第131話
「ごめんね。隊長さん。気を悪くした?」
「まあ、いい気はしませんね。姫様のご希望に沿ったのに」
「確かにそうね」
隊長さんはむくれていた。無理もない。私の希望を叶えようとしたのに、待ったどころか、気持ち悪いの返答だ。むくれようというもの。自分に非があるので素直に謝罪をして本音を少し滲ませる。
「ごめんね。でも、せっかく作った魚料理を美味しく食べたかったんだもの。あの感じでは美味しく食べれそうにないと思って」
「そうですか?まあ、そんな心配はいらないと思いますが。今日の魚は私が作ったものもあるので美味しいと思いますけど?」
むくれつつも本音をのぞかせる隊長さん。初めての料理が楽しかったらしい。自信を覗かせていた。
私は隊長さんの言葉を借りてバレバレの話題転換を図った。
「そうね、美味しいと思うけど。陛下には揚げ物の方を出した方が良いかしら?でも、前回も揚げ物は出してるから違うものが良いかしら?どう思う?」
「魚を揚げること自体が珍しいので喜ばれるとは思いますが。こちらも食べてみますね。比べてみましょう」
そう言った隊長さんはバター焼きの方も試食してくれていた。試食というか、普通の食事かな?結構な量を食べている。
これで少しは機嫌を直してくれたのだろうか?どちらかと言えば、私の話題転換に乗せられてくれたのかは不明だが、このまま突き進もう。話を蒸し返す必要はどこにもないのだから。
隊長さんの試食の返事を待つ。私は魚料理が苦手なのでどちらにするか決めかねていた。こうなったらいい加減なようだが、隊長さんのお勧めする方に決めようと思う。
自分の意見より人の意見の方が安心できる気がしていた。
「どうかな?」
私が緊張して見守る中、隊長さんは順調に試食を進めていく。バター焼きの2種類も食べ終わっていた。
返事を待っているとあっさりとした返事が返ってくる。ある意味順当な返事なのだろうか。
「姫様。揚げ物の方が美味しい気がします。フリッターの方が良いのではないでしょうか?」
「前回も揚げ物だったけど飽きないかな?」
「他は煮物と卵料理で違うから問題ないかと」
「そうね、なら、フライにしようかな」
私は自分で決められないので隊長さんの進言を素直に受け付ける。これで今度の昼食会のメニューは決定だ。私としては一安心である。メインさえ決まってしまえば後はどうにかなるものだ。
私は安心とともに笑顔で隊長さんにお礼を伝える。
「ありがとう。隊長さん。メニューが決まれば後は安心だわ」
陛下との食事会までは時間がなかったので、一息付けた私は肩の荷が下りた気分だ。
私とは対照的に隊長さんは腑に落ちない感じだ。その様子に私の頭の上にはハテナマークが出る。
どうしたんだろう?何か気に入らない事でもあったかな?
一人で悩んでも答えは出ないので本人に直接聞いてみた。
「どうしたの?私変な事でも言ったかな?気に入らない事があった?」
「いえ、そうではないのですが」
奥歯にものが挟まったような返事が返ってくる。この返事があるだけで納得がいかないことがあるのは間違いない様だ。中途半端にすると後が面倒くさいので決着はつけておいた方が良さそうだ。
「ごめんね。隊長さん。教えてもらわないと私にはわからないわ。問題があるなら教えてもらえないかしら」
「問題なんかありませんよ」
「本当に?顔に気に入らないって書いてあるわ」
気に入らないことがあるのは本当なのだろう、渋々としながらも気に入らない理由を話してくれた。
「姫様?私はフリッターの方がいいと思いますが、作るのはフライなのですか?」
「あ、その事ね。確かにフリッターも良いと思うのだけど、フリッターは作るのが大変でしょ?試作していてなんだけど、自分だけでは作れないからフライの方が良いと思ったの」
「私も手伝いますよ。次に作るときはもう少し上手にできると思いますし」
「・・・隊長さん。そうすると誰が毒見をするの?」
私も手伝います、と気合が入っていた隊長さんもあっ、という顔になった。毒見の事を忘れていたらしい。作るまではフリッターもありと思っていた私だが、メレンゲを作るのを見ていたら私一人では無理だと判断した。その上毒見問題もある。結果、無難なフライに決定だ。決して隊長さんと料理をすると時間がかかるからではない。そこは信用していただきたい(冷汗が・・)
残念そうな隊長さんだがこれは仕方がないと理解してもらえたようだ。がっかりとしたのか肩が落ちていた。作るのが楽しかったのか、また料理をしたかったのだろう。肩の落ち具合が残念さを表している。
それを見ていると私も申し訳ない気分になってきた。
穴埋めじゃないけど。今度、何かの料理教室を考えてみようかな?
丸まった隊長さんの背中を見ながら、
私は次回の料理教室を検討していた。
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