第121話
私は隊長さんと筆頭さんを連れて歩いている。
理由はもちろん、離宮のマッピングのためである。何回か歩けば場所は覚えるので、散歩(離宮の中を散歩できる広さがある)しているのだ。ちなみにこの離宮、3階建てだった。他の建物と同じように1階はお客様のためのフロアになる。
エントランス、ダンスホール、客間や談話室など人を迎えるための場所が主だ。私の部屋や私個人のキッチンは2階になる。2階はほぼプライベートな部分なので、誰でも入れるものでない。
その事を知った私は気楽に庭に出れないな、と思っていたらちゃんとテラスから庭に降りれるように作られていた。芸が細かいな、と感心してしまった。
この離宮になってから、私付きの人が増えた。そして、その人たちは住み込みになるそうだ。全員ではないが通いの人は少なくなる。
ちなみに、筆頭さんは住み込み、隊長さんは通いみたい。なんでも、隊長さんの住み込みは問題になる可能性があるから駄目なのだそうだ。
やっぱり、身分かな?ていうか、そんな人を私に付けてていいのかな?そこは私が首を突っ込む所ではないので、黙っておこう。
せっかくいい関係が出来たのだ。これは、このまま維持したいと思っている。新しく作るのも面倒だしね。
しかし、なんでこーなった?
離宮を歩きながら考えてしまう。
広い、歩いても歩いても、全容が覚えられない。方向音痴のせいもあるのだろうけど、諦めて自分の使うところだけを覚えていようか。そう思ってしまうほどだ。
私のしかめっ面が可笑しかったのか、隊長さんが笑いながら休憩に誘ってくれた。たぶんここはサロンの近くだからだろう。
自信がないので確認してみる。マッピングはあっているだろうか?
「ここ、サロンの近くよね?」
合ってる?と斜め上を見上げると、隊長さんが頷いてくれた。
「ええ、そこを左に曲がるとサロンです」
その言葉を実行すると確かにサロンが見えた。
マッピングが成功していたことに安心しつつ、先ほどの考えを提案してみる。
「これだけ広いと覚えきれないから、自分の生活圏を覚えるだけで大丈夫かしら?」
隣に筆頭さんがいたことを思いだし、言葉を修正しつつ提案してみる。
それを聞いた筆頭さんは良い顔をしなかったし、隊長さんはハッキリと否定した。
「申し訳ないのですが、その案には賛成できませんね」
「?」
私は不思議になり隣の隊長さんを見上げた。あんまり否定する方ではないので意外な意見だったのだ。
「危機意識を持って頂きたいと思います。危険はどこにあるのかわかりません。最悪、避難する時は一人になる可能性も考えられます。何があるのかわからないので一人でも避難できるようにしておいてください」
と隊長さん。
「万が一に備えるのは必要なことです。覚えるのは大変かもしれませんが、頑張ってください」
と、筆頭さん。
二人から同時に覚えるように言われると、覚えないという逃げ道はないようだ。
しかし、避難って、火事とか?火事なんてあんまりないと思うけど、今まで火事とかあったのかな?
「火事なんてありそうにないけど、今までに大きな火事とかあったの?亡くなった方とかも、いらっしゃったのかしら?」
「姫様?」
筆頭さんが不思議そうな顔をして私を見た。その顔を見て私の考えが違うことを悟ったが、危険はわからない。
代わりに隊長さんが教えてくれた。
「姫様。私と筆頭殿のいう危険は火事ではありませんよ。まあ、火事がないとは言いませんが、そうそうないでしょう」
「じゃあ、何が危険なのかしら?」
「誘拐や、暗殺です」
「え???」
隊長さんの口から危険な単語が漏れ出てきた。私の人生と無縁の単語だ。
「私が?暗殺?誘拐?ないと思うけど」
「いえ、今危険なのは姫様です。気をつけてください」
否定した私の言葉を筆頭さんが端から否定していく。隊長さんも危険性の認識をするようにと話を追加していく。
「筆頭殿の言うことは大袈裟ではありませんよ。少し自分の立場を認識した方が良いかもしれませんね」
真面目な顔で忠告される。
自分の立場の認識?
私ほど自分をわきまえている人間はいないと思うけど。
私の言いたいことは顔が表現していてくれたのか隊長さんは苦笑いだ。
隊長さんからすると認識が甘いと言いたいらしい。
「筆頭殿、姫様はまだ理解されておられない様だ。少しお話しをする時間をいただいても良いかな?」
「ええ、お願いいたします」
隊長さんの提案はあっさりと通った。そのタイミングでサロンに着く
「姫様、お茶をお入れいたします。少しお話しをされてください」
サロンの中は広いが暖かかった。差し込む日差しも暖かいが私の気持ちは暖かさとは無縁だった。
私の立場って、どういう事だろう?
私は人質の留学生なのに。他にも何かあるのかな?
離宮をもらったから?それで何か変わったとか?
それが原因だったら離宮は返品したいけど、できるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます