終わらせ、万全の状態で陛下を迎える。




早めの支度については筆頭さんも隊長さんも同意をしてくれていたので、問題なく準備をすることができた。今回の昼食会の支度については、管理番と商人の出番は残念ながらなかった。離宮に移ったからなのか、人手が増え不自由は少なくなっていて、ダイニングやリビングの支度も侍女さん達で滞りなく済ませている。ありがたいことだと思っているが、管理番たちと一緒にくだらないことを言いながら、支度が出来ないのは少し寂しい。


みんなでワイワイ言いながら支度をするのは楽しいのに。これからできなくなりそう。ちょっと嫌だけど、でも手伝ってとも言いにくいし。ここには人手もあるし、管理番たちの仕事でもないし。そこはつまらないかな。




今の住環境に不足や不満はないが、精神面と自由はかなり制限されているような気がしないでもない。


このままでは、スローライフが達成できにくい可能性が高くなっている事に、私は気が付いている。ここは考えてはいけないと思ってもいるが、いつか向かい合わなければならない日が来るとも思っている。それまでは見ない振りをしておくべきなのか、迷いがある。


強引に進むべきか、それとも私自身が行動できる日が来るまで待つか。私自身の国許の問題もある。軽々に決めるべきではない、とも思うし。気持ちがぐしゃぐしゃしている。私の方針が決まっていないので、いや、スローライフを楽しむという考えは決まっているし、一貫してその方向に変わりはない。が、他の予定外の事がありすぎて、考えがループしていて纏まりがない。その上陛下が何を考えているのかさっぱり読めない事も問題だった。嫁発言やこの離宮の事、どこまで本気なのか。面白い子供がいると思って遊んでいるだけなのか、不明だ。そのこともあり、自分の方向性が決められない。正直に言えば困っていた。その上これは誰にも相談ができない。


管理番や商人たちのトリオは気のいい人たちだがこの国の人間だ。私のこのスローライフの考えは相談できないし、相談したとしても困らせてしまうだろう。私自身で決めて行動しなければならない問題だ。


そこまで考えが行きつくと、頭を振る。




切り替えよう。今は目の前の昼食会に集中しなければならない。


「姫?」


急に首を振った私に驚いたのか陛下が心配そうに声をかけてくれた。


「調子でも悪いのか?」


「いえ、申し訳ありません。急に今日の料理を気に入ってもらえるか不安になりまして」


「そうか。姫もそんな心配をすることもあるんだな」


「どういう意味でしょうか陛下?私はいつも自信がない子供なのですが?」


「じしんがないこども?」


私の言葉を聞いた陛下がオウム返し(絶対ひらがなだ。自信がある)に呟き、フッと笑いをこらえる様子を見せていた。


この反応は何なのか。面白くない気持ちになり陛下を見返してしながら、言われた内容に引っ掛かりを覚える。


なんだろう、陛下の私への印象がどんなものになっているのか気にかかる。


陛下は私の事をどんな風に思っているのだろうか?ここは非公式の場所だ。食事会の時は気のいいおじさんにしか見えないことだし、聞いてしまおうか?返答から陛下の考えが少し見えてくるかもしれない。これはいいチャンスかも。


そのことに気が付いた私はこのチャンスを生かしたいと思っていた。




「陛下、率直にお尋ねしますが、私の事をどのように見ていらっしゃるのですか?」


「そんな事を聞くのか?」


陛下が苦笑する。確かに普通ならこんなことは聞けないかな?不敬罪にはならないだろうけど。怖くて聞きにくい内容でもあるし。


ちょっと失敗したかな?とも思ったが覆水盆に帰らず、言ってしまったことは、元に戻らない。


考えなしの子供の体で聞いてしまおう。


「陛下のその仰りようですと、なんとなく気にかかります」


「そうだな」


陛下は思案顔だ。自分の発言が思わせぶりなことに気が付いてくれたようだ。その反応から思いもよらず返答がしっかりと聞けそうだ。自分で聞いていてなんだか、どんな内容になるのかドキドキしてしまう。どうか面白い子供がいた、程度の内容でありますように。


「姫にはいろんな顔があるな」


「いろんなかおですか?」


いろんな顔?なんじゃそりゃ?思いがけない方向性の話に戸惑う。


私の驚きをよそに陛下は普通に話を進めていた。


「そうだな。今みたいに眉を潜めて何を言われているんだろう?と子供の顔をする時もあれば、先日のように後々の事まで考え進言するときもある、あの時は大人、と言うよりは自分の立場に責任があると考えている顔だった。料理をしている時は楽しんでいて無邪気な様子だしな。その時で全く違う顔がある。見ていて楽しいかな?」


陛下最後の疑問形は何ですか?自分で自分の発言がわかっていない感じですか?


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