第120話
「それで、何を作ってもらえるかな?」
きた。やっぱりきた。
私の予感はあたった。今日の私は冴えているらしい。いや、わかりきっていたことなのか?言わないはずがないと思ってた。
私は予想通りの言葉に苦笑いが出そうになったが、そこはこらえてみる。
陛下の気の早さがおかしくて仕方なかった。
「陛下、まずはキッチンに慣れませんと。練習してからになります。人に出すものは直ぐに作れるものではありませんわ。特に新しいキッチンでは練習が必要です」
「そうなのか?作る行程は同じではないのか?何か違いがあるのか?」
やはり、自分で料理をしないブルジョワは困る。新しいキッチンの物の場所、コンロの火の当たり具合、新しい鍋の癖なんかがある事を知らないらしい。
まあ、自分で料理をしなければわかる事もないのだろうけど。
作るのを嫌がって断っていると思われるのは嫌なので、その辺を丁寧に説明する。だが陛下には納得できないらしい。
「そんなことを言って。姫。私は供された物にケチはつけないぞ」
はい。そこ。子供みたいなことを言わない。すねない。
そんな事はわかってます。
ただ、出すからにはなるべくちゃんとした物を出したいんです。わかるかな?この気持ち。
私は呆れを隠すことができず、ちょっと半眼になって陛下を見てしまった。
「陛下。私だってそのくらいの事は理解しています。でもですね、陛下にお出しするのにおかしなものは出せないんです。そこはご理解頂きたいです」
「そうなのか?」
はい、そこ。口を尖らせない。
明らかな不満顔をしない。
早く食べたいのにって顔をしないの。
変なの出せないって言いましたよね?
困った、どう説得しようかな?
作れるものと、人に出せる物の違いなんだけどな
「陛下、あまり無理を言うのも如何なものかと。練習してから、と仰っているのですから、日にちを決めてその日を楽しみに待たれるのは如何ですか?」
助けが来た。ありがとう。隊長さん。
いつも、助かってます。
さっきまで軽く睨んでいたことも忘れ、私はその話に喜んで乗っかる事にした。
「陛下。私もそのほうが安心ですわ。その日に合わせて練習ができますもの。それに何かご要望はありませんか?それも練習しておきます」
「そうか?」
陛下は希望のものを作るという事で、そちらに興味を持っていかれたようである。
何にするか思案顔になっている。
何が来るかな
提案したが私もドキドキである。
難しいものが来たら、ソレこそ特訓が必要だ。
「そうだな。でも姫。私は姫の料理はこの間のものしか知らないからな。何が良いと言われても難しいな」
「それは確かにそうですね。では、肉とか魚とか卵とか。素材ではどうでしょうか?陛下は肉と魚。どちらがお好きですか?それで考えますが」
「なるほど。素材か」
「はい」
私の提案に陛下は更に考え込む。
そう言えば、陛下はもともとなんでも食べる方だった。立場上、好き嫌いは言わないようにしていると隊長さんが言っていた。素材でもだめだったかな?
陛下の特殊な立場を考えていなかった。
私はその辺を心配したがそれは浅はかだった。
陛下は私の予想の斜め上を行っていた。
「そうだな。素材だったら私は嫌いな物はないな。せっかくだ姫のおすすめしてくれたその3つを作ってもらおうかな」
「3つ?」
陛下、私は提案しただけでオススメはしてませんよ。誤解しないでくださいね。
しかも、3つってどう言うことですか?
まさかとは思いますが、私の言った肉、魚、卵。全種類作れとか?
そして、そのまさかだった。
「そう肉と魚、それに卵だ。なんとも楽しそうじゃないか」
その言葉を発すると同時に、発言者は楽しそうに笑いだした。
私は笑い事じゃないけどね。
いや、メニューはあるよ。肉も魚も卵も、全部ある。ただ、練習と消費が問題だ。わたしも毎回食べても良いけど、流石に飽きる。それに隊長さんはともかく、管理番や、商人はしょっちゅうは来れないし。商人はこの離宮になると敷居が高くならないかな?大丈夫かな?来てくれるかな?
この離宮。立派だから一人だったら私でも入るのをためらっちゃうし、それだったら管理番も来にくいかな?後で、隊長さんに相談しよう。
気の早い陛下は次の問題へ移っていた。
「日にちはいつにしようか?一週間後とか?」
「いえ、早すぎます。練習の時間がありません」
本当に一週間後とかないわ。思わず素になって待ったをかけていた。せめて3週間はほしい。一種一週間は見てもらいたい。それにまだ、離宮の中を全部見てないですよ。
私が使う部分を少し見ただけですよね?
この様子ならサロンもサンルームも別にありそうな感じだし。ある程度の場所は知っておかないと離宮の中で迷子になってしまう。
私の方向音痴具合を舐めないでいただきたい(胸を張って言えることではないけど)
私はその事を訴え、陛下との食事会は無事に3週間後に決まった。
全く油断も隙もない。
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