第107話

私は許可が出たことに満足した。


そして、その許可が出るために協力してくれた隊長さんと宰相にも心からの感謝を(後で)伝えたい。




私は締めのメニューに取りかかることにした。


最後の締めは焼きおにぎりとおみそ汁。デザートのフルーツヨーグルトだ。




ピザの次に焼きおにぎり?とも思ったが、呑んだ後の最後は米で締めたい、という私のマイルールに乗っ取り、最後は米にした。


そして米と来ればみそ汁でしょ、という法則(?)に従い、みそ汁となった訳である。


ちなみにデザートのフルーツヨーグルトは、散々重たいものを食べたので、軽いものが良いだろうと思った事と、ヨーグルトは地方にしかなく、城下では食べられていない(商人情報)とのことだったので、城でも珍しいと思い用意したものだ。隊長さんにも食べたことがないことを確認しているので間違いないだろう。


決して私がデザートの手抜きをしたいと思った訳ではない。


そこは力強く否定をしたいと思っている。




「では、あらかた食事も終わったようですので、最後のお料理、というほどのものでもありませんが、お出ししたいと思います。先ほどお伝えした初めてお見せするものです。少しお待ちください」


「姫、どんなものなのだ?」


「とても簡単なものですわ。でも、簡単なだけに逆に思いつきにくいものかもしれません」




それだけを伝えてキッチンに戻る。


テーブルでは隊長さんや陛下達が、どんなものか想像の羽を広げているようだ。何かを話し合っている声が聞こえて来るが、今のところ答えを教える気はないので無言が1番だ。




そのせいか、質問の矛先は隊長さんに向かっているみたいだ。そうだろう。私といる時間は一番長いのだ。


何か知っていると思われるのは当然な気がする。


しかし、今回の焼きおにぎりについては何も教えていないので、情報はない。質問に答えられなくて大変な思いをしているのは間違いないはずで。


頑張って、としか言いようがなかった。




私は作っていたおにぎりを保冷庫から出す。


おみそ汁は事前に作っていたので温めるだけで問題ないはずだ。




焼きおにぎりは出汁醤油とお味噌に出汁を溶いたものと二種類用意する。


タレで焼くので少し固めに握ったものだ。


焼き網は細かい網目の物がなかったので、粗めの中でも目が詰まっている網を二枚ずらして重ね焼く予定だ。初めての事だが少し遠火になるので焼きやすいと思っている。


焼きおにぎりは直前に思いついたので、練習する時間がなかった。そこだけ悔やまれる。


当然(?)料理用の刷毛はなかったので、絵画用の新品の筆を用意した。これでタレを塗る予定だ。




中火で少し網を焼き、弱火に移す。


その上におにぎりを慎重に置いた。


少し焼き色が付くまで両面を焼く。その後、両面にタレを軽く塗り焼いていく。


あまり多く塗るとおにぎりが割れてしまうので要注意だ。今度はタレが少し焼けた匂いがするまで焼くのだが、何回も動かすと割れてしまうので、裏返す回数を少なくしながら焼く必要がある。これを数回繰り返し味を染み込ませていく。


焼く作業はジッと我慢の子になる必要があるので短気な人には向かない作業の一つだと思っている。




少しずつ醤油の焼ける匂いが広がっていく。この手の匂いはお腹が一杯でも食欲を刺激する匂いだと思う。


その証拠に陛下達の落ち着きが無くなって行くのは想定内だったが、護衛騎士さん達もこちらをチラチラ見ている。


先ほどの揚げ物の音に反応しているときと、今ではこちらの観察の仕方が違う気がする。




食事会が始まってから、騎士さん達はずっと立ったまま、人が食事をしているのを見ているのだ。それが仕事とは言え辛いものがあると思う。私ならお断りしたい仕事No.1に数えると思う。


騎士さん達は仕事だけど、次の機会に宰相にもお礼をしたいから何か一緒に考えた方が良いかな?




お握りとお味噌汁の様子を見ながら検討する。


管理番や商人、隊長さんの三人組トリオに相談してみよう。




そんな事を考えている間におにぎりが焼けていた。一つ分解されてしまったのがあるので、当然の成り行きで、それは私が食べることになる。お客様に分解されたものを出すわけにはいかないのだ(キッパリ)。




お味噌汁と焼きおにぎり、フルーツヨーグルトを一セットとしてテーブルへ運ぶ。


隊長さんは空気を読んでくれて、残りの分を取りに来てくれた。


毒味役だからキッチンに入るのはアウトな行為だが、なし崩しになっているのか、陛下達が何も言わないので、このままで行くことにした。




私からわざわざ言うことでもないだろうしね。




「お待たせ致しました。こちらは焼きおにぎりとお味噌汁。デザートのフルーツヨーグルトですわ」


「本当だ。待ち兼ねたぞ、姫。良い匂いがして落ち着かなかった」




陛下が少しからかう様に言ってくる。




褒めてもらえるのは嬉しいけど、陛下こんな発言をしちゃって大丈夫かしら?


忘れそうだけど、この方は大陸の支配者。かなり怖い方のはずなんだけど。


この食事会の間でかなり印象が変わって見えているのは、私の気のせいではないはず。




ホクホク顔でフライドポテトとかピザ食べちゃってるし。


言い方は悪いけど、近所の気の良いおじちゃんに見えて仕方がないわ。


威厳は執務室に置いて来たのかもしれない。うん、きっとそうだわ、そんな気がする。そう思う事にしよう。




最後に、焼きおにぎりは気に入ってもらえたらしい。


私はもう一度キッチンに立つことになった。




飲み会の締めは誰にとっても大事らしい、私は再認識する事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る