第101話

「どうなのだ?」


「もう良いですよね?」




陛下と宰相が隊長さんに『早くしろ』というように急かしているのが聞こえてきた。


私が唐揚げをお皿に盛っている間の事だ。


隊長さんの真面目な声が返事をしているのが聞こえてくる。




「いえ、まだはっきりしないので。もう少し食べて確認しませんと。お待ちください」




そういいながら、次のポテトを口に運んでいた。




私はその返答を聞いたとき、空いた口が塞がらなかった。


正直にいうと頭痛がした。




何が分からないと言うの?


そんなことをしていたら、ポテトが冷えちゃうでしょ。何を考えているのかしら、隊長さんは。


まさか、ポテトを独り占めする気とか?


まさか、そんな事はしないよね?子供じゃないし。




そのことに思い当たった私は、どうしたものか悩む。


隊長さんは、毒味役(一応?)だ。私が発言をして何かの合図と思われても困ってしまう。でも、せっかく温かい物を作ったのに、冷えてしまっては意味がない。




私はそこまで考えると、揚げ物にお代わりが必要な可能性も考慮しておく事にした。


しかし、宰相は一枚上手(?)だった。




「隊長だけで確認できないなら、私も毒味をしましょう。陛下はしばらくお待ちください」




宰相は(キリッとした表情だった)そういうと、隊長さんと同じようにポテトを摘み口に入れる。


その瞬間驚いたように小さな目を大きく開く。それに陛下が反応した。心配になったようだ。




「大丈夫か?どうしたんだ?」


「陛下。隊長の言うことは正しいようです。これはもう少し食べてみないとわかりません。陛下はどうぞお待ちください」




宰相は真面目な顔で言いきった。覚悟を決めたようにも見えなくもない。




逆にその言葉にポカンとなる私がいる。同時に心配になった。




どういうことなの? 本当に何か問題があったのかしら?




キッチンの中からテーブルの方を観察する。




心配する私と陛下を置き去りに、隊長さんと宰相は次々とポテトを口に運んでいくのが見えた。


着々と皿の上のフライドポテトは二人の口の中に消えていく。そうなると必然的に皿の上は寂しくなっていく。




陛下の分、なくなるんじゃない?




陛下も同じ心配をしたのだろう。若干切れ気味に宣った。




「もう十分だ。お前たちを見ていて問題ないのはよくわかった」


それだけを宣言するように言うと、ポテトにフォークを(流石に手で摘むのは抵抗があるようだ)伸ばす。


それを見た宰相と隊長さんは残念そうな顔をした。




やはり独り占めする気だったようだ。


だが陛下を止めることはためらわれるのか、邪な心があったから後ろめたいのか、何も言わなかった。




「良い味だ」


陛下も同じように食べだすと、当然ポテトはなくなっていく。  




これは私の分はないな。


試食会の再現だろうか?




私の心境は諦めの境地になった。


それに唐揚げとピザを出すとき、お酒も変えようと思っていたけど、そこまでの余裕があるかな?




3人で食べ始めたので、まずは唐揚げをテーブルに出す。


隊長さんが私を見たので、毒味は待ってもらった。


「次の料理を持ってくるので」


「わかりました」




次に出されるのが、ピザだとわかったのだろう。隊長さんは大人しく待ってくれた。




「これは何かな?」


「唐揚げと言います。鳥肉を味付けして油で揚げたものになります」


陛下は興味深げに唐揚げを見るが、宰相はピザの匂いが気になるようだ。




「香ばしい匂いがしますね。キッチンからですか?」


「そうですわ。今そちらにお持ちします。ご覧になっていただけたらわかりますわ」




私は焼き立てのピザを持って行く。


ピザは大皿に乗せていて、それをテーブルの真ん中に鎮座させる。


なかなか迫力があると思う。




隊長さんを除く二人が、子犬のようにクンクンと鼻を鳴らす。


私はその様子に笑いたいのをこらえるのが大変だった。


二人ともお行儀はお出かけしているようだ。




「こちらの大皿の料理は、ピザと言います。小麦粉の生地の上に野菜やチーズを乗せて、高温で焼く料理になります。今から切り分けますね。刃物を出すので、驚かないでください」


最後の一言は護衛騎士に向けて言った一言だ。




陛下の前で刃物は厳禁だとわかってたけど、今回は妥協した。目の前で切ることに意味があるからだ。




私は宣言したどおりナイフを出す。それを見た護衛騎士は一瞬目を凝らし、動ける体勢を取る。




「切り分けますね」




わざと一動作、一動作に一言を付け加えていく。誤解を産まないためだ。




大皿のピザに刃を入れる。はじめはサクッと、下の生地は少し切りにくい。刃を揺らし切れ目を入れていく。3人の視線は私と同時に動く。刃を動かすたび、次の場所を切る度に顔も動いていく。 




途中、チーズが少し伸びたり(ピザあるある?)しながら切っていった。


全部を切り終わると同時に隊長さんが手を伸ばしながら一言。


「では、私から」




毒味の役得、と言わんばかりに、止められる前に動いていた。




「「あっ」」




二人の目の前で、パクリ、といった。


宰相は間に合わなかった、と思っているのか少し唇を噛んでいる。


何となく悔しそうだ。




「はつい」




隊長さんは熱いと発音できずにいた。それでも口を手で覆いながら咀嚼しているようだ。




しかも目の前にあるピースからではなく、チーズの多い部分を取っていた。


溶けているチーズが熱いのは当たり前で、『ポテトひとり占め事件』があって少し時間が経っているが、焼き立てに近いピザは熱いはず。


同じ過ちを繰り返すとは。なんとも。


一言、言いたい。




学習しなさい、学習を。


何回目?


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