第122話

私の環境は大きく変化した。


住まいもそうだが、周囲の配置も大きく変わっている。




まず、隊長さんや、筆頭さんから離宮の中を覚えるように言われた私は、朝・夕の散歩を日課にすることにした。広い離宮は自分の家と思うから覚えられないのであって、学校の校舎と思えば大丈夫そうだ。


各部屋も、使っていない部屋は未使用として認識することにした。いちいち部屋の名前を、覚えていたらキリがない。




私の散歩には護衛騎士さんと侍女さんが一人つく。


自由を望む私としては、窮屈極まりないが、相手も同じと思えば納得できなくもない。




周囲の配置として、新しい侍女さんや護衛騎士さんは、隊長さんと筆頭さんが選んだそうだ。家柄よりも上司の推薦と人柄で選んだらしい。私のそばに付く人は、離れから来た人が中心になるそうだ。この辺は私の関与していないところだから、わかりました、という外はなかった。


まあ、離れの人たちは穏やかだったから、特に気になるような人はいなかったし。交代は何時でもできるから、困ったときは教えてほしいと言われている。


交代したらその人は、後から評判が悪くならないかな?そこは少し心配なところだ。 




私は散歩という名のマッピングをしながら、頭の中は現状の振り返りをしていた。


護衛騎士さんと侍女さんは、無言のまま付いてきている。




基本的に私から話しかけない限り、二人が口を開くことはないだろう。


筆頭さんも自分から話しかける事は少ない。


隊長さんとは普通に話をする。色々話しかけてもくれるし、貴族の不文律みたいなルールも教えてくれる。マナーとは違う部分だから、筆頭さんよりも詳しかったりする部分も多い。


その辺は助かってるかも。




次に部屋の場所や、大きさも変わったことも大きいが、約束、というか予定通りというべきか、マナーとダンスの練習は順調に始まっている。




ダンスの方は、ダンスホールがキチンとしたものがあるのだが、そのほかにも練習専用の部屋があった。三方が鏡で出来ていて、姿勢や腕の角度、表情なども見えるように出来ている。これにはダンスの講師も喜んでいた。こんな立派な練習部屋はなかなかないらしい。流石は離宮、といったところだろうか。私に取っては、苦痛極まりない部屋なので授業の日以外に、足を運ぶことはなさそうだ。


ちなみに私は方向音痴だが、運動オンチでもある。手を叩いていても、三拍子が四拍子になることがある。何故こうなるのかは不明だ。本人にもわかってはいない。




マナーの授業の方は、まあ、なんか、こうなるよね。といった感じでこれ以上言うことはない。


マナーは国の歴史というか、その国の特徴が出るので、この国の歴史や文化を学ぶつもりで勉強している。というか、そうでもないとやってられない。筆頭さんに習いながら、そのマナーが出来上がった理由を教えてもらっている。逸話を聞くのが楽しいので、それで何とかなっている感じだ。


しかし、ダンスもマナーも楽しいとは思わないので、何とか、とかそれなりに、なんて単語が行き交っているのは気のせいではないはずだ。




この離宮に引越ししてから、最大の喜びはLDKリビング・ダイニング・キッチンが出来たことだろう。私の一日はそこで始まり、その部屋で終わる。私の部屋は別で確保されているのだが、その部屋はほとんど使っていない。


朝食は厨房に運んでもらっているが、それ以外は自炊なのでLDKで過ごすことになる。


ここはソファーもテーブルもあるし、ダイニングは別だから過ごし方も分けられるし、言うことはなかった。




ちなみに、私がここで初めて作った料理は、陛下のリクエスト料理を作るための試食だったりする。


メニューは全体的に、まだ決めてはいないが前回が居酒屋料理だったので、今回は家庭料理で攻めてみようかと思っている。私の食事として何回かは作っているので、後は管理番や商人達のトリオに出して反応を見るつもりだ。




三人組は明日来る予定になっていた。


管理番と商人はこの離宮は初めてで、今回の改装に管理番は関わってはいないそうだ。改築は陛下のお声掛かりなので、陛下の私財で賄われているそうだ。そのため王宮の官吏である管理番は、関わることはなかったらしい。


それを知った私は、隊長さんに二人の迎えと案内をお願いした。私が迎えに行っても良いが、侍女さんと護衛騎士さんがついて来るし、マナー的にも問題があるので、筆頭さんに良い顔はされない。それだと後がめんどくさくなってしまう。それなら、ここに通って来る隊長さんに、一緒に来てもらえば、面倒は少なくなるのでお願いしたのだ。


隊長さんは確かに、と笑って引き受けてくれた。


管理番辺りは気にしそうだが、この離宮を見て尻込みされると思うので、案内があってよかったと思うはずだ。


例えそれが、自分より身分が上の隊長さんであっても、知っている人が案内してくれれば、緊張はしないと私は思っている。




私は明日の二人の反応を予想して笑いたいのを堪えていた。

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