第117話
今日は朝から宰相が離れに来ることになっている。
明日が私の誕生日だからだ。
一日早いが私に誕生日プレゼントを、ということになったのである。
そのために私は朝も早くから支度に追われることになっている。悲しいかな相手が陛下と宰相では無理もないと、諦めているので入浴に始まりマッサージと順を追って支度をしている真っ最中だ。
これ、いつ終わるんだろう?
ていうか、宰相が来るまでに終わるかな?
宰相を待たせられないのに大丈夫なんだろうか?
疑問を胸に抱えながら侍女さんズに身を任せている。今はマッサージの後に基礎化粧をしているところだ。
子供なのに化粧?と思っていたら表情に出ていたらしい。筆頭さんから薄化粧ですから、と先手を打たれてしまった。全てをお任せするしかないようだ。
出来上がった私は可愛いよりも綺麗な感じを目指したドレスのセレクトだ。
Aラインのスカートではなく少しタイトな感じのデイドレスだ。ピッタリとはしていないので歩くのに窮屈さは感じない。レモンクリームで季節に合わせてしっかりと手首まで覆った長袖だ。この上にストールを羽織れば寒くはないだろう。
そうこうしているうちに、なんとか支度が終わり宰相を迎えることが出来た。
客間にいる宰相の元へ向かう。
「今日はお時間をいただきまして」
客間に入ると同時に宰相から挨拶を受ける。
私のために忙しい時間を割く事になった宰相の方が大変なはずだ。そう思うこちらの方が謝りたい気分になる。
「こちらこそ、宰相も忙しいのに申し訳ないわ」
「いえ、陛下の指示ですので。内容的にも他のものに任せるのも難しいので」
「?」
私はその言葉にクエスチョンマークが浮かぶ。
どうして他の人に任せるのが難しいのだろう?私にプレゼントを渡すだけだよね?陛下セレクトだから任せられないとか?
私は疑問を胸に隊長さんを振り返る。
隊長さんは顔だけはニコニコしているが、目が笑っていなかった。こんな時の様子は陛下に似ていると思う。さすがは親戚だ。気になることはあるが聞かない方が賢明なようだ。
出てきた疑問をゴックンして私は宰相に向き直る。
陛下は宰相を迎えに、と言っていたのでどこかに行くのは間違いないはずだ。
「宰相、どこへ行く予定なのかしら?」
「出かける、というほどの距離ではありませんよ。城内なのは間違いないので。ただ、ここからは距離が少しあるので案内が必要です。そのための私なので」
「ありがとう。では、お願いするわ」
宰相はソファーから立ち上がる。私もそれに合わせて宰相の後に続いた。エスコートは隊長さんだ。
他の護衛騎士さんはしないが、隊長さんだけはエスコートしてくれる。筆頭さんもそのことについては何も言わなかった。隊長さんの身分ならOKなのだろう。そのことはわかるが職務中は良いのだろうか?マナー的に厳しい筆頭さんが何も言わないなら、この国では問題ないのかもしれない。微妙な問題は解らないので私は放置している。確認して蛇が出てくるのはいただけないのだ。
隊長さんのエスコートを受けつつ離れから出る。
最近は図書館へ行くことや散歩をすることも増えたので離れの周囲は見慣れている。
私は特に目新しさを感じることもなく歩いていたが、だんだん知らない場所へと歩いているのがわかった。
何処だ、ここは?
周囲を見回すが解らない。私は来たことのない場所を歩いていた。
このさり気なさ、誘拐されても私は気が付かないかもしれない。自分の呑気さに驚きつつ隣の隊長さんを見る。視線で場所を問いかけると返事があった。
「城内ですよ。姫様はコチラに来られたことはないので、見慣れないと思います。どちらかと言うと本宮に近い場所ですね」
「離れからは距離があるのね。初めてだわ」
「こちらに用がある事はありませんからね」
隊長さんの解説で納得だ。図書室や庭からも離れた違う場所なのだろう。
案内をしてくれている宰相に、まだかと催促はできないので話ができる隊長さんに話しかける。ここに筆頭さんや侍女さんはいないので後から注意される可能性は少ないだろう。
私が離れから出るときは必ず侍女か筆頭さんが付くのに今日はいない。
なぜだろう?隊長さん以外に付き添いがいないことを、後から気がついたので確認することもできなかった。ついでだ、いま隊長さんにこっそり聞いてみよう
「ねぇ、なんで筆頭さんたちがいないのかしら?理由を知ってる?」
小さな声で聞いてみる。
「聞いてますよ。後からわかります」
私だけが理由を知らないらしい。
今回の誕プレはかなり秘密にされているようだ。
「もう着くかしら?」
「そうですね、そろそろかと」
隊長さんの返事に安心する。
私の目の前には建物が見えてきていた。どうやら目的地はその建物らしい。
オフホワイトの綺麗な建物だ。距離があるので正面はしっかりと見えている。シンメトリーで柔らかい印象を受ける建物だ。本宮の一部、と言うよりは小さ目の離宮のような感じだ。
「綺麗な建物ね。どなたかの離宮なの?」
「あちらで陛下がお待ちです」
宰相は私の質問には答えず陛下が待っている事だけを告げてきた。
馬車寄せの所に陛下が立っていた。
私はそれを見た瞬間、何となく、本当に何となく嫌な予感がした。
そして、その予感は当たっていると思う。
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