第106話

私を見ていた陛下は、何かを思いついたのかニヤリと笑う。


ちょいワルおやじのようなニヤリ笑いだ。




「では姫。私を納得させられるものはあるかな?今までのものは美味しかった。珍しい物だったし。楽しくもあった。だが、これ以外にも新しいものがあるか教えてほしい。それなら自信を持って許可を出せるしな。どうかな?」


「陛下、楽しみは取っておくほうが良いのではないですか? 今から初めての料理を出してくれるそうですよ。姫様に料理の許可を出しておけば、また作ってもらえる機会もあるはずです。違いますか?」




私が答えるよりも早く、隊長さんが陛下に進言した。陛下は隊長さんが答えるとは思っていなかったのだろう。


何となく邪魔をされたと感じたのか『お前が答えるな』と言いたそうな視線だ。


眉間には、紙が挟めそうなほどの縦シワが寄っている(ちょっと怖い)


対する隊長さんはどこ吹く風、で涼しい顔だ。気にしている様子は見られない。


私が言いにくい事を代わりに進言してくれているみたいだ。




隊長さんは、後で怒られたりしないかな?若干心配。


それに今から納得させられるもの、と言われても。


今から出すのも初出しだけど、それで良いのかな?


納得の基準ってなんだろう?美味しい?珍しい?初めてのもの?


基準をハッキリさせてもらわないと、判断しにくい。陛下に確認したほうが良いかな?




「陛下、よろしいのではありませんか?姫様は今日、ずっと私達の相手を一人でされていましたよ。『お礼を』と仰ったのは陛下です。それを今から試すような事はどうかと思いますが?」




宰相、ありがとう。


なんか嬉しい。そして、隊長さんと宰相の発言が逆な気がするのは気のせいだろうか?


隊長さんが実利で、宰相が心情的な事で陛下を説得してくれるとは思っていなかったけど。二人に全面的に助けてもらえてよかった。


後は陛下の判断だけだ。


どう判断するのか、私にとって良い判断であることを願いたい。




陛下は宰相の言葉に無言にならず『確かに』と肯いていた。


納得出来る進言だったらしい。




「まぁ、確かにそうだな。『礼を』と言ったのは私なのに、試すのは良くないな」




その言葉に私の方が驚いた。確かに私に取って良い判断であることを願っていたけど、こんなにあっさりと聞き入れられるとは思っていなかった。




陛下は人の進言を、受け入れる方向性の方だと思ってはいたけど、宰相の進言をここまであっさりと受け入れるとは思ってなかったけど、そのことに感銘を受けた。


陛下の立場なら、不愉快さが先にたつことも考えられるはずだけど、そんな様子は一切見られなかった。




それは人の意見を聞き入れられる度量や、寛容さがあるという事だ。


助言を聞き入れられる寛容さは私も見習いたいと思う。




人から助言を貰えるという事は、何よりもありがたい事だし、人は価値のない人間、興味のない人間には助言はしない。


そう思うと陛下は部下に慕われ、『進言は一考してもらえる』との信頼感と関係性があるのだろう。でなければ、宰相のこの発言はなかったと思う。


それは隊長さんも同様だ。いくら親戚でも良い関係性がなければ、私との約束があっても実質『考え直せ』とは言いにくいと思う。 




ちなみに、私は国元の親戚である大臣達に考え直せとは言いにくい。留学の時は必死だったからぶち上げたけど、本来の私は大人しいのだ、あんな大胆なことはそうそう言えないだろう。


私個人はそう思っている。




とにかく、この様子では問題なく許可が降りそうだけど、確認はどうしたら良いだろう?


この感じで私が『じゃ、問題ないですね。ありがとうございます』とは言いにくい。


隊長さんが聞いてくれないかな。




私は願いを込めて隊長さんをチラ見する。


アイコンタクトに気がついてもらえるかな?と思っていたら、通じたようだ。




「では、陛下。姫様は料理をこのまましても問題ないですね?」


「ああ、そうだな。約束しよう。このままで良い。筆頭には私から話をしておこう」


「ありがとうございます。陛下。」




私は陛下の最後の言葉に被せるように、お礼を伝えていた。気持ち声が大きくなったのは見逃してもらいたい。言質が取れたのだ。このままなかった事にされたくはない。お礼を伝えていれば、取り消しはできないだろう。


それに、本当に嬉しいし安心した。泣きそうなほど嬉しい。




これで、料理を続けられる。


良かった。




「本当に、本当にありがとうございます。陛下」


「嬉しそうだな。姫」


「もちろんです。何よりも嬉しいです」




私の返事は短いものだったが、満面の笑みを浮かべていた。何よりも嬉しさを雄弁に物語っていたと思う。


私の機嫌の良さに乗せられたのか、陛下もまんざらではなさそうだ。




誰であっても悪口を言われるよりはお礼を言われる方が気持ちが良いのは間違いない。




わたしもお礼を言われる方が好きだし。


まあ、私は人のお世話になっていることが多いから、お礼を言う事の方が多いかな。


今日のことも隊長さんや宰相にお礼をちゃんと言おう。


今後のためにも大事なことだわ。


私は許可をもらえた喜びを噛みしめながらそう思っていた。

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