第111話

私は部屋の窓を開け、空気を入れ替える。


陛下との会食も無事に終わり目的を果たした私は、気持ちの良い朝を迎えていた。




天気は晴天、ヒンヤリとした空気が気持ちいい。




「おはようございます」


朝日を浴びていると、護衛騎士さんから朝の挨拶をされた。この国に来て初めての事だ。


あれこれあった事で、私の周囲も変わってきている。


侍女さんたちや護衛騎士さんたちとも良い関係ができ始めている。この関係を続けながら更に良い関係にしていきたい。


そう思いながら、挨拶を返す。


筆頭さんがいたら頷くだけで良いと言われそうだが、人間関係に挨拶は大事だ。


見えないところでは自分の方法で挨拶をしたいと思っている。




「おはよう。気持ちの良い朝ね。昨夜はご苦労さま。みなさんのおかげでゆっくり休めたわ。ありがとう」


「あ、いえ、あの、自分たちの仕事ですので」


「そうかもしれないけど、私が安心して休めるのは皆さんのおかげだもの」


「あ、はい、あ、違う」




私の返事が予想外だったのか、護衛騎士さんを困らせてしまったようだ。




お礼を言いたかっただけなのに、申し訳ない。


でも、せっかくなのでもう少し護衛騎士さんとお喋りをしようと思ったら時間切れのようだ。




「おはようございます。姫様。そのようなお姿で外にお出ましになるのはよくありませんわ」




筆頭さんの登場だ。


声の方向を見るとピシリと侍女服を着込み、マナーの教科書のような立ち姿の筆頭さんがいた。


文句のつけようがない姿勢である。




言い訳をすればよいのか、無かったことにするべきか、私は迷い結局この一言を彼女に投げかける。




「おはよう。良い朝ね」


「おはようございます。姫様がそのお姿で外にお出ましにならなければ、気持ちの良い朝だと思いましたわ」


爽やかな朝には似合わない、ピリッとした返事だ。




まぁ、確かに今の私の姿は褒められたものではないだろう。なにせ寝起きのまま、つまりはパジャマ、寝間着のままだ。淑女としてはありえないだろう。


マナー的にもアウトな事は理解している。


これは気をつける宣言の一択しかない。先に認めてしまおう。その方が問題が少なくなる気がする。




「そうね。確かに褒められる姿ではないわ。気をつけるわね」


「はい、ご理解頂いてありがとうございます」




筆頭さんは私の方から気をつける宣言があるとは思っていなかったのか、無表情の中に瞳が一瞬開いたのが見えた。彼女の中にある私の評価はどうなっているのだろうか?


聞いてみたい。


私は自分に非があれば謝れる人間でありたいと思っているので、そこは知っておいてもらいたい。




「私が謝るのは意外だった?」




この問いかけが意地悪に聞こえないことを願いたい。


人によっては嫌味に取れる可能性もあるので可能性を潰すために追加で発言をしておく。




「せっかく教えて貰うのに否定ばかりしていては、私は成長できないわ」


「ご理解いただけて嬉しく思います」


筆頭さんはそれだけを言うと朝の支度を促してきた。


どうやらこの話はここで終了らしい。


しかし、今後のマナー教育やダンスの練習が始まることは確定している。いつから始まるのか誰がどんな先生が来るのかぜひ、切実に知っておきたい。


変な人だと嫌だし、学校に行きたいと言ってはいるけど自分の自由な時間も少しは欲しい。


特に料理をする時間がなくなるのはいただけない。そんなことになれば、私は暴れるかもしれない。そのくらい今の生活環境を気にいっているので、大事にしたいと思っている。




マナー関係やダンスの練習、調整は筆頭さんの権限なのかな?それなら予定を確認したいけど


日程についてはなんの話もなかったから聞いてみた方がいいのかな?




私は朝の支度をしながらはたっ、と気がついた。


今までは制限された中で生活していたので外部との調整や連絡は一切必要なかった。だから気がつかなかったのだが。




連絡とか、調整の確認とか誰が決めて、誰に確認すればいいのかしら。それに費用はどうなるんだろう。品格維持費からでいいのかしら?




デイドレスに着替えながら考え込んでしまう。


自宅で生活していれば、普通に両親が決めて執事が取り仕切る。私の現在の環境を考えると執事はいないから、やっぱり筆頭さんかな?どう考えても隊長さんじゃないよね。いろいろ知ってはいるけど、立場上は護衛騎士さん達の隊長だもんね。その辺まで知っていたら普通に越権行為だわ。まあ、あの隊長さんなら普通に知ってそうだけど。聞いたら教えてくれるかな?


とにかく一度は筆頭さんに聞いてそれから考えようかな。


私はそこまで決めるとダイニングに移動する。




朝食は厨房から運ばれていた。


朝だけは用意してもらう事になっている。


メニューはパンとオムレツ、スープにサラダ。後は紅茶だ。こちらの一般的な朝食になる。


だが内容は普通だが味の改善は見られていない。


ボソボソのパンで固く柔らかくしないと食べられない。それに味の薄いスープ。スープストック自体が美味しいものなので食べられるのだが、なんでこんなに味がしないのかが不思議で仕方がない。


オムレツも柔らかいオムレツなのだが、中はふんわりではなくベシャとしている。


ここは王宮で料理も良いものが用意されているはずなのに、と思ったが来たときからこの調子だったのだ。だからこそ私は陛下にキッチンをお願いしたのだ。いまさらな事だった。


自分の食べる分だけでも改善できたのだから、文句を言うのは筋違いだろう。


私は結論を出すと筆頭さんに今後の確認をすることにした。

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